血の繋がりー2
二人は番の冒険者だった。
雄の名はオンス、雌の名はメリヤといった。
二人はサンドワームから救って貰った事に感謝し、大層喜んだ。その喜びように金色が困惑していると、二人は種を明かした。
メリヤの腹には子種が宿っている。
勿論、オンスの子である。
そこまで説明を受けてやっと金色は二人がサンドワームという格上の相手に持ちこたえられた訳に気付いた。
つまり、生まれてくる我が子の為に二人は死力を振り絞ったのだ。その後金色は二人に大したもてなしは出来ないがぜひお礼がしたいという事で彼等が冒険の拠点にしているキャンプに招待された。
正直言ってあまり人間の世界に精通しているとは言えない金色でさえも粗末な造りだと分かるキャンプだった。使われて長い年月が経っているのかあちこちが錆び付いたり穴が空いたりで所々を修復しつつ騙し騙し使ってます、と言わんばかりの有り様だった。
しかしそれも刃の森という厳しい自然の中で暮らす銀狼族の金色からしてみれば雨風が凌げるだけマシというものだ。
何よりもまず金色は人間に感謝され礼を受けるという体験そのものが珍しく面白い事だったのでそこら辺の事は別にどうでも良かった。金色にとって大事なのは、自分の好奇心を満たしてくれるかどうかだ。そしてこの二人はどうやら充分に金色の好奇心を満たしてくれるようだ。
非常にひそやかではあるが二人の精一杯のもてなしが始まった。二人が冒険の合間に仕留めた獣の肉をつまみに安酒で乾杯して飲んだ。普段酒など飲まないので金色はここぞとばかりに飲みまくった。たちまち酔いが回り全身ふらふらになる。
それは金色にとってとても心地のいい時間だった。生まれた頃から次代の長未来の魔王と期待されあらゆる束縛を受けてきた金色は、どれだけの成果を出しても感謝される事など無かった。それどころか周囲との軋轢を生み恐れられるばかりだった。
他者からの好意というものに触れる事が無かったのだ。だからこそ男漁りにのめり込んだという側面もあったのかもしれない。所詮は性的な、偽りの人間の姿にかけられるものであったとしても男からその容姿をスタイルを誉められるのは金色にとって快感だった。男漁りが出来なくなってしまった今、純粋な好意を向けられるというのは金色にとって大きな喜びだったのだ。
しかしそんな喜びも長くは続かなかった。予想だにしなかった異変が二人の冒険者を、いや、メリヤを襲ったのだ。
それは陣痛だった。サンドワームという怪物との命をかけた戦いが体に何かしらの影響を及ぼしたのか、メリヤは激しく傷む膣に苦悩した。金色もオンスも全く役には立たなかった。ただおろおろと狼狽えるばかりでメリヤが指示を飛ばすまで何も行動に移せなかったのだ。
湯を沸かし、布を用意し、短くなってくる陣痛の間隔に耐えながらメリヤは戦った。冒険者としてではなく、女から母へと変わる為のその戦いにメリヤは勝利した。小さな産声を上げる赤子を、金色は不思議なものを見る目でじっと見詰めていた。
オンスは、メリヤによくやったなと声をかけながら感極まったのか涙ぐんでいる。メリヤは、戦いに勝利した母として晴れやかに笑っていた。
生まれて始めて見る人間の赤子は何とも珍妙な、不思議な生き物だった。顔は赤くしわくちゃで、掴めばへし折れてしまいそうな程に柔らかく脆い。金色は銀狼族の赤子を見た事があるが、銀狼族の赤子は生まれてすぐに自らの足で立って歩く。自らの足と口で母の乳を得るのだ。そうでなくては生きていけない。しかし今目の前にいるこの人間の赤子は、自らの力では何も出来ないか弱い存在に見えた。
赤子を可愛い可愛いといって持て囃し喜ぶ二人に金色は内心この猿のような醜く弱い生き物のどこがそんなに可愛いのかと不思議に思って首を傾げていた。