圧迫面接
そっくりさんの存在が解っていなくても、見た目だけで判断などしない。普通は魔力の性質、つまり魔質で本人かどうかを判断する。影武者だっているのだから。
なまじ認識を歪める魔法を使っていたために、粗忽な犯罪者から、お忍びの王女と間違えられてしまった。王族にしか使用されないほどに、高度な魔法が仇となったのである。魔法を見て王族と断定し、魔質を見ずに誘拐しようと魔法を仕掛けたのだろう。
「それがきっかけで、お前自身が狙われている可能性が捨てきれない」
「お父様?」
「虹色魔法で変身させられたら、徐々に魔法を薄めていかないと解けないものなんだ。」
「それなのに、翌日呑気に茶会やら買い物やら、してたんだからなあ」
「それでなくても、か弱いご令嬢なら、怖くて閉じ籠るんじゃないかな?」
「お父様っ」
好きな人の前で、お気楽を暴露されて怒るメレニアであった。
「さ、もう行きなさい。遅れるよ」
先程までの重い空気は何処へやら、半笑いの父に追い出される。門を出ると、王宮まで瞬間移動する。
門衛が招待状を確認して、会場に向かう列へと案内された。他の参加者は、男性の腕に女性が手を預けている。どの組も男女どちらかが、必ず国選パートナーである。
リチャードとメレニアも、なんとか形を取り繕う。
「こうか?」
「えっ、たぶん」
この国の王宮夜会は、所謂デビュタントボールではない。ドレスの色や形も指定されていない。だが、毎回15、6歳の初参加者が数人招かれる。今回のメレニアもそうだ。
家族ではない国選パートナーに導かれ、王族に挨拶する。そのあとも、王族に見守られながら有力貴族と交流させられる。
リチャードが、「王族による圧迫面接」と言ったのは、そのためだ。
「ま、なんとかなんだろ」
「はい」
リチャードは、参加義務のある王宮夜会すら総て欠席してきた。メレニアは、初めての夜会である。一応、マナー教師には習っている。しかし、様々な緊張から、総て頭から飛んでいる。入場からして、出鱈目であった。
会場の入口で、再び招待状を渡す。名前が読み上げられ、メレニアはますます緊張した。リチャードも、仏頂面を強張らせる。
魔法使いに適性のある人々は、みな、どことなく社会性が無い。
王族もそれは承知しているので、2人の入場から挨拶までを苦笑しながら耐えていた。
「薬草卿のご息女だな」
「はい」
「卿によく学び、よき後継者たれよ」
「はい」
メレニアは頭が真っ白で、ハイハイと機械のように返答する。一歩下がって立つリチャードも、居心地悪そうに口を引き結んでいる。
「では、楽しんで行きなさい」
2人が頭を下げて次の人に順番が回ると、王族は明らかに顔を緩めた。
(失礼しちゃうわ!ミルレイク子爵家の秘術は、建国以来、陰から王家を支えて来たのに)
ちらりと隣を見上げると、リチャードも不愉快そうにしている。
(魔法卿だって、陰に日向に活躍してるのに。名前や顔は公表されないけど、国民生活を支えているって聞くわ。あんな苦笑いしなくてもいいじゃないの)
壁際のソファから、ちょうどご令嬢が立ち上がる。空いたところへ、リチャードが連れていってくれた。
「飲み物いるか?」
「ありがとうございます。レモン水があれば」
「うん」
(ほら、優しい。意地悪な王族なんかより、ずっと素敵よ。話し方は乱暴だけど、町の人なら普通に違いないわ。)
体格の良い背中を得意気に見送っていると、視界を鮮やかな黄色が遮った。
次回、夜会の魔女




