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 参加者である、負債を抱えた探索者からは、死者や怪人はほとんど出なかったようだ。

 彼らからの参戦者がそもそも少なく、ほとんどの者が様子見に徹していたのだから当然か。

 突発的なうえに、あまりにも強力な相手だったからな。仕方がない部分もある。


 そんな、探索者たちのほとんどは、すでに広場からは出払っていて、あまり残ってはいない。

 それでも。

 時折――。


「災難だったな」


 そんな言葉をもらう。

 見舞いというよりは、同情しにきたという様子。

 そういった者たちは、まだ、悪い人ではないのがわかる。

 手を組んでくれそうにはないけれど。表情が雄弁にそう物語っていた。


 あるいは。


「喚起魔術じゃなかったのかよ」

「あんた、ハズレスキルしか持ってないみたいだな」


 明らかに見下した態度で、わざわざ嘲りにくる者もいた。

 遠巻きに、鼻で笑うような仕草を見せつけてくる連中もいた。

 あいつらは、もう協力関係を築いているのか、という出遅れた状況まで思い知らされる。


 双剣使いの太った若い男には、敢えて勘違いさせておいたから、事実を知ったらまた絡まれるかもしれない。

 去り際の台詞から、逆恨みされていそうなので不安になる。


 目立ち過ぎてしまった。

 完全に失策だった。

 いや、本当に。

 なにが失策って、相手の戦闘力も精査せずに、アイラを前線に送り込んだうえに、敵の生命力を侮って彼女を失ってしまったこと。

 これに尽きる。


 ついでに、俺の戦闘力の低さが、多くの探索者に周知されてしまったはずだ。

 手を組んでくれそうな参加者を見つけるのは、困難になってしまった。

 状況は、最低最悪だ。


 ◇


 いよいよ闇の帳が降りてくると、篝火の揺らめきが広場を染める。

 そろそろ行動を開始しようかという時だった。


「おーい。イザナくん。そこにいたのか!」


 眼帯をした、坊主頭のいかつい男が、巨大帆船側から近づいてくる。

 輜重兵大隊長のナブーさんであった。怪我人も大勢寝ているというのに声が大きかった。悪目立ちするのはなるべく避けたい。無駄な敵対者は作らず、友好関係はできる限り築く。そんなスタンスでいないと、あっさり詰んでしまい兼ねない。

 おそらく現時点での俺の戦闘力は、最下層付近であろう。


「ナブーさん。どうしました?」


 こちらからも近づいて、大きな声をたてなくても聞こえる距離で立ち止まる。


「ようやく時間ができたんだが。イザナくんが装備を見繕って欲しいと言っていたのを思い出してな」


 わざわざ出向いてくれるとは、見た目にそぐわない律義さだ。などと考えてしまうのは失礼か。

 手を組んでくれそうな者を探すのは、頓挫しかけているし、装備だけでも強化しておかないと。


「ありがたい。お願いします」

「ところで、ここにいたということは、怪我でもしたのか?」

「ええ、まあ」

「大丈夫そうには見えるが……」


 ナブーさんは、心配しているような、あるいは訝しんでいるようにも見える、眉間と目じりに皺を寄せた表情になる。

 添え木や縫合糸などはすべて外し、着替えも終えているので、外見からは怪我人には見えないだろう。


「一応。もう行動に支障がないくらいには回復したので、大丈夫です」

「大事に至らなくてよかったな」

「そうですね……」


 本来の肉体であれば死んでいたであろう状態であったらしく、歯切れの悪い返答しかできない。即死しなければ一昼夜の休息で動き回れる化け物と成り果てて、果たして大事に至っていないと言い切れるのかは疑問である。

 あるいは、簡単には死なない体になれて、僥倖であったと割り切るべきか。

 現におかげで生き残れたのだから。


 あまり再生力を過信はするべきではない、とも念頭に置いておかなくてはいけない。

 処置されなければ失血死だった、と考えておいたほうが無難である。

 それに再生力に優れていたはずのアイラが死んでしまったように、即死ではどれだけ強力な再生力も無意味である。

 今回は、ガレノスさんに治療して貰えたから拾えた命と、心に刻む。


 生存や戦闘など、あらゆる障害に対して準備や対策を怠れば、このゲームは生き残れないようになっているはずだ。前回の借金完済者の少なさが、それを物語っている。


「そういえば、あの恐ろしく綺麗な使い魔はどうした?」


 なかば想定しているのであろう、暗い声音でナブーさんは問いかけてくる。


「失いました」


 あいまいな表現が口から洩れる。

 使い魔という存在に生命が宿っていたという事実から、目を背けているのかもしれない。死という言葉に忌避感を抱くほど恵まれておらず、甘くもない人生であったから、そうなのであろう。


「死なせてしまいました」


 向き合わないといけないな、と思う。


「そうか……」


 実に複雑な顔をする。死を悼むとか、そんな類ではない。

 気まずさを滲ませた後、驚いてでもいるかのような。名状しがたい変化をして見せた。


「使い魔を死なせたにしては、負傷が軽いじゃないか」

「え?」

「いや、使い魔が死に至る危害を受けたのなら、死んでもおかしくないくらいの、損傷の共有が発生したはずなんだが」

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