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第六十七話 クレア、考察す

「これを見ておくれ――」


 クレアは、テーブルの上に大きな地図を広げた。


 どれくらいの住民がお盆を聖鋼に変化させることができるのかという調査をクレアが始めてから一週間がたち、平民街に住んでいる住民のほぼ全員の結果が出揃った。


 オフィーリア、ルーク、レオン、ロイドは、クレアの説明を受けるためにギルドの食堂に来ていた。


 彼らの他に、武器屋と防具屋の老主人たち、雑貨屋のマリア、紅茶屋のバート、アーチャー、シンシアもこの食堂に集まっている。


 クレアを囲むようにして真剣な表情で地図を覗き込む面々に、クレアは、口を開いた。


「この丸印が、今回の調査でお盆を光らせることができた者たちが住んでいるところだよ。」


「この色の違いは、なんです?」


 地図に書かれている丸印の色がそれぞれ違うことに疑問を抱いたバートは、クレアに尋ねた。


 丸印は、赤、橙、黄の三色に色分けされていた。


「赤色は、お盆を高純度の聖鋼に変えられた人の家につけた印だ。」


 バートの質問に、レオンが答えた。彼は、三枚のお盆を手にしていた。机の上には、オフィーリアの聖剣が置かれている。レオンは、それぞれをみんなに見せながら説明を始めた。


「俺は、昨日、住民が光らせたお盆に含まれている聖鋼の量を調べた。まあ、調べるといっても、正確に数値をだすとかそういう技術はないから、鍛冶屋(おれら)が生成した聖鋼と比べてどの程度差があるかっていうざっくりとした感覚なんだが、とにかくそれを三種類に分類した。赤は、高純度。最も聖鋼に近いものだ。橙と黄色は、それより劣る二番目と三番目。」


 レオンは、机にお盆を並べた。それぞれのお盆の端には、赤、橙、黄色の小さな印がつけられていた。


 お盆を見比べたシンシアが、ううんと唸り声を上げる。「素人には、全然見分けがつかないな。」と、彼は、顎に手を添えた。


「そうだな。見た目は、全部同じだからな。それに、今は、俺の感覚だけでしか判断できていないから、例外ももちろんあるかも知れない。

実は、今朝、山で何匹か魔物を生け捕りにして来たんだ。

これからロイドと一緒にその魔物を使って、このお盆がどれくらい魔物に影響を及ぼすことができるのか、確かめようとしているんだ。

それで、詳細に数値化して、その結果によってこれからこのお盆をどんな用途に使うのが最適か判断しようと思っている。」


 レオンの説明に、クレアは、真剣な表情で頷くと彼の言葉を引き継いで、

「その調査については、おいおいまた報告してもらうにして、それで、この赤丸の中でも、最も純度の高い聖鋼に変えることができたのが、今日、ここに来てもらった彼らだよ。彼らには、レオンたちの調査とは別に、お盆を聖鋼に変化させる作業をしてもらいたいんだ。もちろん、報酬はきちんと出すよ。」


 クレアが視線を向けた先には、武器屋と防具屋の老主人、雑貨屋のマリア、紅茶屋のバートがいた。


 武器屋と防具屋の老主人は、当然だといった様子で腕を組んでいる。マリアとバートは、困惑した表情をしていた。


「え? 私のお盆にそんなに変化があったの? この間金貨と交換した時に、一通りの説明は聞いたけれど、そこまですごいとは、思わなかったわ――」


 僕もですとバートは、マリアに同意した。驚きを隠せないといった様子でクレアとレオンを見た。


「お前らは、代々あの街路灯を護ってきたろう」


 防具屋の老主人が口を開いた。その言葉を受け、食堂内の視線がマリアとバートに集まった。


 皆の視線に戸惑いながらバートが、

「あ、え、街路灯――。そうですね、僕とマリアさんのところは、代々あの街路灯の保守をする役目が、あ――」


「そうじゃ、あれは初代鍛冶屋が聖鋼で創り出した街路灯じゃ。」


「この橙と黄色の印の家も見ておくれ」


 クレアは、地図を指さした。皆の視線が地図へと戻る。


 マリアは、地図を指差しながら言った。

「――この丸印、全部街路灯を囲むようにして点在しているわ。」


 クレアは、

「そうなんだよ。この橙と黄色の印、街路灯を中心に広がっているだろう。街路灯に近いと橙色、離れると黄色になって――」

そう言って丸印をなぞるように指を動かした。


「お盆を聖鋼に変えることができた人たちって、街路灯の近くにいた人たち......あの、鍛冶屋さんの街路灯、毎晩ずっと平民街(わたしたち)を照らして続けてくれてた。

燃料もなしに、何年も、何十年も、ずっと――、そして、鍛冶屋さんは、私たちに、能力も授けてくれていた。でも、そうしたら――」


 マリアは、そう呟くと武器屋と防具屋に視線を移した。


「わしらは、昔から鍛冶屋の先祖返りと馴染みがある。」


 武器屋の老主人がレオンを見ながら言った。


レオンは、老主人の言葉に頷きながら、

「俺ら鍛冶屋の先祖返りは、聖鋼から武器や武具を創りだすために代々、彼らの世話になってるんだ。だから、彼らが使っている道具には、聖鋼が染みついている。」


 レオンの説明にクレアが頷いた。クレアは、食堂に集まった一人一人をぐるりを見回しながら、

「初代が遺したもの、それは先祖返りの血だけじゃなかったんだよ。彼らは、私らの生活を守りながら、彼らの能力(ちから)も同時に、私たちに託していたんだ。

()()()()()()にすべてを背負わせるんじゃなくて、()()()()()で魔王から島を守る。

それが、初代の願い、私らに託された初代の想いだったんだと、私は思う。

だから、マリア、バート、お前たちも自分らの商売で忙しいとは思うが、どうか、私らに協力して欲しい。

この島を守るために、聖鋼を創って欲しい。」


 クレアの真っ直ぐとした眼差しに、マリアが頷いた。バートも力強く頷く。


 オフィーリアは、隣にいるルークの手をそっと握った。ルークは、震えているオフィーリアの手を力強く握り返した。

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