灰色マントは遠慮します
最終回
表現を少し直しました
誤字修正をしました
リチャードの活躍で、虹色の魔法使いが遂に逮捕された。この誘拐犯には、国際手配がかかっていた。今までどの事件でも虹色の魔法以外の痕跡を残さず、姿を見たものは居なかった。
どの国の魔法使い名簿にも虹色の魔法を使う者は記録されず、正体不明だったのだ。
リチャードは虹色野郎と呼んでいたが、男か女かも知りようが無い状態で何年も経っていた。
黄色の魔法使いについては、悔しい事にどうしようもなかった。顔をハッキリと見たのはメレニアだけ。リチャードも一瞬しか見ていない。王宮夜会の時に遅れて駆けつけた衛兵達も、マントしか見ておらず決め手に欠ける。
「自衛の為にも、魔法を覚えとけよ」
リチャードが、メレニアの手を取って心配そうに言う。
今日は、街にあるミルレイク子爵邸の小庭で会っていた。白い花が芳しい香りを届ける大樹の陰で、2人は白木のベンチに並んで腰掛ける。
「お揃いの灰色マントを着ようぜ」
「遠慮しとくわ」
「俺が教えるよ」
「やめとく」
「何でだよ」
「必要無いもの」
リチャードは、どうやら同じ仕事に着きたいタイプのようだ。メレニアは、共通の話題が仕事絡みになるのは避けたい。
それに、メレニアの魔力は少ないのだ。そのままでは魔法使いに成れない。生活魔法やミルレイクの秘術には充分なのだが。
魔法使いに成るためには、秘術で魔力を増やす必要があった。これは、秘術の中でも禁術に近い。人体や生命を作り替えてしまうのだから。
魔法馬鹿のリチャード・ストリングス魔法卿には、そういった感覚が欠落しているのだ。
メレニアが簡単に虹色の魔法を解くのを見てから、つまり、初対面の時から、リチャードはメレニアの適性を確信していた。適性がなければ失敗して命を落とすかも知れないような、危険な秘術を何の疑いもなく勧めてくる。
魔法使い適性が高く、実は全く一般国民ではないメレニア。誘拐事件の最中から、リチャードはメレニアを魔法使いにしようとして、しつこくスカウトしてきた。
「魔法卿も夢ではないぜ」
しかしメレニアとしては、これ以上魔法使いの犯罪に巻き込まれたくはない。
「人違いの腹いせ」で何度も動物に変身させられ、うんざりしていた。その上凄腕魔法使いに狙われたため、稀少魔法使いと勘違いされた。これからも、黄色いマントの魔女みたいな輩がやって来るだろう。
それだけでも迷惑なのに、魔法使いに成ったりしては他の魔法犯罪にも関わるに違いない。
「リックさんも、お父様も、守って下さるんでしょう?」
にっこり笑う想い人に、リチャードがうっと言葉につまる。
「それはそうだけど」
「ずっと?」
メレニアは、悪戯っぽくリチャードを見る。顔を赤くしたリチャードは、深呼吸してから、きっぱりと宣言した。
「ずっとだ」
それから、メレニアの深緑色をした瞳を真っ直ぐに見つめる。魔法を解く時より数段真剣な眼差しに、メレニアは小さく息を飲む。
「昨日、薬草卿に、求婚許可を得た」
「は、はいっ」
半分混乱しながら、メレニアは何度も頷く。
「ミルレイク子爵家メレニア・フィラン孃に、謹んで申し上げます」
「ふぇい」
メレニアは、恋愛的な場面が苦手だ。恥ずかしくて変な声が出てしまう。後ろに控えたリリーが眉を寄せている。
「私、魔法卿リチャード・ストリングスは、貴女に結婚を申し込みます」
「つ、謹んで、お受けいたしましゅ」
噛んだ。
「ます」
とりあえず言い直す。
リチャードは、破顔してメレニアを抱きしめた。
「何時か魔法を一緒に学ぼうな」
こっちもまだ、諦めていないようだ。
「俺達、まだ16だから、結婚は早くても2年後だな」
この国の結婚可能年齢は、男女共に18である。
だが、問題はそこではなかった。
「えっ、リックさん16?!」
灰色マントの魔法卿は、どうやらとんでもない天才だったようだ。
これにて完結です。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。




