第八十話 勇者と組み分け
――ドンッ
ルークは、ニヤリと白い歯を見せながら大きな木箱をテーブルに置いた。レオンは、呆れた様子でルークの背後に視線を移動させた。
「もちろん、まだ、あるよ。――たっくさん作ったから」
ルークの言葉にレオンが視線を戻すと、彼は嬉しそうに目を細めてレオンを見ていた。
ルークの背後では、ロイドがちょうど最後の木箱を積み上げ終えているところだった。ロイドは、きっちりと積み重ねられた木箱をやれやれといった表情で叩いた。彼の傍らの木箱はどっしりとかなりの重量感がある。
「よく、そんな量の回復薬を持ってこれたな。」
キースが唸った。
「クレアさんですよ。彼女、ルークの性格を見越して予定より一回り大きな船を手配してくれていたんです。」
ロイドが言いながら隣のリチャードを見た。リチャードは大きなカバンを抱えながら部屋に入ってきていた。
「何だかんだ俺の道具も多くなったからな。助かったよ。」
リチャードは、まだ下に俺の荷物が残っているから先に始めていてくれとすぐに踵を返して部屋を出て行った。
「――と言うことで、僕の仕事は終わったから、明日から僕もフィーと一緒にスラムの巡回ね」
ぴょんと飛ぶようにしてオフィーリアの隣に寄り添ったルークは、オフィーリアの手を取った。彼女の手をブンブンと振りながら、「よろしくね、フィー」と幸せそうに微笑んでいる。
曖昧に頷いたオフィーリアは、少し頬を染めながらおずおずと目の前を見上げた。彼女の視線の先には、仕方ないわねと呆れた表情を浮かべているマダムクロッシェと彼女の後ろで忍び笑いをしているキースがいる。
キースは、オフィーリアと視線を交わすと眉尻を下げて肩を竦めながら口を開いた。
「リア、これは仕方ないぞ。ルークと巡回をするしかない。これだけ回復薬があればもうルークの仕事は、終わったようなもんだ。――それにしてもお前、よくこれだけの量を作ったな、どうやった?」
感心した様子でルークの背後の木箱を眺めたキースは、彼に尋ねた。
「ふふん。もうみんなの考えはお見通しだからね。また、『お前は回復薬の調合な』とか言いながら、フィーと別行動させる予定だったんだろ?
だから、そうならないように、毎日寝る時間を削って地道にため込んでいたのさ。
実は、刺繍の仕事も断っていたんだ。だって、僕の刺繍、人気が出るほど、うるさい女が群がってくるんだよ。面倒が増えるだけ。
それに、船の中でも十分に時間があったからね。余裕だったよ。」
ルークは、このくらい大したことないよと自慢げに口角を上げた、それから、マダムクロッシェの隣に立っている人物にすっと視線を移した。
「――それに、今回の帝国遠征では絶対にフィーを一人にしないって決めていたんだ。フィーが帝国に行くって決まった瞬間からいつもの倍以上の回復薬を作っていたんだよ。フィーを一人、帝国に野放しにするなんて――今度は、どんな男がフィーにくっついてくるのか、想像しただけで恐ろしい。――フィーは、僕の恋人だからな。誰にも手出しはさせない。」
ルークは、目の前の男性をキッと睨みつけた。
男性は、ふっと笑みを漏らしながら、「俺らのために、勇者ご一行様がいらっしゃると聞いていたから、どんな大層な奴らが来るのかと思ったら――、なかなか面白い奴らじゃないか――。
勇者って、こんなに可愛らしかったんだな。その纏わりついている魔法使いだかもなかなかできそうな奴だし――ギルドを頼った甲斐があったな。」
満足げに頷いた赤髪の男性は、琥珀色の瞳に褐色の肌で頬には傷があった。鍛え抜かれたその筋肉は、しっかりと引き締まっており、彼の鋭い目つきに、より精悍さを与えていた――。
マダムは、彼の満足そうな反応に柔らかな笑みを浮かべながらライリーに扇子を向けて言った。
「こちら、ライリーさんよ。彼は、貴方たちが巡回する地区を束ねているから、リアとルークは彼の指示に従ってね。」
マダムクロッシェは、それからイーサンを見た。
「イーサン、貴方はいつも通りロイドと組んで巡回してちょうだい。貴方たちへの指示は――」
マダムクロッシェは、ライリーに視線を移した。
「お前らには、俺の部下を一人つける。現地に行ったら紹介するよ。」
イーサンとロイドは、ライリーの言葉に頷いた。
「じゃあ、ノエルとレオンは、診療所や孤児院を回って被験者の治療を開始してちょうだい。ルークの回復薬も忘れずに持って行ってね。」
「お前らの案内訳も、そろそろここにつくはずだ。場所によっては、高齢の患者も多いから、彼らには慎重に対応を頼む。」
ライリーは、ノエルとレオンを見ながら言った。ノエルとレオンは、わかりましたと表情を引き締めた。
「俺は、誰からも見放されたこの地区で生まれ育った。ここは、フォーリーの手先にも、貴族にも、平民からも良いように扱われている底辺の地区だが、俺は、ここに住んでいる奴らを家族だと思っている。彼らが安心して町を歩けるようにこの地区を変えていきたい。そのために、お前らの力を借りたいと思う。」
頼むと頭を下げるライリーにオフィーリアたちは、真剣な表情で頷いた。オフィーリアは、ルークの手をぎゅっと握り締めた。




