人違いの真相
リチャードは、心から感心した様子だ。
「突然馬にされた時、冷静に指示に従うなんて、なかなか出来るもんじゃない」
「ありがとうございます」
誉められたので、メレニアはお礼を言う。
「解除の魔法も、すんなり受け入れて無駄に騒がないし」
貴方の眼差しに囚われてしまいました、などとは言えず、もじもじするメレニア。
「今度は、命の危険があるってのに、王族による圧迫面接会に強制参加だろ?楽しめるなんて。いやあ、豪気だ。惚れちゃうぜ」
「はっ?」
メレニアは真っ赤になり、リチャードが慌てる。
「あ、悪ぃ。俺、平民出身だから。失礼なもの言いしたな。これだから、夜会だとかお茶会は、避けてんだが」
「それは、誠に申し訳なく」
「謝んな。俺が申し出た事だ」
「ストリングス様には、危ないところを何度も守っていただき、感謝しかありません」
優雅に頭を下げるメレニアに、リチャードは、砕けた様子で話を続ける。
「リックでいいよ。堅苦しいのは、苦手だ」
「リ、リックさん、では、今日は、よろしくお願い致します」
声が裏返るメレニア。リチャードは、声をたてて笑った。
「なんだ、あんた、可愛いな!」
「へええー」
メレニアは、淑女にあるまじき間抜けな声をあげ、リチャードは益々笑ってしまう。
(よしっ、この雰囲気なら言える)
メレニアは、勇気を出してお願いする。
「あの!でしたら、私のことも、レニーとお呼びくださいませっ」
リチャードが、笑い声を納めてニコッとする。メレニアは、ドキリとして心臓を押さえる。
「レニー、あんた、本当に可愛いな。役得だぜ」
「ひゃあ~。こちらこそ、リックさんのような素敵な方にエスコートしていただき、人違いに感謝したいくらいですわ!」
リチャードはまた笑い出す。
「いやもう、大人しそうな顔して、たいした豪傑だぜ」
「真面目な娘なんですが。目下興味があること以外は、てんで気にしない困った奴でして。お恥ずかしい」
はらはらしながら様子を見守っていた薬草卿ミルレイク子爵が、とうとう口を挟む。
「レニー、魔法使いに向いてんな!薬草卿、どうです?鍛えてみたら?魔力量なんて、どうとでもなるでしょ」
リチャードは、秘術の事を言っているのだ。ミルレイク子爵家の薬草魔法には、魔力量を増やしたり、魔質を変えてしまったりという、禁術に近い奥義があるらしい。メレニアにはまだ、詳しく知らされていないが。
「ストリングス魔法卿!滅多なことを口にされては」
「レニーには、その価値がありますよ」
急に真剣になったリチャードは、父からメレニアへと視線を戻す。
「俺の補助があったとはいえ、あんなに簡単に虹色魔法が解けるなんて、凄いことなんだぜ」
「卿」
「薬草卿。やはり、話しておいたほうがいい」
父は、後ろに控えていたリリーを下がらせる。メレニアは、突然の深刻さに落ち着かなくなった。
父ギドンは、深く溜め息を吐くと、観念したようにメレニアと向き合う。
「レニー、最初は人違いかも知れない。だけど、いくらなんでも、魔力が触れあえば人違いに気づくよ」
「だから、わざわざ強力な御守りを特殊な魔法でむしりとってまで、2度目の攻撃を仕掛けて来るのはおかしいんだ」
1度人違いをしたら、慎重になるのが普通だ。
「そもそも、誘拐犯や暗殺者には、そっくりさんの存在は知れ渡っているだろうしな」
「え、リックさんは驚いてましたよね?」
「俺は、王女警護でも犯罪者でもねえからな」
「レニー、普段は私の魔法で、そっくりだと解らないようにしているんだよ。ストリングス魔法卿や虹色の魔法を操れる程の実力者には、効かないけどね」
秘術に関する事は、開示前の家族にすら伝えないものなのだ。
「そっくりさんの存在は、王女警護とミルレイク子爵家しか知らなかったんだ。犯罪者は、まあ、あれだ」
「蛇の道は蛇、ってやつですか?」
「そ」
「だから、最初の人違いは、余程そそっかしい奴だったんだろう」
「災難だったな」
次回、圧迫面接