第17話 召喚の間
レナトス暦 7017年
異世界異世界召喚 4日目
朝
鳥の声、僅かに聞こえる人々の喧騒に気付きながら目がさめる。
窓を開け、外を見ると…城塞都市・ダペスには、うっすらと朝霧がかかっていた
しばらくすると、ティアナが来た。沙耶と2人、用意してくれた水で、顔を洗い新しい下着、服に着替え、パンとスープの朝食を急いで頂く。
身支度を終え、廊下で待っていてくれたティアナと一階へ向かう。
今日の予定は、昨夜公爵へ返答した願い事を叶えてくれるとの事だ。
一階外へ出ると、城内で最も高い建物の一つで右奥の円柱状の建物へ向かう。
同じものが公爵邸奥(左奥)にあり、そちらは地下一階は捕虜収容所、一階・二階は貯蔵室、三階・四階は見張り台との事。
今向かっている右奥の建物は、同じ四階建て円柱状の建物だが、最上階で召喚の儀式を行った場所という事だった。
入り口に着くと、公爵と騎士ボッシュが待っていた。
ここの鍵は、公爵が直々に管理しており、この城塞都市ダペスを作った初代公爵から受け継がれている習わしという。
わざわざ公爵が案内してくれるらしい。気楽に見たかったのだが、少しがっかりする。
5人で最上階まであがり、公爵が「召喚の間」の鍵を開け、ボッシュが扉を開いた。
公爵、ボッシュに続き入る。入口、右横のロープをボッシュが引くと、天井より薄明かりが差し込んで来て…しばらくすると目が慣れ、部屋の様子を確認出来た。
あの時はよくわかっていなかったが、壁には様々なレリーフがあり、中央床と天井にあの魔法陣が刻んであった。
「中に進んで良いぞ、じっくり見るといい」
公爵に促され、沙耶と中央の魔法陣に進む。僅か4日前の事だが、随分時がたった気がする。
魔法陣中央に立つ、床の魔法陣をみる。
生贄の人、動物…魔法陣を埋め尽くした…赤い血…
先程は、昔の感覚だったが…血の匂いまで…鼻に付く感覚に捕らわれた。
沙耶を見ると、青ざめている。沙耶に、ティアナの側に戻るように伝える。
ティアナがいない、どうやら部屋の入口横で待っているようだ。
召喚した術師で、術としては誇れる筈だが…若干違和感を感じたが、沙耶を部屋入り口まで返す。
しゃがみ込み、刻まれた魔法陣にふれてみる…手のひらをつく…
すーっと、魔法陣中央が鈍い光をまとい出した。
とっさに魔法陣から離れ、入り口に立つ沙耶を確認する。入り口と魔法陣の間に立つ、公爵・ボッシュの側まで下がる。
鈍い光は、魔法陣中央から広がらない。
「これは…ティアナ」
ボッシュが、とっさティアナを呼び寄せる。
入り口に立ち、魔法陣の光に魅入られていたティアナも、ボッシュの声に我に返りすぐに公爵の側へついた。
「ティアナ、これは?」
「公爵様、申し訳ありません、術書にも、書かれておりません。ただ今の魔法陣のあの光には、殆ど力は感じません」
ティアナは、左手で胸の聖石のペンダントを握りしめ答えた。
博影も魔法陣の僅かな光を見続けていたが、あの時の光とは異なると感じていた。
魔法陣中央から、なにか浮かび上がって来た。そして、光は途切れた…ゆっくりと全員近寄る。
それは…
「あぁ」
博影が、ため息交じりに呟く。
「博影、これは? そなたの物か?」
公爵が尋ねた。
「はい、これはこちらに召喚された際、手入れをしていた弓と矢です。父の形見のようなものです」
服と腕時計しか、この世界に共に召喚されなかったと思ったが、
アーチェリー・コンパウンドボウと、クロスボウ、矢やケースなど、魔法陣が絨毯に現れた際、手入れの為近くに置いてあった物一式が目の前にあった。
「弓か…こちらの弓とは、かなり違うな…」
ボッシュの言葉には、弓に対する興味はなさそうだった。
「まぁ、私の国では競技で使う物ですから、私の世界の他の国では、趣味的な狩猟に使う事もありますが…」
言ってる事は、嘘ではない。ただ威力はこの世界の弓より数段上だと思うが、変にこじれたくないので黙っておく。
沙耶が駆け寄り、クロスボウを持ち上げ懐かしそうに指でなぞる。前世界では、まったく興味なかったのに…
しかし、その沙耶の気持ちは、気持ちが込み上がってくるほど共感できる。博影もまた、アーチェリーを拾い上げ、握っていたから…
「それでは、その弓矢等は、博影殿の物だ。すべて、持って行きなさい」
公爵が、そろそろ出ようかと促す。
「公爵様、ありがとうございます。父の愛用の弓でしたから、本当に嬉しいです」
沙耶と2人、深々と頭を下げ、もういちど天井の魔法陣、床の魔法陣を見る。
そして、床のケースやバックなどを拾い上げ、部屋を出た。




