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次に優先する買い物としては、足を守るブーツのような防具だ。
草臥れた皮革のサンダルでは心許なくて、このままでは足を踏み入れられない場所が出てくるはずだ。
セットになっている物があれば、全身一式で揃えてしまうのも手ではある。
お買い得で性能も担保された、そんな良質な品は転がっていないものか。
「お勧めの防具はありますか。特に足がこんな状態なんですが」
自分の目利きには自信がないので、手っ取り早く訊いてしまう。相手の掌の上になりかねない行為ではあるが。
「体型に合う品物を用意するには、時間が掛かる。すぐに大きさを調整できるのは籠手と、脛当て、大腿甲くらいだな」
あっさり、目論見は崩れてしまう。
盾を新調できただけでも、僥倖だったと思うしかないな。
今は注文だけしておくしかないか。
「父さん。大きさを調整できる頑丈な靴なら、あったじゃない」
「む?」
ラーニアさんには心当たりがあるのか、二人で相談を始めてしまった。
そう長くも無い時間、放置されてしまう。
「試作品だからな。安くしてやろう」
相談が纏まったらしく、アダラトさんからそう提案される。
「それは有り難いですが」
現物を見てみないことには、有難迷惑の可能性もある。
いや、こだわりの強そうな彼からの提案で、そんな粗悪な物が出されるはずはないか。
「少々、お待ちを」
そう言って、ラーニアさんは天幕に引っ込んだ。
しばらくして、数足の皮靴を持って戻ってくる。
なんの変哲もない皮靴に見える。
「大きさの違う靴の中から合う物を、ってことですか?」
あまりに、普通の対応策。
調整できるという話はなんだったのか。
「まあ、慌てないで」
そんな言葉が投げかけられる。自信あり気な笑みも添えられていた。
「はあ」
気の抜けた返事をするくらいしかできない。
ラーニアさんは、露天の一番手前にある敷物の上に靴を四足並べた。そのうちの一つに手を添えて、こちらを見てくる。
「ほら、これ」
靴に使われている布の紐を摘んで言う。
「ああ」
腑に落ちた。
一般的に流通しているかいないかと、ゲーム内で流通しているかいないかは別だからな。靴紐で調整するという技術は目新しいのか。
「これで足に合わせた後に、布紐を編み込んで固まる樹脂を浸み込ませれば、紐の部分も保護された、頑丈な革靴の完成ね」
なるほど。
ゲーム内の技術も融合させて、防具にまで昇華させるらしい。靴紐がなにかに引っ掛かるといった事故も、樹脂で固めた布の紐で表面を固めてしまえば起こらない。
「子供用はないですよね」
折角なので、ニオにもこの靴を履かせておきたいが
当然のように、首は横に振られた。突然言われても、やはり難しいか。
「ごめんなさい。注文してくれれば用意はできるわ」
「ですよね。では、頼んでおきます」
俺がそう頼むと、ラーニアさんは微笑みながら小首を傾げる。
「値段を確認する前に、依頼なんてしていいの?」
背筋が、ぞくっとするような悪寒が生じる。
商売人相手に、商談中に気を抜き過ぎた。
しくじったか――。
冷や汗が滲んでくる。
アダラトさんが、じろりと、ラーニアさんを睨む。
「おい」
「なに? 父さん」
女商人は唇に人差し指を添えながら微笑んだ。
嫣然としたとでも表現すればいいのか。ナブーさんがその姿に釘付けになっている。
俺は誤魔化されたりはしないけどな。
「安くしてくれるという話でしたよね」
念を押すように確認を取っておく。
「冗談よ」
「どちらの意味でですか」
「父さんがした約束を、反故にしたりはしないわよ」
「そうですよね」
心臓に悪い人だな。
「子供用が八十万ゴード。この靴の中の、どれかを加工した防具は、百万ゴードね」
安くなっているのか、妥当なのか、まるでわからない。
結局、完全に掌の上にいる気分だ。
俺の靴の選別と調整。
さらに、ニオの足の採寸をしている間に、俺の籠手と太腿甲も選んでもらい調整した。
ニオには、ひとまず革製のサンダルを調整して履かせた。二束三文の、防具とは呼べない間に合わせの代物である。
ここまでで、値引きもしてくれたという言を信じて、九百万ゴードで購入を決めた。
束の間、空を見上げると――。
いつの間にか、太陽は中天を過ぎていた。




