血の繋がりー1
それから更に10年の歳月が流れた。
金色はカザブの町の一件以降刃の森より外への外出を禁止されていた。が、本人はどこ吹く風といったところで度々監視の目を盗んでは人里に降りていた。
とはいっても流石にもう男漁りは止めた。カザブの町での失敗は記憶に新しく、金色にとっての黒歴史となっており再びあのような失態を晒す危険を犯す気にはなれなかったのだ。
では人里に降りて何をしていたかと言うと、人間を見ていた。
金色にとって人間は面白い生き物だった。群れで一つの固まりを形成する銀狼族と違い人間はひとりひとりが様々な考え方を持ち違う行動を取る。かと思えば有事の際には結束して強固な結束を見せる。かと思えば、裏切り者が現れたり互いに疑心暗鬼に陥ったり……
とにかく、「人間とは、こういう生き物だ」という定義をしにくい生き物だと金色は感じていた。
人間とは弱く愚かな生き物だと言う者がいる。
かと思えば人間は強い、魔族にはない力を持っていると正反対の事を言う者がいる。
そもそも人間になど興味はないと言い切る者がいれば、
金色のように人間に興味津々の者もいる。
面白い事にこと人間が関わると途端に魔族にも多様性が生まれるのだ。
魔族には多様性だとか成長性とかいう要素があまりない。魔族の強さは血統で決まり成人してから大きく力を増すという事は殆ど無い。そして種族によって大体行動パターンが決まっているし、住む場所を変える事もあまりない。
しかし人間は種々様々な個性を各々が持ちつつも、町や村などの共同体を形成し、そしてそれは場所や時代によって色々な変化を遂げる。
銀狼族という狭く閉ざされた領域の中で生きてきた金色にとってそういう人間達の在り方は非常に興味深くまた面白いものだった。金色は度々人里に降りては人間を観察し楽しんでいた。
そんなある日の事である。
例によって人間の姿に化けて人里を巡り駆け回っていた金色の目に一組の冒険者の姿が目に移った。冒険者達は魔物に襲われているようで激しい戦闘音が金色の耳に流れてくる。
「まずいな。サンドワームか」
金色はそう呟いて冒険者達の身を案じた。
サンドワームとは文字通り砂の中に住むワーム(虫)の事を指す。その身体は大きく、成虫ともなれば全長7~8メートルもの大きさになるのだ。人間など簡単にひと飲みにしてしまう。
だがサンドワームの真の恐ろしさはその大きさではない。本当に恐ろしいのはその大きな身体を覆う表皮である。サンドワームの皮は柔軟性と硬質さを併せ持ちあらゆる攻撃を弾く。非力な人間の攻撃など全く意に返さない。唯一通用するのは魔法、それも大魔法以上の威力のみ。
魔法には大きく分けて二つの領域がある。
常人が使える魔法の領域は上、中、下、この三段階までであり、それ以上の領域、大、極大、超絶ともなると一握りの天才と呼ばれる存在しか扱えない領域である。特に最高位の超絶魔法など最早神話の領域の存在であり現世においてその存在は確認されていない。
つまり一般人が持てる力の限界は上級魔法までであり、事実上サンドワームに一対一で勝てる人間などまずいない。サンドワームは熟練の冒険者達がチームを組んで戦えるかどうか、という非常に危険で恐ろしい魔物なのだ。とはいえ銀狼族はそのサンドワームの防御力に魔法耐性までつけた怪物なのだが。しかもサンドワームと違い群れで行動するのでその危険度はサンドワームの比ではない。『死神の使い』と呼ばれ出会ったらまず生きては帰れない存在として恐れられている。
要するに金色にとっては怖くも何ともない存在という事だ。しかし冒険者にとってはそうではない。見た所サンドワームに襲われている冒険者は非常に頑張っていると言えた。何しろたった二人でサンドワームの攻撃を凌いでいるのだから。
それは金色にとって非常に興味深い、『面白い』状態であったと言える。何しろその冒険者達の戦闘能力ではサンドワームの攻撃を凌げない筈なのだ。金色程の実力者なら両者の力関係などすぐに見て取れる。両者の実力差は歴然で、冒険者達はとっくにサンドワームの胃の中に収まっているかもしくは五体をバラバラにされて無惨な死骸を晒していなければおかしい程だった。
だが、生きている。彼等はあちこちに傷を追いながらも今だ致命傷は避け戦い続けている。何故彼等は生きていられるのか。金色はそれを知りたくて彼等の戦闘をじっと観察し続けていたのだが、流石の彼等も時間の経過と共に体力を失い徐々に追い込まれていった。
このまま放っておけば彼等は殺されてしまうだろう。どうしても彼等の異常とも言えるその健闘の秘密が知りたくて金色は彼等を助けてやる事にした。
いきなり戦闘に割り込んできてサンドワームを真っ二つにした女戦士の登場に二人の冒険者は目を点にしてしばし呆然と佇んでいた。
(豆情報)実はこの冒険者の二人はルクスの先祖だったりします。




