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恋した貴方はハーレム勇者  作者:
第三章
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嘘の代償

 頭の中をたくさんの言い訳がめぐる。


 実際には何も無かったのだし、私は途中までただ相談役をすれば良いと思っていた。もしかしたら、勇者が求めているのはもっと違う、男と女の関係なのではと考えるようになってからも、それ以上進ませる気はなかった。


 だが、それを彼女たちに説明して納得してもらえるだろうか。私が彼を好きなことは事実だ。見えないところで、こそこそと勇者と二人きりだった私の言葉など、彼女たちにとっては全く信用出来ないものに違いない。


「ごめんなさい」


 私はただ謝った。それしか口に出来なかったのだ。


「謝ってどうになる問題ではない。リフィエ、すまないと思うのなら、正直に答えてくれ、お前はユウマが好きなのか?」

「……はい」


 ここで嘘をついても無意味だろうと思い、私はうなずいた。三人は、やはりと言いたげな顔でそれぞれに目を見かわした。何だか裁判を受けている様な気がする。いや、実際そんなものだろう。

 サーミュは疲れたように問いを続ける。


「いつから」

「旅に出てからです」

「ユウマの部屋で何をしていた?」

「話相手と添い寝を……一人だと眠れないと言われて、それだけです。彼には好きだとは言っていませんし、夜の相手をするつもりはありませんでしたから」

「本当に?」


 疑いの目で見られる。仕方がない、私は嘘をついたのだから。


「本当です」


 三人は、どうしたら良いものか悩んでいるようだった。


「信じられませんわ」

「そうだな」


 ウェティーナの冷たい声に、ツィーラが相づちを打つ。サーミュの深いため息が痛かった。


「リフィエ、お前はどうしたい? このまま旅を続けるか? だがあたしたちは、嘘をついたお前を仲間として扱うのは気分が悪い。もし同行を選べば、ただついてくるだけになるだろう、聖女様も同行するようになった今、余計にな」


「それはわかっています。私は、次のウェーンデン王国の王都で離脱を神殿に伝えるつもりでした。そうすれば、正式にパーティを離れられますから」


 そう言うと、三人全員が驚いたように目を見開いた。

 私はその表情を見て、三人が私を認めていてくれたことを悟った。だからこそ、こういう形で裏切ることになったことを、心から申し訳ないと感じた。

 

「私が足手まといなのは最初からわかっていました。もし、離脱するのならいつがいいだろうって、ずっと考えていたんです」


 言葉を失ったような三人を見て、私は言う。


「色々とごめんなさい……今までありがとう」


 良かった、ちゃんと最後まで泣かないで言えた。


 私は、精いっぱいの虚勢を張ってお辞儀をすると、三人の横をすり抜ける。


 ここで別れようという意味だ。三人もそれを察したのか、追ってはこなかった。そのまま街道を足早に行く。正式にパーティから離脱するには、神殿へ行って名前を削除してもらう必要がある。行く先はもう決まっていた。


 だが、その前に休みたい。


 精神的にも、肉体的にもくたくただった。気分はぼろぞうきんだ。それでも、妙に気持ちがすっきりしている。少なくとも、これからは自分の気持ちにケリをつけるだけでいい。思い悩まなくて済むのだ。そう思うと、気が抜けたのか、全身をすさまじいだるさが襲う。


「……終わった、のかな」


 顔を上げれば、空には薄く雲がかかっている。これから訪れる冬の予兆だ。遠くへ視線をやれば、刈り入れ真っ最中の人々の姿が小さな点に見えた。

 その姿に、初心がよみがえってくる。


「歩いて行くと決めた道から、少しそれただけよ」


 そう、ずっと僧侶として一生を静かに送るつもりだったのだ。

 ほんの一時、淡い夢を見ただけのこと。私は大きく息を吸い込んで、ひたすらに歩を進めた。



  ☆  ☆



 ウェーンデン王国へ向かう街道にある交易都市、ウィーマ。


 元々通るはずだった町よりもやや北にあるそこで、私は小神殿を訪ねることにした。そこそこ大きな街には小さくとも神殿があり、困ったことがあれば、人々は役人の前にまず僧侶を頼る。

 そこで解決できないようであれば、大神殿へと送られるのである。そのため、各国の中枢には、神殿関係者が務めていることが常だった。


 また、各小神殿には一番近い大都市の神殿へ移動できるゲートが設けられており、すぐにでもウェーンデンの王都へ向かうことが出来る。私はそれを利用するつもりだった。


 本当は到着した翌日に訪れるつもりだったのだが、相当に疲れていたのか、中々体が動かなかったのだ。なので、昨日一日は回復に費やした。それでもまだ微妙に体が重いのは、恐らく精神的なものだ。こればかりはじっとしていてもどうにもならない。


 私は宿で食事を摂ると、早々に神殿へと足を向けた。


 街は活気にあふれ、異国情緒にあふれたものも多く見られる。それらはウェーンデンの王都から運ばれ、ここからさらにアル=ラティーナ王国へと向かうのだろう。店主と客の掛け合いを聞きながら、私はゆっくりと歩いた。


 久しぶりに、誰に気兼ねするでもなく歩けるのは嬉しかった。少しくらい寄り道しようか、と思い、かつて好物だった菓子を売る店に視線が吸い寄せられる。それは日持ちのする乾菓子で、懐かしい匂いがした。生地の中に砕いた木の実をまぜたものには、香辛料でさまざまな風味がつけてある。

 私は匂いにつられて店に寄ると、懐かしい菓子を購入した。


 口に入れると、かなり固い。しばらく口に入れていないと飲み込めないが、それすら懐かしい。菓子をかじりながら私は神殿を目指す。

 空は快晴、空気もからりとしていて、もう少しすれば暖かくなるだろう。


 もともとこの辺りはあまり雪が降らない。


 ぼうっと歩いていると、何やら前方が騒がしいことに気がついた。


「何だろ?」


 面倒事には関わりたくないし、別の通りから行けないだろうかときびすを返す。何やら女性たちが、すごい格好いい、本物よ、などと叫ぶ声が聞こえた。私は嫌な予感に襲われた。

 いや、考えすぎだ。世界には顔が素晴らしく綺麗な男性などたくさんいるのだ。

 きっとどこかの貴族とかだろう。


 急いでその通りから別の通りへ入り、そこから神殿を目指す。


 目標は鋭い尖塔だ。あれこそ、神の世界へ近づくためにどこの神殿にも設けられている象徴だ。私は柔らかくなった菓子を飲み下す。もう騒ぎは聞こえない。


 やがて、大通りに出る。


 旅人が行き来する、ウィーマで最も大きな通りだ。神殿の入り口はこの大通りに面しているのだ。私は気を引き締めた。どうしてパーティと同行していないのか聞かれるはずだ。その際には、役立たずになったことと、行方不明だった聖女が見つかったことを伝えるつもりだった。

 レフィセーレを神殿がずっと捜索していたことは知っている。これは重大な情報だろう。

 きっと、元・勇者パーティにいた地味な一女僧侶のことなど放っておいてくれるに違いない。と言うか、そうでなくては困る。


 よし、と気合いを入れて、私は通りへ足を踏み出した。


 その時だった。


「リフィエ!」


 耳にしたのは、もう二度と聞くことはないと思っていた声だった。



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