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「情報交換もしてはおきたいが。まずは、化け烏をどうにかしようか」


 無数の化け烏が、円形となっている広場に散乱している。数日前の俺だったら、腰を抜かしていたかもしれない光景だ。


「兵隊烏と兵長烏という種類みたい」


 アズミが小さめの化け烏を指差し、次にひときわ大きな化け烏を指差す。


「スキルの生物知識か?」

「うん。知りたいことについて、網膜に情報が投影できるみたい。知りたい内容次第では閲覧不可の場合もあるけど」


 予測を裏切らない言葉が返ってきた。


「探索者というより、研究職のほうが向いていそうなスキル構成だよな」

「えっと。設定では王国の学者になってたね」


 私ってあんまり知識欲がある人じゃないのに、とアズミは苦笑した。


「学者っていうか、年齢的には学徒だけどな」


 能力があったとしても、時代というか文明度的に、年齢によって越えられない壁が高そうだし。マニュアルは、誰がそれを選ぶかわからないから、多少は不自然さが生じてしまうのも仕方ないが。


「道具選択の時にも武器が選べなかったし、完璧にハズレ引いちゃった感じ」


 なるほど、そういうことか。いろいろ納得がいった。

 選んだマニュアルによって、所持品やスキル構成なんかにも影響があるのか。完全なランダムではなかったんだな。


「あの死骸から役立つ物が得られるかどうか、なんてわかったりしないか?」

「当然!」


 わかるらしい。得意気に口端を上げる。

 ハズレと言いつつも、役に立つスキルである自覚はあるんだな。


「労力を使って回収する価値があるかまでは?」

「そんな曖昧な聞き方されても……」

「使い道があるかどうかと、どれくらいで売れるか、ならわかるか?」

「えっと、部位ごとの利用方法とか、参考評価額はわかるみたい」

「それだけわかるなら充分だよ」

「あっそう?」


 褒めた途端、らしい反応。

 気落ちされるよりマシだが、増長させ過ぎても面倒だし。疲れる。


「烏は鑑定するのが簡単みたいね。今までだと、知りたい情報がハテナ表記になってよくわからない生き物とか結構居たんだけど、兵隊と兵長はどっちも、知ろうとした内容は全部表記されるし」


 知りたい内容を検索できる能力で、レベルが不足していればハテナ表記になる感じか。


「具体的には?」

「風切羽根は矢羽根に使えて、三千ゴードから四千ゴードくらいとか。腿肉は食用にできて、五千ゴードとか。いろいろバラして、全部位で一羽あたり二万ゴードくらいね。ちなみに兵長烏は五万ゴードにはなりそう」


 質問しておいてなんだが、警戒心なく答え過ぎだよなあ。

 今後が心配になる。


「バラして? バラす必要があるのか?」 

「解体作業を人に頼んだら、利益なんてほとんど出ないみたい。作業賃が一羽あたり一万ゴードくらいっぽい。破損が酷い死骸が多いし。唯一、兵長烏だけはバラさなくても三万ゴード以上の利益になりそうね」


 淀みなく、アズミの口から情報が吐き出されていく。

 ああ。こいつ頭悪いな。思わずそんな感想が浮かんでしまった。

 こんな有用なスキルがハズレだと思っているなんて……。

 利益と消費する時間を天秤に掛けるなら、兵長烏以外は捨て置くべきという判断が出来る。


 思案のしどころだ。

 経験値のようなものがあるとするなら、序盤にせこせこ小銭を稼ぐより、優先すべきはなるべく多くの魔物を、安全に殺生して戦力を強化すること。

 だだ、バランスは必要である。

 命を繋ぐ飲食物や薬の入手、装備の強化などにも金が必要なので、序盤でも全く稼がなくてよいとはならない。単位時間当たりの収益で判断し、選択していくべきだろう。


「じゃあ。損傷の少なそうな兵隊烏の羽根を毟って、兵長烏だけ持って行けばいいか」


 といったところが妥当であろう。


「え? 他は放置するの? 解体すればきちんとお金になるんだけど」

「取捨選択ってやつだ。その程度の金額より、時間というリソースのほうがより価値がある」

「ふっ……。忘れてない?」


 アズミは得意気に人差し指を立てて揺らし、小憎たらしい冷笑を浮かべた。


「なにを?」

「付喪付きの解体道具っ」


 アズミは腰のベルトに据え付けられた道具類を、軽く叩く。


「なるほど?」


 ――なるほど。


「私に任せてもらえれば、全然、手早く解体してみせるけど」

「はあ」


 呆れも含んでいるが、なにより喜ばしい溜め息が漏れてしまう。


「なに?」

「なあ。アズミ」

「うん?」

「提携っていうか、同盟っていうか。俺と手を組んでくれればいいことを教えてやろう」

「なんか、怖いんですけど」


 心外にも、不審者に出会ってたじろいでいるような、失礼な態度を取ってくる。


「はあ? どうして怖いんだよ」

「だって。私のこと騙そうとしてない?」

「なんで、そうなる」

「認めたくないけど、私って戦力にならないし」


 いや、もう。戦闘能力とか、それはどうでもいいから。

 ここまで話をしてしまった段階で、気が付いてしまうかと危惧していたのに拍子抜けだ。


「そこは話を聞けば納得できると思うが。どうする?」

「話を聞いてから考える」


 というアズミの見当違いな返答に、目の前に手を翳して釘を刺す。


「いや。手を組まないなら話さない」

「はあ? なにそれ」


 アズミは唇に人差し指を添えて思案顔を見せる。


 ――ほどなくして。

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