アレシアの勇み足
まずは、子ども向けの無料食堂の開店に向けて、準備をしよう。
子ども達が食べる物に困らなくなったその次に、雇用の問題の解決ね。
食堂の場所…店舗を借りるには、初期費用がかかり過ぎる。
屋台にするとか?でも、囲んで皆で食べるっていう経験をさせてあげたいわね…となると、場所を無料提供してくれるところを見つけるしかないか。
食堂の間借りだったら、なんとか了承してもらえないかな。貸借料として、代わりに何か渡せる物は…名誉、とかかな。
王宮で、証明書みたいなやつ作ってくれたりしないかな…「王宮認定店」みたいなんじで。なんとなく箔がついて、お客も増えそうじゃない?
悪くないかも。
今度王子に相談してみよう。
あとは、作り手と食材か…
食材は、うちの庭で何か育てて提供しようかな。鶏、野菜、果物、牛…はさすがに無理だけど。鯉とか淡水魚ならいけなくないかも。
ゆくゆくは、農家とか畜産業とかと提携して、懇意で少し分けてもらう代わりに、労働力を提供する仕組みとか作りたいな。
最後の問題は作り手か…
最初は私がやってもいいけど、誰か、手伝ってくれる人を見つけないと…
報酬はあげられないけど、他にあげられるもの…あ!現物支給ってどうかな。食べ物に困っている人とか。
作ってくれたら1食タダだよって言ったらやってくれる人集まるかも!
うんうん、悪くないわ。
そうと決まれば、まずは今が時期の野菜の種を買ってきて庭に植えよう。次に、鶏と鶏小屋ね。魚は…池から作るのは少し時間が掛かるから、一旦保留で。
よし!必要な物を買いに行こう!
脳内会議を終えたアレシアは、決定事項を行動に移すべく、部屋を飛び出した。
真っ先に向かったのはティモンの部屋だ。
アレシアは、ノックこそしたものの、返事を待たずにドアを勢いよく開けた。
「ティモン、私ちょっと買い物に行ってくるわ!」
「ちょっと待って、姉様!いきなりどうしたの?」
「私のやりたいことを実現させるのよ。そのために必要な物を買いに行かないと!」
「待ってって!姉様は、イオン王子の婚約者なんだから、護衛も無しに出歩いちゃダメだよ!」
「くっ、王子め…」
「いやそこ、王子に怒るとこじゃないから!一般常識だから!」
感情のままに動こうとするアレシアを、ティモンは必死に止めた。
「必要な物をここに書いておいて。後で僕が誰かに頼んでおくから。」
「でも、鶏は自分で選びたいわ…」
「…一体何をするつもり?」
ティモンは呆れながらも、アレシアを説得して、他の人を買い物に行かせることを了承させた。
「そういえば、昨日から来てないわよね?」
「そうだね。明日が成人の儀だから、多忙を極めているんだよ。これまでだって、だいぶ無理して手紙や花を用意してくれていたんじゃないかな…」
「明日だったわね…」
あの日から毎日、2ヶ月もの間欠かさずに贈られてきた手紙と花束、それが昨日から来なくなっていたのだ。
明日が王子の誕生日。
ということは、私がドールから覚醒してもう一年になるのね…
過去の自分と決別したあの日、そして明日、その最後のしがらみから解放されて、全てが白紙に戻される。
でももう大丈夫。私はやりたいことを、進むべき道をちゃんと見つけたから。
もう迷わない。
次に王子に会ったら、ありがとうの気持ちを伝えよう。ここまで来られたのは、間違いなく彼のおかげだから。
感謝の気持ちを伝えて、自分のやりたいことの話をして、都合のいい話だけれど、建前でも社交辞令でも何でも良いから、応援するって言ってもらいたい。
そしたら、ちゃんと前を向ける気がする。




