第11話 ブスタ大平原の戦い 4
異世界召喚 70日目
魔方陣で作り出した、大きな渦は…川底の砂も吸い込み、川下は濁った…黒く濁った濁流と化していた
その濁流に沈み…吸い込まれた人・馬は…もはや地上を見ることなく命を消していく
その岸辺を騎馬が駆けていく…濁流の波間を必死で…見続ける
「神様…イシューレの神様…どうか、博影様をお助けください…」
騎士は胸元に手を当て、必死で神に祈った
しかし、もはやどこまで流されているのかも…見当がつかない
鼓動がこめかみを刺激し、心臓が締め付けられていく…
「神様…神様…」
…あぁ…だめだ…博影様…
大粒の涙が、ほほをつたう。岸辺を…幾分、流れの落ち着いてきた濁流についていくしかない
…この無力
自分の命の恩人が…愛する人が…目の前で消えていくこの時間に対し、何もできない
…この無力
誰に助けてもらえるわけでもない…神様に助けてもらえるわけでもないのだ
………
私が、私が、助ける。絶対助ける!
ルーナの命の灯を燃やすかのような気力に…集中力で、ルーナの首筋に、召還の儀式の際に刃を当てた首筋に、小さな魔方陣が浮かび上がった
…博影様…どこに、どこにいるの?…
さらに気力があふれたその瞬間、ルーナの体から、まるで水面に広がる波紋のように、魔方陣の輪が広がっていった
その輪が、眼前の川岸から濁流へ倒れこんでいる巨木を通過した際、ルーナは、感じた
「博影様!」
博影の感覚を感じ取ったルーナは、巨木へたどり着くと、巨木につかまりながら、濁流へ入っていく
水深は腰までしかないが、巨木がなければあっという間に濁流に飲まれていくだろう
川岸から5m進んだその巨木の水面下を探すと…博影は引っかかっていた
「博影様!」
激しい濁流で、水面下の巨木へ押し付けられるように引っかかっている
博影の体を引き上げることは、困難だった…
ズズッ…ズズッ…巨木が徐々に動いた
いけない…と思った瞬間、巨木は濁流に流されていく。ルーナは、とっさに水面下にもぐり、博影に抱きついた
流されながら、博影を抱きしめながら
水面に顔を出せたことは奇跡だっただろう
そこにロープが、飛んでくる
必死に肩へロープをかける
岸辺には…バチギと10名ほどの騎士がロープを握り
必死にロープを握り締め、ルーナを、若干流れに流しながら岸辺へ寄せていく
騎士達の手をかり、川辺に上がったルーナは、泥だらけの博影の頭部と胸部の甲冑をはずし、
胸を強く押す、1回、2回、3回…
そして、口をあわせ、必死に空気を送り込む。何度も、何度も繰り返す
10分たった…20分たった…30分たった
傍らに立つ…ブルガ公爵も、騎士バチギも、他の騎士も、誰もルーナに終わりの合図を送れないでいた
…博影様…お願い…目を覚まして…
ルーナの集中した気力に再度、首筋に魔方陣がうっすらと浮かび上がった
すると、横たわる博影にも…博影を包むように魔方陣がうっすらと浮かび上がる
その魔方陣が、ゆっくりと回転し…
「ゴボッ…ゴホッゴホッ…ぐぅ…」
黒騎士(博影)が口から、水を吐き。大きく息を吸い込み目を開けた
オォー、ウォー
いつの間にか、周りに集まっていた騎士・歩兵達から歓声が上がる
「ルーナ…?」
目の前になぜルーナがいるのか…たしか、濁流に飲み込まれた…
現状が把握できない博影に、力いっぱいルーナがしがみつく
「良かった…良かった…良かった…」
いつまでも、博影を力いっぱい抱きしめた




