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 探索団の本営に向けて、しばらく無言で歩みを重ねた。

 階段や坂道の路地を抜けて、台地状になっている天辺の広場に出る。

 広場中央奥に構える箱型の建造物の前まで足を運ぶ。石造りの砦のような建物である。同じような建造物は散見されるが、近辺ではひときわ巨大であった。


「賑わってるなあ」


 周囲には過剰なほどの見張りの兵がいる。二桁の後半といった人数だろうか。篝火も多めに焚かれていて、煌々とした赤熱光が夜闇を退けている。

 また、比較的安全が担保されているからであろう、若干の露天商と、物資の調達に来ている探索者が見られた。


 命の危険を顧みずに、こんな場所まで商売に来るとは。

 商人という人種も探索者に負けず劣らず、頭のネジが飛んでいる。


 人の通りも多いし、武器を手にして歩き回るわけにはいかないか。戦鎚は背負い袋に突っ込んでおく。


「うええ? あんたは!」


 荷を背負い直していると、明らかに俺を見て声をかけてくる若い兵士がいた。


「知り合いか?」

「ええと、たしか……」


 見覚えはある。声も聞いた記憶がある。

 誰だっただろう。申し訳ないが、はっきりとは思い出せない。


「あんたがもし無事動けるようであったら、連れてくるようにとの指令を、団長から受けているんだがな。しかし、とても動けそうにはないとの報告をしてしまったよ。血だらけでぶっ倒れてたからな。まさかあんた、双子だったりするか?」


 あわてた口調で、若い兵士は言葉を連ねる。


「いや、双子ではないけど」


 団長から呼ばれる理由が思いつかない。厄介事の臭いがしてくる。


「しかし俺が見た時には重傷だったはず」


 若い兵士は、もはや見慣れた、疑念を含んだ表情をした。


「適切な処置を受けられたおかげで、なんとか命を取り留められたみたいで。丈夫さには自信もあるし」


 もうそれはいいから、という気持ちになり、適当に答えておく。


「いやいやいや。そんな簡単に」


 驚きと不信を隠しもしていない表情であった。


「それより、団長さんのところまで、案内してくれるんだよな?」

「あ? ああ」


 自らの疑念より、指令を優先するべきだと思い直したようだ。さっ、と兵士の顔が引き締まった。


「ナブーさん。少しお時間を頂けますか?」


 半身(はんみ)で問う。


「構わないぞ。俺は俺で、本営内でやれることはある」

「では、用が終わったら……。どうしましょう?」

「そうだな。あそこで待つとしよう」


 ナブーさんが指差す先では、兵士や探索者が地面に座って食事している。さきほどから肉が焼ける美味しそうな匂いがしてくると思ったら。

 酒も提供されているのか、騒々しい集団もいた。

 雑然と並ぶ廃墟の物悲しさを、清々しいまでに払拭してくれる光景であった。


「建物を構えてはいないが、あそこは酒場なんだ」


 ジョッキを呷るような身振りをして、ナブーさんは言う。

 よほど酒が好きなのであろう。思わずといった感じで、喉を鳴らして唾を飲み込んでさえいる。


 探索者の男が貨幣を支払って、盛りつけられた料理と飲み物を受け取っている場面が見られる。

 こんな環境である。士気を保つには、憂さを晴らす措置は必須だろう。

 酒好きなら、飲酒に勝る気分転換はない。


「わかりました。俺が先だったら一杯ひっかけて待ってます」


 俺も呷る動作を真似て笑う。


「おっ。いける口か?」


 ナブーさんは嬉しそうに口の端を上げた。


「いえ。好きですが。ほどほどです」

「謙遜する奴に限って、蟒蛇(うわばみ)だったりするからな」


 俺は笑って誤魔化した。

 体型と人種で察して欲しい。ナブーさんと張り合う気にはなれない。


「ああ。俺も飲みてえな」


 若い兵士が恨めしそうな眼で見てきた。

 けど、まだまだお勤めが終わらんのよ、と愚痴る。


「お疲れ様です」


 そう俺が(ねぎら)うと、兵士はわざとらしく、がっくりと肩を落とす。


「では。一旦、別行動ですね」

「おう」


 ナブーさんは手を上げてから、本営として使われている建物の横手側に回っていった。


 俺も兵士の背を追って建物の中に入る。

 ニオも俺の後ろにおとなしく従う。

 誰かに咎められるのではないか、という心配は杞憂に終わり、すんなりと奥へと進んでいった。


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