血の繋がりー5
立ち上がった二人の姿を見て金色は激しい混乱に陥った。全身から血を流して体をふらつきさせながらも二人は再び襲いかかってくる。考える暇もなく二人の冒険者の連携攻撃が金色に牙を向く。それら全てをかわしいなしながら金色は恐慌状態に陥っていた。
「なんだ、何なんだ……お前らは」
本気の一撃を食らわせたのだ。並みの魔物など五体がバラバラに引き裂かれ原型を留める事などない。ましてや人間など……!
第一、彼等を圧倒していたサンドワームですら金色の一撃には耐えられなかったではないか。それが何故……
それは端から見れば奇跡、と言うべきものなのだろう。魔族の中でも上位に位置する銀狼族、その中でも再強を誇る金色を人間の冒険者二人が圧倒しているのだから。金色には訳が分からなかった。まるで不死族と戦っているようだった。いや、不死族だろうと金色の全力の攻撃を受ければ体をバラバラにされて戦闘不能状態には陥るだろう。だが今金色の前に立ちはだかるこの二人は明らかにそれ以上の何かだった。
とはいえ彼等の攻撃は金色には通用しない。というより、当たらない。いくら不死身の如く復活し攻撃を仕掛けようと両者の間にある戦闘技術には雲泥の差があるのだから。そして彼等の常軌を逸した奮闘も所詮は一時的なものであり長くは持たないであろう事も見る者が見ればすぐに分かる事だった。そして、彼等の奮闘が単なる根性といった精神的なもののレベルを逸脱していた事を。
当然彼等は死力を尽くして戦っている。生命を削って力に変えている。だがそれだけでは金色の一撃を絶えた事に説明がつかない。彼等は、彼等の一族の間で禁じ手とされる呪術ーー魔術の力を借りていた。
オンスとメリヤは遥か昔に滅びたとある一族の末裔ーー唯一の生き残りだった。魔術を扱う事に長けた彼等は歴史の中で暗躍し呪いや暗殺によって裏から国を支えていた。操っていたとも言えるが……。その力を危険視された時の権力者の命によって彼等の一族は捉えられ処刑された。
唯一難を逃れて生き残った二人は故郷を離れ遠い異国の地で冒険者に身をやつしながらそれでも一族の再興を誓って新天地を求めて旅を続けていた。そしてようやく待望の跡継ぎーー未來への希望が生まれたのだった。この子を失う事は即ち一族の全てを失う事に等しいーーだからこそ彼等は彼等の一族の中ですら禁じ手とされ封印されてきた秘術を使って戦っている。
それは、己の命を捧げるのみならず、その死後の魂までも異界の悪魔へと捧げ、戦う力に変えるというものだった。ここで仮に金色に買ったとしても二人は死に、残された赤子も死ぬかか生き残ったとしても親無し子として過酷な状況に落とされる事は明白だった。
ただ、彼等が己の命、魂までも捧げる覚悟で事を運ぼうとしても思惑通りになるとは限らないのが、世の常であり厳しさであり、ある意味では……救いでもあった。
恐慌状態になりながらも無我夢中で彼等の攻撃を凌いでいた金色だったが彼等の攻撃が止んだ事に気付き目をやった。すると彼等は地面に突っ伏し倒れていた。呆然としながら見ている金色にメリヤがきぎぎ、と動かぬ首を無理矢理動かして顔を向けた。
「お願い……あなたの目的は何なのかは分からない。けれどあの子の命だけは……」
それは、最後の懇願だった。己の全てをかけ命を削り魂を捧げても尚金色には勝てない。その非常な事実を認めたメリヤは禁術を解き、最後の手段に出たのだ。
即ち、金色の良心に訴えかけるという手に。




