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「アズミの本業は情報屋だな」
「なるほど」
反射で返事をしたような、なにも考えていそうもない反応。
「俺もそうだが、普通に考えて金を払ってでも、利益の出る生き物とか植物の情報が欲しい者はいくらでもいる。生物知識と植物知識は金になる」
あの時点で、大鎧蜘蛛の情報が彼女から得られていなければ、建物の奥まで逃げていたに違いない。死のリスクが無駄に高まっていたわけだ。想定される危険を、予め得られるのというのも、大いに価値がある。
「えっと。たぶん。結構詳しい特徴を教えてもらうか。直接、現物を見ないと情報を引き出せないんだけど。本当の知識があるわけじゃないから」
ああ。
なるほど、条件付きか。
やはり、何もかもが上手くはいかないものだな。
それでも、許容範囲内の条件な気がする。
「副業の解体業が、都合よく本業の情報収集になるのか……」
ただ、もう少し能動的に情報を集めながら、金を稼いでもらうしかなくなった。
「事象解析というスキルについて聞かせてもらえるか」
「ああ、それね」
投げやりな返答。
「結構な魔力を使って、何かと何かを比較すると、何となく温度差みたいな感覚で、強弱とか大小とかわかる感じ。レベルが低いと精度も低いみたいだし。役に立ちそうもないね」
レベルが上がれば使い途はありそう。
上げる余裕があるかはまた別問題として。
「なるほど」
おおよその目途は立てられた。
「そうだな。解体業務兼、鑑定役として、報酬をもらった相手に同行する情報屋とかどうだ? 未踏地に出向く時なんて、誰でも喉から手が出るほど情報は欲しいだろう」
致命的ではなくても、必要充分な賞金を得るには、待ちの姿勢ではきつい条件ではある。
「積極的に知識を売り込むしかないか」
俺にとっても、打算全開の理由があることだし。
口にはできないが、俺の役に立ってくれるように、能力も知識も高めて欲しいからな。
「ふんっ。いざとなった時に、囮役にもなるしね!」
「なるほど」
何も考えていなさそうなのに、そうでもなかったな。
「確かに」
誰彼構わずだと、そういう相手に当たるかもしれない。
また、誰であろうと切羽詰まった状況なんかでは起こり得る話でもある。
信用できる相手となると……。
「おっさんだけ、か」
未踏の地に出向く時でもないと、雇う側の旨味は減るからな。常におっさんが報酬を払い続けるのは負担が重いし、任せっきりは少しばかり難しいか。
相手の都合もあるから、そのへんは相談してから決めるしかない。
少なくとも、俺では雇う金も護衛としての能力も、今すぐには用意できない。
「ねえ。なにブツブツ言ってんの?」
「ブツブツって・・・・・・。考えを纏めているだけだ」
「それで。いいアイデアはあるわけ?」
責めるような口調。
やはりというべきか、致命的なレベルで他人任せの気質がある。
「はあ」
極論、生きるも死ぬも自己責任だよな。甘えるなって話だ。
「まあ、相手に護衛もさせるって条件で雇われて、裏切られそうだったら自慢の逃げ足に縋るしかないかもな」
「ちょっと、私とカミノギさんって、手を組むんじゃなかったの?」
手を組むのと面倒を見るのとは違う。などと突き放したら、将来的にも手を組めなくなってしまうだろうか。
「勿論、俺が頼んだ時には優先して雇われて欲しいかな。あと提携割引は適用してくれよ。他の奴に頼むのと同じ金額を取られるなら、手を組む意味はないからな」
「それって、一方的に私が搾取されてない?」
「金を稼ぐ指標を、教示してやったじゃないか」
「それだけ?」
「納得できないか?」
「納得できるわけないでしょっ!」
「半分冗談だ」
「はあ?」
「いろいろと考えてはいる」
「というと?」
「現時点ではアズミのスキルを活かせる場所まで出向くには、俺の能力が足りない」
金を稼げるような場所まで、俺の戦闘力で護衛しながら進むのは現実的ではない。
「で?」
「しかも、今はまだ長期に亘って雇う金銭的な余裕もない」
何れは、恒常的に利益が上回る状態を作り出せるようになりたいものだ。
「カミノギさん」
柔らかい口調。出会ってから、初めて見せる彼女の優しげな笑顔。
「おう」
「役に立たないわね」
「正直過ぎるだろ」
「だって!」
――いや、反りが合わなそうだからなあ。
常に行動を共にするとなると、揉め事多発で早々に破綻しそうだ。
「手を組むからには、うまい話があれば持っていくし、俺からも情報を回す。他に現状でできることだと、成長の碑石がある祠の位置を教えるのと、おっさんの紹介、ここから安全な場所までの同行くらいか」
「おっさん、って誰よ。紹介してなにさせる気?」




