虹色魔法を捕まえろ
舞台を染める夕陽は、薄紫から茜色に変化した。
座長の挨拶と曲目紹介が終わる。楽団は、次の曲に備えて楽器を構えた。座長も、ハープとバイオリンを足したような鍵盤つきの楽器を構える。立ったままで演奏するらしい。
鍵盤を押して音を決め、弓で弦を擦って演奏する楽器だ。ハープのような部分、バイオリンのネック部分、そして鍵盤が、一塊に付いた奇妙な小型楽器である。
楽団員の眼が、総て座長に集まる。座長が大きく息を吸い込む。
ピタッと揃った1音目、広大な森が目に浮かぶ。
弦と笛と打楽器が、高く低く出会っては解ける。小動物や森の乙女の物語が、音だけで紡がれて行く。
座長は時折、ハープに似た部分を爪弾く。変幻自在な音楽が、異国の物語を描き出す。
メレニアは、もう虹色の魔法使い等は微塵も思い出さないで、不思議な音色の紡ぎ出す物語に夢中だ。リチャードを盗み見ることさえ忘れてしまう。
音には、魔法の気配がない。ただひたすらに素晴らしい演奏なのだ。もしかしたら、異国の物語に聞く、妖精から教わった音楽なのかも知れない。
人の世に伝わる魔法とは、異質の力が籠められているようにも感じられた。
短い曲が数曲続く。下手では、歌い手らしき楽団員が出番を待っている。
観客は、目に涙すら浮かべ、まだ見ぬ国の情景を伝える妙音に耳を傾ける。
突然、メレニアを暖かな魔力が包み込む。
(リックさん)
一瞬、ガッチリした胸と腕に守られ、直ぐに解放された。見れば、網のように落ちてくる虹色の魔力を見事に掴んだ、灰色マントの魔法使いがいた。
(間に合ったんだわ)
ついに、虹色の魔法を防いだのだ。
リチャードは油断せず、緊張した顔で虹色の魔法を握り込む。網目状の魔法が、ぐにゃぐにゃと伸び縮みして抵抗してくるが、リチャードは離さない。
周囲の観客は、ステージに集中していて気づかない。瞬間移動してきたリチャードが、掴んだ魔力を手繰りつつ犯人へと近付く。その間に、父ミルレイク子爵が娘の隣まで歩いてきた。
木製ベンチの端に座っていたメレニアが、少し詰める。空いたスペースに腰を降ろして、父が囁く。
「とりあえずは、魔法卿に任せよう」
「しっかり掴んだみたいよ」
メレニアも、得意気に小声で返す。
相変わらず、リチャードの優秀さは自分の事のように自慢する娘に、ミルレイク子爵は苦笑した。若い時分の妻を思い返しながら、父親としては、少々複雑なのだろう。
「この場は、お父様がついてるから、安心しなさい」
「ええ、ありがとう」
王宮夜会の時みたいに、便乗してくる魔法使いがいても、父が隣に居てくれる。父の秘術があれば、充分に対抗出来るだろう。
ボリスとエレーナは、侍女たちに預けて大丈夫だろうか。2人ともまだ子供だ。ボリスは13、エレーナにいたっては、ほんの10歳である。より弱いものが狙われたら、と不吉な想いがメレニアの胸の内に沸き起こる。
「ボリスとエレーナが心配よ」
「大丈夫。お父様も近くに居るし、魔法道具と秘術がある。リック君の魔法もかけてもらった」
「リック君?!」
メレニアが、小声で器用に悲鳴を上げる。
「ボリスがリック兄さまって呼ぶからかな。うつったよ」
父は呑気に笑っている。
(何よぅ。みんなして、どんどん近付いて)
メレニアは、あと一歩がなかなか縮まらず、もどかしいのだ。それなのに家族が、たった半日でぐっと親しくなっている。悔しいったらないではないか。
座長の楽器
擦弦鍵盤楽器+バイオリンハープ(実在するハープ属の珍楽器)。
次回、最終回。
灰色マントは遠慮します
よろしくお願い致します




