M03-07
『バイオメタルドール』の感覚神経はパイロットに接続されていたため、搭乗すると自分が身長6メートルをこえる巨人になったかのような感覚におそわれる。そのパイロットからみても全長53メートルの『カイラギ』は巨大だった。こんな巨大生物に対して小刀で戦いをいどむのは、相手がおとなしい生物であったとしても勇気のいる行為だった。神崎彩菜は「大丈夫。この子ならやれる」と心の中でBMD-A01に言い聞かせた。
『カイラギ』の背中に並んだ3列の呼吸器官の内、中央の列をねらって背後から襲いかかる。久我透哉のBMD-T07が右の列。陣野修のBMD-Z13が左の列を担当した。呼吸器官のつくりだす海流を避けて、斜め後ろから列の最後部、11個目の呼吸器官に取りついた。渦巻き状の貝が二つ、羽のようにはえた形の呼吸器官の根元に小刀をつきたてる。
ズブリ。
動物を突き刺す腕の感覚が生々しく伝わってくる。『カイラギ』の赤い血液が大量に流れだして視界をふさいだ。かまわずに手探りで小刀をくるりと回して一対の呼吸器官を切り落とした。そのまま、後方に投げ捨て、前方にある2つ目に向かった。2、3と切り進む。
「こいつ、なんの反応も示さない。痛みを感じないの」
『カイラギ』は血の煙幕をまき散らしながら、抵抗することもなく陸へと向かって真っすぐに進んでいく。いったいこいつは、なんのために自分たちの方に向かってきたのだろうか。自分たちがこいつの進路で、たまたま訓練をしていただけなのだろうか。単純な作業を繰り返すうちに不安が頭の中を支配しはじめる。
『カイラギ』の固い外殻に削られて小刀の切れ味が鈍ってくる。4つ目の根元を突き刺したとき、小刀は折れた。
「A01より本部へ。小刀が折れました。予備の小刀に切り替えますが、現状のピッチでは持ちません」
「T07より本部へ。こちらも持ちそうにありません」
『Z13より。同様』
「本部より、BMD各機へ。了解です。AIより『カイラギ』の目的地は本部と断定。足止めをするためにも作業を続行してください」
園部志穂の指示がとんだ。
陣野真由は山村光一にたずねた。
「あれ、いったいなにしにくるのかしら。大きいのはわかるけど。あなたはどう思う」
「トロイの木馬じゃないかな。『カイラギ』は海に住んでいる割に、水棲動物っぽくないって野島さんが言ってました。エビやカニなどと同じ海底生物だとしても脚が太すぎる。あの体つきは陸に暮らす生物だって」
「じぁ。あれは『カイラギ』を運ぶ運搬船ってこと。・・・」
陣野真由はあわてて園部志穂に指示をだした。
「まずいわ。園部さん。あの中に戦士型の『カイラギ』が隠れているとしたらなん体はいるかAIに計算させて」
「はい」
『カイラギ』の移動に合わせて、ドローンを移動させていた園部志穂がキーボードをたたいた。AIは『カイラギ』の三次元映像とともに計算値をモニターに映し出した。
『推定、12体以上』
「園部さん。『カイラギ』との距離は」
「距離7580メートル。時速57キロメートルで接近中。本部までの到達予想、約8分です」
陣野真由はマイクをとって叫んだ。
「作戦中止。各BMDは至急帰投。整備班は陸戦用装備を準備」




