王子の反撃
イオンは、公務を行なう傍ら、王子直属の部下たちと共に、細心の注意を払いながら、水面下で準備を進めてきた。
表立って動けない代わりにファニスとその部下が情報収集を行ない、イオンは収集した情報を分析し、戦略を策定した。
自ら動くことのできない王子という立場が歯痒かったが、一つでも跡を残せば自分と部下の首が飛ぶ。
慎重にならざるを得なかった。
慎重に慎重を重ね、描かれた一本の細い線の上を辿る。そこから僅かにでも逸れれば、誰か或いは関わった全員の命が消える。
そんな極度の緊張感の中日々を過ごし、5年以上の月日が経過した。
もうすぐ、その日を迎える。
その事実だけで浮き足だってしまいそうな心を押さえ込み、最後の大詰めに向けて、ファニスと意見を交わす。
「エラトマ公爵の件はどうなった?」
「そちらも抜かり無く。息子が王太子派だと裏が取れましたので、現公爵を失脚させ、代替わりさせます。父親と違ってまともな男なので、後になって私たちに歯向かうことはないでしょう。そのような実力も甲斐性も無いですし。」
「油断はするな。」
「ええ、もちろんです。ようやくここまで来たのです。こんなところで頓挫させるわけには行きません。」
「アルティーノ公爵は既に没落、イレモ公爵家は陥落寸前。予想通りの展開だな。」
「ただ、一つだけ問題が…」
「貴族達からの支持率か?」
「はい…」
現国王陛下は金にしか目にない男だが、その分甘い汁を吸っている貴族達からの支持率がかなり高い。
残念なことに、貴族の中には、領民から取れるだけ金を搾り取ろうという考えの者が少なくないのだ。
そのため、イオンの考え方を、夢見がちなことをと言って陰で笑う者が多い。
『そんな夢物語、誰もが幸せになるなんて無理に決まっている。現実を知らない子どもが理想を語っているだけだ。』
それがイオンに対する評価だ。
「僕が、理想ばかり語る夢見がちな男だと言われていることは認識している。」
イオンは強い眼差しで遠くを見つめた。
「なら、彼らにも同じように夢を見させてやればいい。僕が現実よりも魅力的な理想の世界を見せてやろう。」
「しかし、どのようにして…?」
「簡単なことだ。彼らが蔑んで笑ったものを、理想の形に変えて見せてやれば良い。あっという間に目の色を変えるだろうよ。」
イオンは、ははと乾いた笑い声を上げた。
「それには、アレシアの協力が必須だ。すぐに彼女と話をする場を設けてくれ。それと、保留にしていたあの件も進めろ。」
「畏まりました。」
 




