18
探索団の本営に向けて、しばらく無言で歩みを重ねた。
階段や坂道の路地を抜けて、台地状になっている天辺の広場に出る。
広場中央奥に構える箱型の建造物の前まで足を運ぶ。石造りの砦のような建物である。同じような建造物は散見されるが、近辺ではひときわ巨大であった。
「賑わってるなあ」
周囲には過剰なほどの見張りの兵がいる。二桁の後半といった人数だろうか。篝火も多めに焚かれていて、煌々とした赤熱光が夜闇を退けている。
また、比較的安全が担保されているからであろう、若干の露天商と、物資の調達に来ている探索者が見られた。
命の危険を顧みずに、こんな場所まで商売に来るとは。
商人という人種も探索者に負けず劣らず、頭のネジが飛んでいる。
人の通りも多いし、武器を手にして歩き回るわけにはいかないか。戦鎚は背負い袋に突っ込んでおく。
「うええ? あんたは!」
荷を背負い直していると、明らかに俺を見て声をかけてくる若い兵士がいた。
「知り合いか?」
「ええと、たしか……」
見覚えはある。声も聞いた記憶がある。
誰だっただろう。申し訳ないが、はっきりとは思い出せない。
「あんたがもし無事動けるようであったら、連れてくるようにとの指令を、団長から受けているんだがな。しかし、とても動けそうにはないとの報告をしてしまったよ。血だらけでぶっ倒れてたからな。まさかあんた、双子だったりするか?」
あわてた口調で、若い兵士は言葉を連ねる。
「いや、双子ではないけど」
団長から呼ばれる理由が思いつかない。厄介事の臭いがしてくる。
「しかし俺が見た時には重傷だったはず」
若い兵士は、もはや見慣れた、疑念を含んだ表情をした。
「適切な処置を受けられたおかげで、なんとか命を取り留められたみたいで。丈夫さには自信もあるし」
もうそれはいいから、という気持ちになり、適当に答えておく。
「いやいやいや。そんな簡単に」
驚きと不信を隠しもしていない表情であった。
「それより、団長さんのところまで、案内してくれるんだよな?」
「あ? ああ」
自らの疑念より、指令を優先するべきだと思い直したようだ。さっ、と兵士の顔が引き締まった。
「ナブーさん。少しお時間を頂けますか?」
半身で問う。
「構わないぞ。俺は俺で、本営内でやれることはある」
「では、用が終わったら……。どうしましょう?」
「そうだな。あそこで待つとしよう」
ナブーさんが指差す先では、兵士や探索者が地面に座って食事している。さきほどから肉が焼ける美味しそうな匂いがしてくると思ったら。
酒も提供されているのか、騒々しい集団もいた。
雑然と並ぶ廃墟の物悲しさを、清々しいまでに払拭してくれる光景であった。
「建物を構えてはいないが、あそこは酒場なんだ」
ジョッキを呷るような身振りをして、ナブーさんは言う。
よほど酒が好きなのであろう。思わずといった感じで、喉を鳴らして唾を飲み込んでさえいる。
探索者の男が貨幣を支払って、盛りつけられた料理と飲み物を受け取っている場面が見られる。
こんな環境である。士気を保つには、憂さを晴らす措置は必須だろう。
酒好きなら、飲酒に勝る気分転換はない。
「わかりました。俺が先だったら一杯ひっかけて待ってます」
俺も呷る動作を真似て笑う。
「おっ。いける口か?」
ナブーさんは嬉しそうに口の端を上げた。
「いえ。好きですが。ほどほどです」
「謙遜する奴に限って、蟒蛇だったりするからな」
俺は笑って誤魔化した。
体型と人種で察して欲しい。ナブーさんと張り合う気にはなれない。
「ああ。俺も飲みてえな」
若い兵士が恨めしそうな眼で見てきた。
けど、まだまだお勤めが終わらんのよ、と愚痴る。
「お疲れ様です」
そう俺が労うと、兵士はわざとらしく、がっくりと肩を落とす。
「では。一旦、別行動ですね」
「おう」
ナブーさんは手を上げてから、本営として使われている建物の横手側に回っていった。
俺も兵士の背を追って建物の中に入る。
ニオも俺の後ろにおとなしく従う。
誰かに咎められるのではないか、という心配は杞憂に終わり、すんなりと奥へと進んでいった。




