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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第二章 王国編

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急転直下


統計を取っていないため、この国の失業率は不明。恐らく1割近い数字になると予測。これは周辺諸国と比較してもかなり劣悪な状態である。


失業の理由としては、僅差だが家業の廃棄が最も多く、次に多いのは、単純に働く先の無かった者達である。

元々家に金がなく、その日の食べ物を用意するだけで精一杯の者、彼らには外で働くための教養も知識も伝手もない。


そういった者達は、現状を改善するための知識もまとまった資金もなく、日雇いの仕事で食い繋ぐことになる。そして、冬は日雇いの仕事がかなり少なく、その間に僅かな貯金を使い果たして路上生活者となるケースが多い。

彼らの子ども達も貧困から抜け出すことが出来ず、親と似たような末路を辿ることがほとんどだ。口減らしとして捨てられる者、幼い頃から路上生活を強いられる者が発生してしまう。




以上が、数日かけてクロエが調べた上げたこの国の雇用に関する報告内容だ。



「アレシア様がお考えの『働きながら学べる場所の設立』は、この国の雇用、そして貧困の改善にかなり効果的だと判断致します。」


「やってみる価値は十分ってことね。あとは、どんな職の学舎を作ればいいか…ひとつの職に偏るとまた働き先に困ってしまうし、かと言って短時間で学べるもので働き先に困らないものというのを、複数用意するのは中々難儀ね…」


アレシアは眉間に皺を寄せ、クロエが用意してくれた報告資料と睨めっこしていた。



「アレシア、可愛い顔が台無しだよ?」


昨日と同様、しれっと隣に並んで執務を行っていたイオンが横からアレシアの顔を覗き込んできた。

もちろん、彼の行動がそれだけで終わるわけもなく、彼女の眉間にキスもしてきた。



「なっ!!!」


アレシアはキスされた眉間を両手で押さえて、勢いよく立ち上がった。



「な、何するのよっ!今仕事中でしょ!」


「悪かった。次は朝食の時間にしよう。」


「そういう問題じゃないわ!」


アレシアは、赤くなった頬を隠すように両手で覆った。心拍数が落ち着くまで、イオンから目を逸らし、ひたすら壁と見つめ合った。



ああもう、こんなことで動揺して顔を赤くして、自分らしくないわ…なんなのよ一体これは…



「アレシア、今度は可愛い顔が見えなくて寂しいのだけど?」


そう言いながら、イオンはアレシアの両手をそっとどかし、両手首を掴んだまま真正面から見つめてきた。



「だから、どうして煽ってくるのよー!!」


アレシアは腹の底から叫んだ。

イオンの手を振り払った。

そして、全速力で逃げた。


勝手にドキドキしまくる自分の心情についていけず、イオンのことを見ることも出来ず、彼の声ですら耳に入れ難く、結果、敵前逃亡した。



「アレシア…?」


逃げ去ったアレシアの背中を呆然と眺めるイオンを無視して、クロエは彼女を追って部屋を飛び出して行った。





またもや部屋に逃げ帰ったアレシアは、広いベッドの上でひとり転がりまくっていた。


「もう、どうしたらいいのよ!こんなんじゃ普通の会話も出来やしないわ!だから私に色恋なんていらなかったのよ!!」


独り言を叫びまくっているアレシアは、ベッドの端まで転がってぴたりと動きを止めた。



「こんな悶々と乙女みたく悩むだなんて、やっぱり私らしくないわ。もうこれ以上時間を無駄にしないって決めたのだから。悩んでいる暇なんて無いわ。よし、はっきりさせて来よう。」


独り言全開で気持ちの整理を付けたアレシアは、腹筋を使って起き上がり、勢いよくベッドから飛び降りた。



「そいやっ!」


自分自身に喝を入れるために、掛け声と共に自室のドアを勢いよく開け放つと、扉の前には心配そうな顔をしたクロエが立っていた。



「アレシア様、申し訳ございませんでした。昨日私が余計なことを言ったば…」

「クロエ!私、イオンと決着を付けてくるわ!」


「は?え、いや、ご武運を。」


アレシアのあまりの気迫に、思わず主君の武運を祈ってしまったクロエ。彼女らしからぬ、ポカンとした顔で、あっという間に小さくなっていくアレシアの背中を見送った。




「イオン!ちょっと話があるわ!顔貸して!」


ノックもせずにイオンの執務室のドアを勢いよく開け、仁王立ちをしたアレシアは腹から出した大きな声でイオンのことを呼びつけた。


アレシアの突然の登場に、イオンは驚きすぎて反応が1秒遅れた。

それもそのはず、自分がやり過ぎたイチャコラのせいでアレシアは部屋を飛び出して行ったのにも関わらず、またすぐに自分の元へ戻ってきたのだから。




イオンはアレシアに言われるまま執務室を抜け、人気のない中庭までやってきた。


そもそも自分がしでかしたことが原因だし、彼女の雰囲気から察するに良くはない話だろうと、イオンは1度目を瞑り、不安で押しつぶされそうになる気持ちをなんとか押さえ込んだ。


意識して穏やかないつもの笑顔を浮かべる。



「アレシア、いきなりどうしたんだい?」


「私、イオンのことが好きみたい。」


アレシアはなんの躊躇もなく、それが周知の事実であるかのような、至極当たり前のような口調で言った。

なんの気負いもない、飾り気もない、彼女らしい素直な言葉。だからこそ、彼女の本心であることが窺える。

もちろん、イオンにもそれは真っ直ぐに伝わっていた。



「え…」


アレシアの言葉に、イオンの瞳孔は大きく広がり、ただえさえ、青く美しいその瞳に、更に輝きが増した。それは、ブルーダイヤモンドよりも美しい輝きを放っていた。



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