第二十二話 光らない聖剣と駆け込み令嬢
オフィーリアは、初代賢者が遺した記録を読み始めた。傍らには、小ぶりな聖剣が無造作に置かれている。
ルークが幸せそうな表情でちらちらとオフィーリアを見ながら彼女にぴったりとくっついて、一緒に覗き込んでいる。
「こんにちは。僕、アーサーです。から始まるのね。初代勇者の名前ってアーサーって言うのね。初めて知ったわ。アーサー、それっぽいわ。うん。勇者って感じね。」
オフィーリアは、ふむと呟いてから、初代勇者であるアーサーの記録を読み始めた――。
【初代勇者 アーサー】の記録
えと、初めまして。こんにちは。僕、アーサーって言います。この度は、僕を召喚して頂きありがとうございます。
なるほど。そういうことですか。でも、賢者さんのお話だと、僕、魔王と闘う事になるんですよね? えと、そんな大役、僕で良いんですか? 僕で......大丈夫でしょうか。僕、勇者学園での成績は、下の上と言いますか......正直、僕の成績で、まさか召喚されるとは思っていなくって。しかも、魔王......
はい。そうなんです。通常、異世界召喚されるのは、勇者学園を優秀な成績で卒業した勇者だけなんです。
えと、聖剣ですか? それは扱えますよ。それは、一応、僕も勇者ですから。でも......僕、普通の勇者ですので、聖剣を握りしめた瞬間、いつ何時でもすぐに聖剣をぴかーっと光らせる事は......できません。すみません。
ええ。学園を首席で卒業した勇者はできます。彼らは、優秀ですから。聖剣の輝度も最高レベルに保ったままの状態で、何時間も闘い続ける事ができるんです。でも、僕は、そこまでできなくて.......聖剣が光らないと魔物を浄化できないんですよ。小さな魔物は、この光だけで消滅させることが出来ますし、この光って重要で......。
あ、ありがたい。新品の聖剣を頂けるんですね。よかった。今、僕が持っているのは、ダンジョンで拾ったものだったんで。嬉しいな。新品。
え?! 雷魔法ですか? チートで僕に? 最高じゃないですか?! ああ。マジ、興奮するわ。 あ、すみません、少し取り乱してしまいました。あ、聖剣、今、少し光りました。これ、ここ一瞬ですけど、見ました? ああ、そうか僕には......
はい。獣人さんとペアで前衛ですね。わかりました。僕の生まれて初めての仲間......嬉しいな。マジで。もう一人で、戦わなくていいんだ。本当に嬉しいです!! ありがとうございます――。
「ものすっごく分かりずらいわ。結局アーサーしか喋ってないのよね。この記録は、アーサーの喋ったとこだけを記録したって事よね? どうして、この記録係は、全部を記録しなかったのかしら。全員の発言を記録に残すのは、面倒くさかったのかしら。それに、聖剣って勝手に光らないの? 私が、光らせるってこと? 光らせられなかったら、魔王を倒せないの? 浄化? 全部初耳なんだけど?!」
もうだめ、そう言ってオフィーリアは、頭を抱えるようにしてカウンターに突っ伏した。
「まあ、まあ、フィー、落ち着いて。ロイドとも昨日話し合ったんだけど、フィー、君、学校で魔物を一匹浄化したじゃない。あの時、じゅって焼けるように魔物が霧散したけど、その時確かにブレスレットが光ったよね。それって、君が、ブレスレットを光らせられたってことじゃない?」
ばっと頭を上げたオフィーリアは、ルークを見上げた。
「確かに。あの時、じゅっとなったわ。ぴかって光ったわ。でも、それっきりよ? この聖剣は一度も光ってないわよ。」
そう言ってオフィーリアは、不満そうにして横目で聖剣を見遣った。彼女に倣い聖剣に視線を落としたルークは、聖剣を眺めながら話した。
「そこなんだよね。ロイドも昨日色々と推理してくれたんだけど......僕たち、魔物が現れたらその魔物に反応してブレスレットが自ら光りだすって考えていたでしょ? でも、それは違って、それだけじゃ光らなくって、魔物が現れた状態でフィーの勇者としての浄化の能力が発動したら、そこで初めてブレスレット、この聖剣が光るってことなんじゃないかって、彼は、そう考えたみたいなんだ。」
「私の浄化の能力っていったって、どうやって発動させるのよ。」
ここには、何にも書いてないじゃない。そう言ってオフィーリアは、不満そうにして書物を指でつついた。不貞腐れているフィーも可愛いねと言って、ルークは、オフィーリアの肩にもたれ掛かかり、気持ちよさそうにして瞼を閉じた。全く、どうなってるのよと愚痴をこぼしながらオフィーリアは、天井を仰ぎ見た――。
「ここに、マダムクロッシェさんがいるって聞いたんです!! クロッシェさん! 助けてください!! 私の恋人、元恋人が、別れが!! どうしよう! とにかく緊急なんです!」
小綺麗な服装をした年若い女性が、叫びながら店に駆け込んできた。
同じくして彼女の後ろから、キースを連れたマダムクロッシェも悠然とした面持ちで現れた。
「あらあら、明日から始めようと思ったのだけれど、もうお客さん?」
そう言いながら、マダムクロッシェは手芸店の隅に新しく設えられたテーブルセットを扇子で指した。
「ようこそ、マダムクロッシェ二号店へ。さあ、さあ、貴方の恋のお悩みを私に教えてちょうだい。大好物なの。」
妖艶な笑みを浮かべたマダムクロッシェは、それからゆったりと椅子に腰かけた――。




