第二十一話 賢者の遺した記録
「これが、賢者が遺した記録なのね。」
オフィーリアは、手芸店の店番をしながら古びた書物をぱらぱらとめくっていた。隣には、にこにこと上機嫌なルークが座っている。
賢者マダムクロッシェの脅しが見事成功し、療養中として王宮から解放された彼は、それからずっとオフィーリアにベッタリとくっついていた。
「ルーク、ちょっと近すぎない? それに、その髪色と目の色、全部私と一緒じゃない。変装する必要があるからって、これだと、私達兄弟みたいよ? 逆に目立たない? でも......それにしても貴方の目の色、本当に私の目の色と同じね。よくここまで似せてこれたわね。ぜんぜん違和感がないのよ。これも水魔法の一種なのよね。」
そう言って、オフィーリアは、まじまじとルークの顔を見た。オフィーリアに至近距離で見つめられているルークの顔は、一気に赤くなった。
胸を抑えるようにしながらオフィーリアから顔をそむけたルークは、「ヤバイ、幸せ過ぎる、これが毎日。心臓が持たん。平民最高。お揃い最高。」と小さく呟いて歓喜した。ニヤニヤが止まらず白い歯が何度もこぼれている。
オフィーリアは、ルークが顔を背けてぶつぶつと言ってる後姿を、なんとなく眺めながら、特に気にも留めない様子で書物を指でとんとんと叩いた。ふわぁとあくびをしたオフィーリアは、目に溜まった涙をぬぐいながら言った。
「ルークは、昨日これ読んだんでしょ? レオンとロイドと一緒に。どうだった? どんな事が書いてあった?」
彼女は、気怠そうにしながら頬杖をついた。オフィーリアに向き直ったルークが、また徹夜したの? と咎めるような視線を向ける。
だってと呟くように言って肩を竦めるオフィーリア。彼女の視線の先には、推しカプ一覧と書かれた紙が置かれていた。やれやれと言った表情で、その紙を横目で見たルークは、仕方ないなとため息を吐く。
「マダムが持ってきてくれたその書物って、初代賢者様? 彼が島に来て異世界人を召喚した記録の一部みたいなんだけど、なんていうのかな。賢者様と当時の島の住民って何て言うか、正直すぎるって言うか、ポンコツって言うか。頑張って記録しているっていうのは、分かるんだけどね。」
そう言いながら、ルークは、書物を手に取りぱらぱらとページをめくった。これ見て。と言いながら、彼女にひときわびっしりと文字が書かれた箇所を指さした。
「これは、勇者が召喚された時の記録なんだけど。これね、勇者の発言しか記録されていないんだ。
勇者が召喚された時って、少なくとも、勇者と召喚した賢者、あとこの記録をつけている人? 少なくとも三人はいたはずなのに、この記録には勇者以外の人物の発言が全く記載されていないんだよ。」
そう言って、ルークは書物から顔を上げてオフィーリアを見た。
「それで、この不完全な記録をとりあえず読んだんだけど、どうやら魔物を倒すためには、聖剣を光らせないといけないらしいんだ。」
ルークの話を聞いたオフィーリアは、腰に括り付けてあるダガーナイフに視線を落とした。それは、先日ルークたちとかき集めた聖鋼を使って作られた小さな聖剣だった。
「これ、ぜんぜん光ってないけど?」
オフィーリアは困惑した表情でルークを見上げた。




