アレシアが決めたこと
「花屋にでもなろうかしら…」
アレシアの自室は、赤い薔薇の花で溢れていた。
花瓶に飾られた赤い薔薇が数ヶ所に置かれ、飾りきれない分はポプリにもし、残りは勿体無いからと無駄に部屋に散らしてみたりした。
そこにまた新たな花束が届いた。
もちろん、贈り主はイオンだ。
市井に行った日の翌日から毎日、赤い薔薇11本と熱烈な愛の手紙が届いている。薔薇11本が持つ意味は、『最愛』だ。
もちろんその意味も知っているアレシア。
これから振る相手に、毎日愛を告げられ、精神的に参っていた。
でも、私には参っている暇なんてないし、その資格もない。
一度白紙に戻した自分の人生、これからはちゃんと自分の意思で描いていかないと。自分で決めたことなんだから。
まずはやりたいこと…
前は空っぽで何も無かった自分。でも今は、王子のおかげで少しだけある。
私も困っている人の助けになりたい。
やっぱり、市井で見た子ども達の姿が衝撃的だった。あの子達も含めて、困っている人の力になりたい。
なんの権力も持たない私に出来ることなんて限られているけど、根本的な改善は、王子が国を挙げてなんとかしてくれるはず。
それ以外で私に出来ることを探そう。
自分にも何か出来るはず。
人の気持ちを踏み躙って無理やり手に入れた自由、誰かのために使わないと、私は自分のことを許せなくなる。
そんな生き方はしたくない。
アレシアは、薔薇の花に囲まれながら、必死に手を動かして思い付いた事を片っ端から書き出していった。
やりたいことを実現させるための、自分なりの方法を見つけるために。
そして、暇さえあれば考えてしまう彼のことから意識を逸らすために。
「これよっ!!」
丸一日机に向かって、ひたすら思考する日々を過ごしたある日、アレシアは自室で1人声を上げていた。
他の人の意見も聞こうと、その日のお茶休憩の時に、ティモンに話すことを決めた。
「ティモン、少し相談があるのだけど…」
「えっ?なに??」
午後のお茶の時間、アレシアから相談を切り出されたティモンは目を輝かせた。
彼は、アレシアとイオンの結婚を望んでいた。
イオンのアレシアに対する変わらぬ想い、婚約パーティーでの二人の姿、弟として、こんなに安心して姉を任せられる相手は他にいないと思っていた。
アレシアの手前、そんなことは言えなかったが、だから今回の相談が結婚のことではないかと期待したのだ。
「私、事業を始めようかと思って。大枠を考えたから、ティモンにも少し話を聞いてもらいたくて。」
「はい?」
公爵令嬢が口にしない言葉であろうランキングの上位に入りそうな「事業」という言葉に、ティモンの思考は止まった。
「個人だと難しい部分もあるから、場合によっては王子にも相談して、国に提案できたらなって考えていて。二つあって、一つ目は働きながら学べる場所を作りたいと思っていて、二つ目は、子ども達が無料でご飯を食べられる場所を」
「姉様、ちょっと待って!」
つらつらと話し出したアレシアの言葉を、渋い顔をしたティモンが遮った。
「ねぇ、気まずくないの?」
「何が?」
「イオン王子のこと。これから婚約解消するんでしょう?それなのにまた近づくの?イオン王子は姉様のこと好きなのに。」
「これは王子が実現したいことでもあるから、利害の一致で上手くやっていけるはずよ。今後は、仕事仲間として接すれば問題ないわ。」
「…イオン王子が可哀想。」
「とにかく!私は私の道を決めたの。だから、前に進まないと。これ以上時間を無駄にするわけにはいかないのよ。」
アレシアは、もう後戻りは出来ないのだと、自分に言い聞かせるように言い訳を並べた。
彼女の思考は益々逞しくなっていた。




