アレシアの頼み事
「随分とお疲れのようですね…」
クロエは、ぐったりと机に突っ伏するアレシアに紅茶を運んだ。
「あれは疲れるって…何度も何度も同じような青いドレスばかり着せられ、降るわ降るわ美辞麗句の言葉達…あれはなんなのよ…帝王学って、そんな熟語ばっかり覚えさせられるの?はぁ…」
イオンとのドレス選びに半日以上も費やしたアレシアは、3日経った今も疲れを引きずっていた。
「アレシア様、ティモン様からお手紙が届いております。」
「さすがティモン!仕事が早いわ!」
アレシアは嬉々として手紙を受け取り、すぐさま便箋を開くと隅々まで目を通した。
「これは、思ったよりも好感触だわ。」
ティモンからの手紙には、協力する意思を示してくれた貴族の名が10個ほど記載されていた。中には、侯爵家の名もあり、彼の人としての信用の高さが浮き彫りとなった。
「こちらは、ファニス様からです。」
クロエは数センチほどの厚みのある書類の束をアレシアに差し出した。
そこには、平民が一月暮らすために必要な最低限の金額、育てた作物でお金を稼ぐためのいくつかの案、投資の目安金額、出資者に還元するまでの想定期間、出資者に還元出来る額の見込み等、国家事業として立ち上げるために必要な情報が全て揃っていた。
「さすがファニス…とつてもなく仕事が早い上に必要以上の情報が揃っているわ。これだけあれば十分ね。」
感心したアレシアは、書類を手に何度も頷いた。
「この、『収入を増やすために価値の高い食物を育てる』ってあるけど、王都では見ない果物とか野菜とかどうかな?もうすぐ帝国に行くんだし、せっかくだから向こうで新種の種を買い付けてくるのもありかも…」
「アレシア様ならそのようにお考えになるかと思い、王都になくて帝国で人気の高い野菜及び果物を一覧にして参りました。宜しければご参考になさってください。」
「な、なんという…私のクロエはさすがね。」
「畏れ入ります。」
「あとは、現地で買い付けるタイミングがあるかどうかね…早速イオンに話してみるわ!」
ーコンッコンッコンッ
「…イオン?」
ゆっくりと少しだけドアを開け、公務の邪魔にならないよう隙間から控えめに呼びかけた。
「アレシア!」
イオンは勢いよく立ち上がると、喜びのあまり、手にしていた書類を床にばら撒き、満遍の笑みで駆け寄ってきた。
アレシアのことを一度抱きしめると腕を離し、よく見せてと言わんばかりに顎に手を添え、顔に穴が空きそうなほど真正面から見つめてくる。
「で?どうしたんだい?」
吐息がかかるほど近くで囁くように問われ、吸い込まれそうな青い瞳に、アレシアは一瞬くらくらと眩暈がした。
全くもって話せる姿勢ではないため、イオンの胸を押し返そうとしたがびくともせず、逆にその手を取られて握られてしまった。
「ちょ…これじゃ話せないんだけど!」
「僕はこうしている方が話しやすい。さぁ遠慮せずにどうぞ。」
見つめてくる青い瞳に、アレシアは緊張のあまり息を止めた。止めて、止め続け、顔が真っ赤になり限界で吐き出した。
「…っぷはっ!!はぁ…はぁ…」
「ははははっ!!」
「もうっ!!!!」
耐えきれず息を吐いたアレシアに、イオンは耐えきれず吹き出した。
「ごめんごめん。アレシアがあまりにも可愛くて意地悪をしてしまった。それで、話はなんだい?」
「もうっ!!」
イオンは笑って謝ると、優しくアレシアの手を引きソファーに座らせた。
アレシアはまだ膨れっ面をしている。
「それで?愛しい僕のアレシア、どうか君の話を聞かせてくれ。」
ようやく機嫌を直したアレシアは、国家事業のために帝国で希少な種の買い付けをしたい旨を話した。
「なるほど。それは面白いね。向こうで案内してもらえるか手紙を出しておこう。もしそれが無理でも滞在先に商人を呼ぶことくらいは出来るだろう。なんていったって、愛するアレシアの頼み事だからね、なんとしても叶えてあげよう。」
「あ、ありがとう。」
真っ直ぐなイオンの言葉に、少し恥ずかしくなったアレシアはそっぽを向いてお礼の言葉を口にした。




