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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
最終章 帝国編

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90/100


「良かった…」


『最期に言い残すことはないか』とアイカルに言われたアレシア。

側に護衛が一人もいない状況で殺害予告をされたにも関わらず、アレシアは心底ホッとした顔をしている。そこには、偽りも虚勢も強がりも何もなく、ただただ安堵の空気が漂っていた。


恐怖に泣き喚き、必死に命乞いをしてくる様を予想していたアイカルは、目の前の状況に混乱した。この状況で、そんなことを言う目的も意味もその神経も分からなかった。

思い通りにならない現状に、アイカルは強く拳を握りしめた。だが、焦っていることを悟られたくなく、平然を装った。



「貴女は今の状況を理解されていますか?」


「理解しているわ。貴方は私を狙っているのでしょう?爆発物は嘘ね。自分のせいで臣下が犠牲になることがなくて良かった。きっと彼らは己の命を省みずに私を助けようとしてくれるだろうから。」


アレシアは動揺するどころか、微笑みすら向けてきた。澄ました顔で話すアレシアに、アイカルの苛立ちが増す。



「そんな綺麗事ばかり言いやがって。死ぬ直前まで良い人でいたいのかよ。お前みたいな奴ほんとムカつくわ。」


アイカルの空気は一変し、乱暴な言葉をドスの効いた声で言ってきた。

彼の顔からは微笑みが消え、蔑んだ目でアレシアのことを睨みつけてくる。アレシアはその瞳に、悲しい顔をした。



「私には、綺麗な景色を見せたいって思ってくれる人がいる、そして汚れたものを見せないように配慮してくれる人がいる。だから私は、綺麗に生きていきたいの。そう願ってくれる人のために。他人からどう思われようと関係ないわ。だから貴方も勝手に八つ当たりをしないでくれる?」


「はぁ?お前が俺に命令すんのかよ。何様だ、あぁ?せいぜい綺麗な言葉を並べて幸せに死ね。」


「私の大切な人達が悲しむから、それ以上の発言は慎んでもらえる?貴方も命が惜しいでしょう?」


「だからお前は、俺に指図すんなって言ってるだろうがあああああああああっ!!」


アレシアの言葉に激昂したアイカルは、腰からナイフを取り出した。両手で掴み腰の位置に構えると、真正面からアレシアのことを捉えた。


本気で切り掛かってくると思ったアレシアは、諦めて片手を挙げた。



手が上がり切る前に、アイカルの首元に鞘に入ったままの短剣が投げ付けられた。



「ぐっはぁっ!!!」 


アイカルは首を抑えたまま床に倒れ込んだ。苦しそうに呻き声をあげ、咳き込んでいる。



「アレシア様っ!」


短剣が飛んできた方向からクロエの声がした。

彼女は吹き抜けになっている三階部分から柵を越えて飛び降りてきた。階段を使うことすら煩わしかったらしい。


クロエがアレシアの元に到着すると同時に、柱の影に潜んでいたファニスがアイカルの身柄を拘束した。


呼びに来た憲兵に連れられ一度は外に出たファニスだったが、血に塗れていない様子を確認後すぐに店内へと戻っていたのだ。

イオンが本気で暴れれば血が流れないはずがないと確信を持っていたためだ。




「このような無茶を!無闇にご自身のお命を危険に晒すことはおやめ下さいませ!このようなことをされては、護衛として気が気でなりません。」


クロエは、珍しく大きな声を出し、感情を昂らせていた。

本当は、階下の異変に気付いた時すぐに上階から飛び降りるつもりだったが、アレシアが目で止めていたのだ。

アレシアは、なんとか穏便に済ませようと思ったのだが上手くいかず、逆に煽ることになってしまった。

結局切り掛かってこようとしたアイカルのことを、クロエが阻止することとなったのだ。



「ごめんなさい…でも、クロエがいるって分からなかったらこんなことしなかったわ。貴女がいたから、私はあの場に立っていられたのよ。いつも護ってくれてありがとう。」


「本当に…もう二度とおやめ下さい。私の心臓が持ちません。…ですが、アレシア様のお言葉は大変嬉しゅうございました。」


「あれは本心よ。いつもありがとう、クロエ。」


「勿体無きお言葉にございます。しかし、以後はこのような真似をされぬよう、徹底を宜しくお願い致します。二度目はございませんから。」


「…肝に銘じておきます。」


最後は、どちらが主君が分からない有様であった。




「アレシア!」


アレシアの元にイオンが駆け込んできた。

彼の登場に、アレシアの隣にいたクロエは一歩後ろに下がり頭を下げた。



「無事か?何かされてないか?嫌なことを言われたりしてないか?どんな些細なことでも構わないから、何かあれば言って欲しい。」


アレシアの無事を確認するように、顔や頭などまペタペタと触りながら彼女の体温を感じた。



「駆けつけてくれてありがとう。私は大丈夫よ。クロエとファニスがいてくれたもの。」


何でもないことをアピールしようとイオンに笑顔を向けたが逆効果であった。



「なぜ、クロエとファニスが僕より先にアレシアの元へ駆けつけているのだ。おかしいだろ。夫であるこの僕が一番に駆けつけ、アレシアのことを安心させる役目であるはずなのに…それをあの二人に持っていかれて…一体どういうつもりだ。仲が良すぎるのも困りものだな…そろそろ専属護衛騎士の任を解いて別の者に任せるか。親しくなりすぎないよう、定期的に護衛を変えることも有効な一手だな…」


相変わらず、アレシアへの愛が暴走してるイオンは、口元に手を当てぶつぶつ唱え始めた。いつもの様子に、三人は止めることなく苦笑を漏らしていたが、この場に一人だけ不慣れな者がいた。



「お前!無視すんなよ!どうせ俺のこと殺すんだろ。良いから早くやれよ。俺は命乞いなんてしない。好きにしろ!」


縄で縛られた状態で、アイカルは怒鳴り散らした。

イオンはともかく、アレシアにこんな乱暴な言葉を聞かせたくないと思ったファニスは、物理的に彼の意識を奪うかどうか迷っていた。だが、迷っているうちに先を越されてしまった。



「クロエ」

「畏まりました。アレシア様、失礼いたします。」


イオンの意思を的確に汲み取ったクロエは、アレシアに後ろを向かせると、両耳を手で塞いだ。



「んぐっ!!」


イオンは顔色一つ変えず、見事な一撃でアイカルの意識を落とした。



「アレシア、帰ろうか。」


イオンはアレシアの視界に回り込み、にっこりと微笑みかけた。



「え…アイカル皇子殿下は?これ後処理どうするの??」


「アイカル皇子殿下は心労でお倒れになったから皇宮に運ばせてもらう。ご体調が回復してからこの件の話をしようと思う。この件、僕に預けてくれるかな?」


「もちろんよ。でも一つだけお願い…」


「何かな?」


「殺さないでね。」


「…さすがに帝国の皇子の命を私怨で奪うようなことはしないよ。」


若干言い淀んだイオンに、アレシアは疑いの目を向けた。

だが、手を繋いで甘い顔を向けてくるイオンに絆され、それ以上追及することは叶わなかった。




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