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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第一章 婚約解消編

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動揺


感情が無くても、意思がなくても、僕のために存在するというその事実が堪らなく愛おしかった。


感情を露わにするようになった彼女に、僕は更に愛おしさを感じた。

僕の一挙一動でコロコロと表情を変える様は、狂おしいほどに魅惑的だった。


そして今、彼女は初めて僕に女性としての顔を見せてくれた。恋をする少女のような姿を。





知れば知るほど彼女のことが欲しくなる。

欲しくてたまらない。


抑えが効かない。



僕のことを拒絶するくせに、君はどこまでも僕を虜にする。

そこに君の気持ちは無いのに、僕の心を掴んで離さない。




こんなにも君にそばにいてほしいと希う僕は愚かだろうか。





**************





イオンは気に食わなかった。

自分以外に、アレシアに絆されているヤツらがいるということを。


自分から言い出したことなのに、いざ目の前にすると嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。



自分のものでもないのに。



それでも目の前の事実を看過出来ないイオンは、行動を起こした。





恥ずかしさで俯く(フリをする)アレシアの顎にそっと指を当てて上を向かせ、自分と目が合うようにした。


「アレシア、悪かった。あまりにも君のことが愛おしくて、目が離せなかったんだ。次は君の気持ちに配慮し、他の者の目が無いところでしよう。」


謝るような顔をしつつも、イオンの瞳には熱がこもっており、アレシアに熱過ぎる視線を送った。




美貌のアレシアの華奢な顎にそっと手を添えて、透き通るような青い瞳で彼女を熱く見つめるイオン。


見ただけで顔が熱くなりそうな光景に、周りの者は耐えきれず、目を逸らし始めた。

自身の羞恥心に負けたらしい。


それを横目で見たイオンは、勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべた。




一方のアレシアは、激しく混乱していた。



普段なら秒で言い返す。

今なら演技でやり返すこともできる。



なのに、なぜかそれが出来なかった。



真っ直ぐな青い瞳に見つめられ、何も考えられなくなる。目を逸らしたいのに、動けない。

アレシアは、イオンの視線に囚われてしまった。



おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、


…絶対にこんなの自分じゃない。




これは全て演技で、そこに自分の気持ちはないはずなのに、どうしてこんなにも胸が騒ぐのだろう…


こんなことされて、ちゃんと怒らないと、

早く止めさせないと、、、

嫌だって伝えないと、、、




「や、やめてっ…」


もっとはっきり言うはずだったのに、アレシアから発せられた声は聞こえないほど小さく、子犬が甘噛みしてきたくらいの威力しかなかった。


自分らしくない姿に、今度は本気で顔を赤くしたアレシア。先ほどまでとは比べ物にならないくらい、真っ赤に染まっていく。




演技ではなく、本気で真っ赤に染まるアレシアを見て、イオンの動揺は最高潮に達した。



…もう限界。



イオンは、ファニスに目配せをして後を頼み、アレシアを連れてバルコニーへと移動した。


これ以上、彼女のこんな無防備な姿を皆の前に晒すわけにはいかなかった。



夜風が心地よいバルコニーで、2人は火照った顔と心を冷ますため、給仕から受け取ったグラスで喉を潤した。





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