異国の楽団
薬草祭の屋台は、庇や柱に様々は薬草が飾られている。薬と花の香りに満ちて、それがまた名物となっていた。
苦手な人には苦痛だが、独特の空気を楽しみに毎年訪れる観光客もいた。また、業者や研究者は、この祭でしか手に入らない薬草を求めてやって来る。
村の広場に組まれた野外舞台にも、たっぷりと薬草が飾られている。舞台の周りにも、ところ狭しと屋台が並ぶ。食べ物、飲み物、雑貨、薬、薬草、と商う物も様々だ。
舞台の近くには、数列の観客用椅子が設置されている。少し離れて、座って食べられるテーブルがある。フィラン家一行は、それぞれ気に入った食べ物を手に、大きなテーブルを囲む。
侍女達も、隣のテーブルで控えている。祭を楽しむようにと言われて、3人ともくつろいでいる。
テーブルには数種類の食べ物を並べ、互いに分けあう。メレニアのハーブチキン・サンドイッチは1人で食べる予定だが、チーズの薬草揚げを提供した。父ギドンは、ハーブを練り込んだ麺と、衣に刻んだ薬草を混ぜこんだ魚のフライを買ってきた。
メレニアの弟ボリスは、焼きソーセージを何種類か持ってきた。余程気に入ったのだろう。妹のエレーナは、少女らしく花の砂糖漬けが一面に飾られたドーナツや、美しい色のハーブゼリーを選んでいた。
リチャードが分けてくれるのは、赤身魚のハーブマリネと、薬草パン、そして、エディブルフラワーのサラダ。自分用には、薬草つみれ汁を買っていた。
「あら、それも美味しそうね」
「食べるか?」
灰色マントの魔法使いリチャード・ストリングスは、事も無げに小分け皿とスプーンを取り出す。虚空から取り出された食器に、ボリスとエレーナが眼を輝かせた。
「お兄さま、どこから取り出されたの?」
「家から魔法で取り寄せた」
「凄いです、リック兄さま」
ボリスも、砕けた呼び方をするまでに仲良くなっていた。メレニアは、
「リックさんは、魔法卿ですもの」
と、得意そうだ。メレニアに誉められて、リチャードは、照れくさそうに微笑んだ。視線を交わす2人の様子に、エレーナがワクワクしている。
小さな村の祭だが、どこにスペースがあったのだろうかと思うほどの屋台がひしめいている。
一行は食事が終わると、雑貨や薬草の屋台を巡る事にした。
「それじゃ、後でね」
メレニアは、計画通りに離脱する。
「気を付けろよ」
「大丈夫。リックさんもお父様も、近くに居るし」
「ああ」
信頼に満ちた声音に、リチャードが力強く頷く。
辺りが夕闇に包まれ、異国の楽団が音出しを始める。
今日は子供たちも、特別に暗くなってからの出し物見物を許された。祭なのだから、当然だ。
ボリスもエレーナも、変わった形の髪型や派手な衣裳を面白そうに見物している。父と侍女達が、その側に座った。
リチャードは、後ろの方で立見である。長身を活かして、会場を油断なく見回していた。リリーだけを連れて、独り離れて座るメレニアは、その堂々としたマント姿の青年に見惚れる。
演奏が始まった。
聞いたことのない音楽を、珍しい楽器が奏でる。1曲目は明るく華やかな、短い曲だった。説明なく始まって、人々の注目を集める。曲が終わると挨拶だ。薬草染めの衣裳を身につけた、バンドリーダーが丁寧にお辞儀をした。
聴衆の拍手が終わると、口上を述べる。
メレニアは、ふとリチャードの方を向く。
(あっ、綺麗な娘が近づくわ!)
ハラハラしながら見ていると、娘さんは、連れらしき青年と隣り合って腰を降ろす。
(よかったあ)
若い女性が、リチャードの側を通りかかる度に、メレニアはひやひやした。時折、リチャードの苦笑いにぶつかって、決まり悪くなるのであった。
次回、虹色魔法を捕まえろ
よろしくお願い致します




