頼れる人
「それで、ファニスはどうしたら良いと思う?」
「えーとですね…」
ある日の午後、アルティーノ家に顔を出したファニスは、来て早々にお茶会に誘われ、アレシアから質問を受けていた。
お茶会で出されたのはもちろん、イオンから届いた本日の焼き菓子だ。今日届いたのはマドレーヌだった。
アレシアが王子からの菓子を喜んでいると耳にしたイオンは、贈り物の選定にますます熱が入った。
流行りに敏感な侍女に聞き込みをしたり、お忍び姿で自ら人気店に並んだりしている。
そして今、ファニスがアレシアに詰め寄られているのだが、その内容は…
「私たちだけじゃもうどうしようもなくて…ファニスの知恵を貸して欲しいの。ねぇ、どうやったら王子と婚約解消出来ると思う?」
まさかの婚約解消についてだった。
「困っていることはもちろん承知してますが、普通、王子の側近である私にそれを聞きますか…」
「婚約解消について意見しにくいなら、反乱を起こす方法でもいいわ。」
「…は?反乱?貴女は反乱を起こすおつもりなのですか!?」
ファニスの顔が一気に険しくなった。
今はイオン王子にとって、とても重要な時期。例えそれがアレシア様であっても、国家を脅かす火種を見過ごすわけにはいかない。
彼は厳しい目付きでアレシアを見据えた。
「出来るならもうとっくの昔にやってるわよ。イマイチやり方が分からなくて、行動に移せないのよ。」
アレシアの返答は、危機感の全くない素人考えのものであり、彼の心配は杞憂であった。
あ…この姉弟でした…
本気にした私が愚かでした…
アレシア達の特異性を思い出したファニスは、自分が考え過ぎていたことを恥じていた。
「一旦、反乱云々の話は忘れましょうか…で、婚約解消の件ですが、そうですね…私だったどうするか…この先は私の独り言ですよ。」
アレシアとティモンはファニスの言葉に頷き、固唾を飲んで、彼の言葉の続きを待った。
「王家との婚約に関する制度の見直しを王子に進言します。理由は…次の世代に同じ想いをさせたくないから、とかが聞こえ良いですかね。」
「なるほどね…でもそれ、今から制度改変しても、既に婚約者となっている私には適用されないんじゃない?」
アレシアとティモンは不安そうな目でファニスのことを見ていた。
「さすがはアレシア様。お気づきになるのが早いですね。王子もきっとそう考えるはずで、だからこそ、この改変には尽力して下さるはずです。こちらは、その裏をつきます。」
「裏をつくって?」
「改変後の制度に、現在の婚約者に対しても適用されるという内容を盛り込むのです。」
「確かにそれはそうだけど…そんなズルみたいなこと上手くいくの?」
「その辺りは私の得意分野ですからね。偽造ではないですが、見つからないように一文追加するなど容易いかっ…」
不自然なタイミングで彼の言葉が切れた。
しまった…
ペラペラと話し過ぎてしまいました…
ファニスは、だんだんと自分の実の兄弟が困っているように思えてきて、肩入れをし過ぎた結果、言うつもりのないことまで口走ってしまったのだ。
本当は、アレシアが自分には適用されないのではと言った時に、それもそうですねと話を終わりにするつもりだった。
「そ れ よ !! ありがとう、ファニス!貴方に聞いてみて良かったわ。王子へは私から話した方が良いわね。文書の件はまた改めて相談させてもらうわ!」
「ありがとうございます、ファニスさん!ファニスさんのおかげで、姉様を守ることができます。」
「え、ええ…」
やっぱり実際に手伝うのはちょっと…と言おうとしたファニスだったが、2人の喜び様に声に出すことが出来なかった。
仕方ありませんね…
イオン王子は優秀なお方ですから、ご自身でなんとかしてくれるでしょう。
ファニスはすぐに割り切り、イオンへ丸投げすることに決めた。




