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表側の広場より狭い場所に、密集して露天商が立ち並んでいるので、整然としておらず、ごみごみとした印象すらある。
それゆえに、こちらのほうが賑わってさえ見えた。買い物に来ている探索者の人数も、劣らないほどに思える。
「さてと」
ただ待っているだけだと時間が無駄になるので、自分用の武具を見繕っておく。
武器は残った資金に合わせて検討しよう。
しかし、無手も同然の状況なので、必ず購入しなければならない。
金額的には、防具が優先。
身に纏う防具は、強度と動きやすさが両立されているものが理想である。
もちろん理想的な代物は、俺の手には余る価格が要求されるに決まっているので、妥協は必要だ。
金額的には二百万ゴードくらいまでなら手が出せる。
俺のぶんとニオのぶんの、盾の購入も検討している。盾がなかったら、俺はとうにあの世に逝っている。もしかすると、盾の質を最優先にすべきかもしれないくらいに重要である。
それに、おそらく手持ちの盾はもう限界が近い。
所持する武器の性能で倒せない相手には、挑まなければいい。
或いは逃げればいい。
やはり生き残るためには、武器より防具だろう。
思考を巡らせながら見繕っていると、見覚えのあるような、引っ掛かりを感じるような、そんなものが視界に入った。
「これは」
円盤状の、小盾であった。
俺が所持している盾と同じで、腕に固定しない小盾である。
攻撃的な使い方や、相手の攻撃の初動を潰すような、テクニカルな使い方ができる、――というか求められる。
強力な攻撃を正面から受け止めると、手首を痛めてしまうからな。
「暴食蜥蜴の鱗を張り合わせた盾ね」
いつの間にか、隣から同じ物を覗き込んでいたアズミの解説。
あの、羽根の生えた巨大な蜥蜴の名前は、暴食蜥蜴というのか。たしかに、身に纏った武具ごと人間を胃に収めていたからな。納得の名称ではある。
「あいつの鱗は頑丈だったな」
その鱗を、ダリアの花のように、放射状に並べて張り付けている。
「青銅や鉄よりも頑丈で軽い」
アダラトさんからの助言である。
暴食蜥蜴の鱗は、金属製の武器すら弾き返していた。
しかも軽いというのは惹かれる。
ただ、ものともせずに破壊する術はあるので過信はできない。
ひときわ威力のあった黒色の投槍。
アイラの茨の檻。
ハバキリの大剣。
話に聞いただけではあるが、俺の命を救ってくれた少女の持つ、肉切り包丁。
……結構多いな。
いや、あれらを基準にしてしまうと、なにも買えなくなる。
俺の手に負える敵の攻撃なら、問題なく防いでくれるはず。
そしてなにより、因縁めいたものを感じていた。戒めとして、これを持つというのも悪くない。
「構えてみても?」
「うむ。構わんよ」
許しを得たので、さっそく手にしてみる。
おそろしく軽い。これなら素早く構えられる。
しかし逆に軽すぎて、ちょっとした攻撃にすら弾かれてしまうかもしれない。そんな危惧を抱いてしまうほどだ。
ある程度は重いほうが、効果を発揮する使用方法も多い。
殴る、押す、抑える、弾く、あたりがそうだ。
人類の範疇を超えてしまったこの筋力であれば、もう少し重くてもいいので、より頑強であるほうが安定感はあるかもしれない。
「軽すぎるか……」
静かな言葉が耳に届く。
さすがは熟練の職人。
「ええ、まあ。軽いので取り回しはいいんですけど」
構えた姿を見ただけで、思ったことまで見通されてしまった。
「少し待っていろ」
アダラトさんはそう言うと、露天商の裏手に併設された、小型の天幕に引っ込んでいく。
なにやら、急激に客足が増えてきている。
主に食料や、飲料の露店に足が伸びているようだ。
――なるほど。
牛頭の巨人の情報がここにも回ってきているようで、緩やかな風にのって、重苦しいざわめきが聞こえてくる。
万が一の備えとして、確実に買えるうちに買ってしまおう。そんな計算が働いたのだろう。
「こいつならどうだ?」
天幕から戻ってきたアダラトさんは、塊のような大振りの鱗で覆われた盾を手にしていた。
「暴食蜥蜴の背中の鱗が使われた小盾ね」
生物知識で得た情報だろう。またもやアズミから解説があった。
「分厚いな」
ごつごつとした、突き刺さりそうな突起のある鱗で前面が覆われていた。
ぎりぎり小盾と呼べる大きさ。武器としても使えそうな凶悪な見た目である。
手にしてみると、重量感もほどよく有って、使いやすそうだった。
「いいですね」
思わず、顔が綻んでしまうのがわかった。
「三百万ゴードだ」
思わず、顔が強張ってしまうのがわかった。
「値引きはできん」
先手を打たれたというか。取り付く島もないというか。アダラトさんの断定口調からは交渉の余地を感じられない。
「わかりました。それで購入させていただきます」
妥当な価値であるからこその断言なのだろう。そう信じるとしよう。
「こちらの盾はいくらですか?」
初めに手にしていたほうも、ニオに与える盾とするには、ちょうどよさそうに思う。体格や筋力は俺より劣るだろうから、軽さが欠点にはならないはず。
「おまけして、百万ゴードだ」
またしても、おまけしてという先手を打たれた。諦めにも似た気持ちを抱きながら、「もう一声」と言ってみる。
「他にも俺が使う武器と防具を、さらに購入するので」
「むう……」
「父さん。値段は他に買うものを決めてから、検討させてもらいましょう」
なんだか、もっと手強そうな女商人からの言葉が挟まれた。
採寸は終わったらしい。ニオはフードを深くかぶって、蹲ってしまっている。彼女にとっては苦痛な行為であったのだろうか。気力を吸いとられてしまったような萎びた姿を晒している。
「私の武器は?」
「アズミは戦うような事態に、遭遇しない努力をしようか」
「買ってくれたりしないの」
「しない」
自分でお金を貯めて、自分で買ってくれ。
「ケチくさいなあ」
「おい」
いや、でも、万が一の場面で、武器の有る無しは生死の分け目になるかもしれない。
「鉈でよければ渡そうか」
渡すにしても、あんな物に頼って、逃げられる場面で戦う決断を下されても困るから、あとでよく言い聞かせておかないと。
「鉈て」
「いらないなら――」
「一応、もらっておくけど」
仕方なく、背負い袋から布に包んだ鉈を取り出して、アズミに手渡す。
「うわ。きったない布」
もとはニオが着ていた襤褸布だ。ついでに処分できたとでも考えておくか。
「臭っ」
散々な言われようであるが。言いわけのしようはない。事実しか述べていないのはわかっている。
刃の部分を覆えるちょうどよさそうなものか。
そうだな、あれなら有りそうか。
「麻袋代くらいなら出してもいい。それにでも入れて持ち運ぶんだな」
黙って耐えるより、二束三文で解決してしまうか。
――という妥協。
「麻袋て」
「……」
お約束のように繰り返したがっているという空気が、俺には耐えられなかった。
「いや、もらっておくけど」
つまらなそうに、しかも勝手に話を進めたので、俺は無言で硬貨を渡した。これくらいあれば、麻袋くらいは買えるだろう。
「じゃあ、買いに行ってくる」
「ああ」
アズミを見送ってから、身に着ける防具の選定に移る。




