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M03-08

 久我透哉くがとうやのBMD-T07は海底でうずくまるように座っていた。ゆっくりと呼吸しながら心をしずめる。あわただしい海上の波間と違って、ゆったりと海流が流れていく様を感じ取れる。陸側には沈んだ港町が潮騒をかなでている。太平洋へと続く広大な海側にはクジラなどの大型哺乳動物たちがうたっていた。

 少しずつポイントをしぼって意識を『カイラギ』へと向ける。切り残した呼吸器官が水流を吐き出す音が近づいてくる。神崎彩菜かんざきあやなのBMD-A01がつくりだす尾びれの音と呼吸器官の音はリズミカルでエネルギーに満ちていた。久我透哉くがとうやのBMD-T07の呼吸器官の音はなめらかで、まるで海中をすべっているようだ。先に戻る2機の『バイオメタルドール』の音は次第に遠ざかり、『カイラギ』の音が徐々に大きくなってくる。

 久我透哉はまわりのノイズを切り捨てて『カイラギ』に集中する。『カイラギ』の中に複数の呼吸器官が息づいているのがわかった。

「いる」

本部の推測は正しかった。

 全長53メートルの巨大な『カイラギ』が頭上を通過するとき、久我透哉はその数をかぞえた。

「1体、2体、3体、4体、5体、6体、7体、8体、9体、10体、11体、12体、13体」

12体の『カイラギ』の呼吸音は彼が戦った戦士型のものとよく似ていた。最後の1体は解体型でも戦闘型でもなかった。もっと荒々しく、強い力を感じた。事態は最悪のシナリオと言えた。戦士型、1体でもBMD-T07の能力ではたおすのがやっとだった。13体の『カイラギ』と戦うのは勝率を計算しなくても無謀むぼうと言えた。『カイラギ』が遠ざかるのを待って、BMD-T07は水面に向かった。波間から顔を出して、BMD-T07のゴーグルについた無線機で本部に連絡を入れた。

「T07より、本部へ。『カイラギ』の中に別の呼吸音を確認。数、13。12体は戦士型。残り1体は不明も上位型と推測します」


 久我透哉の報告を受けて陣野真由じんのまゆは撤退を決意した。調査船の建造もようやく終わり、調査の準備が整いつつあるのは残念だったが、ここで特異能力を持った3人のパイロットを失うわけにはいかなかった。

「調査船並びに造船所を含めた一特いちとくの施設、一切を放棄して撤退するしかないわね」

山村光一やまむらこういち陣野真由じんのまゆにたずねた。

「あの船を準備するのに相当な費用と根回しが必要だったって三村みむらさんから聞いたけど、このチャンスを逃したら『カイラギ』の調査は二度とできないんじゃないんですか」

「A01より、本部へ。逃げるのはいやです」

スピーカーから神崎彩菜かんざきあやなの叫び声がひびいてきた。陣野真由はオペーレーターの園部志穂そのべしほをにらみつけた。園部志穂がマイクの感度を上げていたのだ。

「T07より、本部へ。A01に同意します」

久我透哉くがとうやからの返答だった。続けて陣野修じんのしゅうからの返答も打ち込まれてくる。

『Z13。戦います』

「あなたたち。調査船と一緒に死にたいの」

いつもは冷静な陣野真由がこぶしを固く握りしめてどなった。

「調査船は動くのかな」

山村光一は園部志穂にたずねた。

「はい」

「スピードはどれくらいでます」

「高速船なので最大船速で時速80キロは可能です」

「なら『カイラギ』を振りきれるんじゃないか」

「はい。きっとだいじょうぶです」

二人の会話を聞いていた陣野真由は根負けした。

「若いわね。あなたたち」

彼女はマイクを握りしめた。

「調査船、出向準備。クルーとBMD整備兵は直ちに乗船。非戦闘員は車両にて退避。造船所を含めた一特いちとくの施設は放棄します」

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