イオンへの提案
アレシアは、ファニスの案に従い、早速イオンへのお願いを試みることにした。
ファニス経由でイオンの予定を調整してもらったが、彼は今かなり公務が立て込んでいて忙しいらしく、イオンの都合を付けられたのは、その1ヶ月後となった。
「中々会いに来られなくてごめんね。ようやく会えて僕は嬉しいよ。しかも君の方から誘ってくれただなんて…」
イオンはアレシアに蕩けるような笑顔を向けた。
そのあまりの眩しさに、アレシアは思わず顔を顰めた。
下心でイオンのことを呼び立てたのにも関わらず、純粋な好意を向けられて少しだけ胸が痛んだ。
「い、いえ、こちらこそお忙しいところに申し訳ございませんわ。あの…今回は王子にお願いがあってお誘い申し上げましたの。」
この交渉に自分の人生が掛かっているという緊張と王子への罪悪感から、つい令嬢モードで話し始めたアレシア。
「アレシアからのお願い…これほどまでに胸が高鳴る言葉はない。君が僕のことを頼ってくれるなんて…さぁ、遠慮なく言ってごらん?この僕がなんでも叶えてあげよう。」
イオンは、アレシアの自発的行動、しかも自分に対してのそれが嬉し過ぎて、内容を聞く前から快諾の意思を示した。
「ええとですね…王家との婚約制度について見直しをしたいのですわ。私が希望する変更点は2つ、婚約出来る年齢の下限を制定すること、婚約には必ず当人の同意を得ること。これらの内容を現行の制度に反映させて欲しいのです。」
「ふーん、、、」
イオンの表情は穏やかだったが、少しだけ目を細め、アレシアの真意を探るような視線を向けた。
「まずは、理由を聞いてもいいかな?なぜそんなことをしたいと思ったんだい?誰かの入れ知恵かな?」
イオンは穏やかな表情のまま、ちらりとファニスを見た。ファニスは、目を逸らすと瞬時に悟られてしまうため、内心冷や汗を掻きながらも無表情を貫いた。
「いえ!私の考えですわ。今後、私のように意思なく、幼い年齢の内に勝手に婚約を決められるような、そんな不幸な者を無くしたいのです。」
それはアレシアの本音だった。
私はたまたま前世の記憶を持っていたから、自分自身で気付くことが出来たけれど…
もし、あのままだったら…
と考えるとゾッとする。
自分の親が屑だったせいも大きいけれど、でも、自分で選べない決められた人生なんて、誰にも歩ませるべきではない。
もし、誰かの不幸を潰せる力が私にあるのなら、私は迷うことなくそれを行使しようと思う。
例え、自分自身の未来を変えることが出来ずとも、私の行動で他の人が救われるのなら、私は歩みを止めない。
やりたいことをやるって決めたんだ。
「アレシアがそこまで真剣に考えてくれているなんて…」
アレシアの想いを聞いたイオンは、目を滲ませ、喜びを露わにした。
「そうだね。僕たちの子どもたちに同じ轍を踏ませるわけにはいかない。制度の見直しに尽力しよう。」
「はぁっ!!?」
令嬢モード終了。
イオンの突飛な発言に、アレシアは大きな声を出し、机に手をついて勢い良く立ち上がった。
「なんでそんな話になるのよ!!第一これは、無理やり王家と婚約をさせられる令嬢を救うための話しだから!」
アレシアの怒りのボルテージは一気に最高潮へと達した。
感情のまま怒鳴り付ける勢いでイオンに物申す。…いや、実際に怒鳴りつけていた。
あまりの悲惨な状況に、止めに入ろうかと、ファニスとティモンは互いに視線を交わして相談し始めた。
「アレシア…君は、男の子を産んでくれるつもりなんだね…」
イオンは頬をぽっと赤く染め、両手で自分の頬を包んだ。
「だーかーらー!!なんでそんな話になるのよ!人の話ちゃんと聞いてた!?」
アレシアの怒りにも動じず、イオンは顔を赤くしながら、1人妄想の世界へと入り込んでいた。
彼女の言葉など何一つ彼の耳には届いていなかった。




