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薬草祭

 ミルレイク領で行われる薬草祭の中日には、毎年出し物がある。前夜祭と最終日、そして後夜祭には、地元の芸事自慢が競うイベントもある。しかし、中日の出し物は、外部から来てもらうのが恒例となっていた。


 今年は、異国の民族音楽を披露する楽団だ。服装も、楽器も、髪や眼の色、肌の色すら珍しい。公演は夕方だ。

 陽が落ちて、祭の屋台が柔らかな薄藍に包まれて行く。屋外ステージで呼び込みが始まる。大人も子供も、物珍しそうに集まって来た。



 メレニアも、村娘のような姿で会場へと急ぐ。リチャードは、いつもの灰色マント姿だ。本当は並んで見学したいのだが、囮作戦なので離れている。


 その代わり、日中の屋台は一緒に楽しんだ。

 リチャードは、昼前にミルレイク領主館に来てくれたのだ。


「お昼は屋台で食べるか」


 父の提案で、一行はラフな格好でお祭り見物に出掛けた。

 フィラン父娘、メレニアの弟のボリスに妹のエレーナ、メレニアの侍女リリー。ボリスとエレーナの侍女たち。

 そして、魔法卿リチャード・ストリングス。お客様というよりは最早身内として、違和感なく一団に馴染んでいる。



 初めて領主館に来てから、まだほんの4日程度。そのうち昼間に子供たちとも交流したのは、今日の半日だけ。

 もともと薬草卿には、個人的に薬草について習っていたと言うこともあるが。


(それにしたって、馴染みすぎよね~)


 リリーは、侍女3人で後ろから着いて歩きながら、不思議そうに眺めていた。

 ボリスは、単純に灰色マントを格好いいと思って懐いた。エレーナは、姉とのロマンスを感じて、早速お兄様などと呼んでいる。



(あんな不機嫌そうな大柄の人なのに、もともと旦那様と仲が良かったみたいだし)


 メレニアが眼にした、リチャードの庭にあった小さな薬草園は、ミルレイク流の基本薬草で構成されていた。

 あの畑を視てメレニアは、灰色マントの魔法使いが父の弟子だと知ったのだった。もっとも、本格的に弟子入りしているわけではなく、何となく気があったから、ちょこちょこ教わったのだとか。


「魔法卿とは、登城日が同じだった時期があってね。休憩もしょっちゅう同じで、食堂メニューの好みが合ったから、いつの間にか話をするようになってさ」


 気がついたら、歳の違う友達になっていたらしい。



 リチャードは、ボリスには焼きソーセージを、エレーナには綺麗な色の薔薇飴を買ってやった。

 薔薇飴は、薬草祭の名物だ。薔薇を(かたど)る飴は、色によって幾つかの味がある。薄紫色はラベンダー、緑のペパーミント、ピンクにローズ、薄黄色を選べばレモンジンジャーだ。


「どれがいい?」

「ペパーミントにする」

「メレニアは?」

「私は、ハーブ鶏のサンドイッチにするわ」


 飴の話をしたつもりだったリチャードは、一瞬変な顔をした。だが、すぐに気を取り直して、エレーナに飴を渡す。


「お兄様、ありがとう」

「うん」


 軽く頷き、サンドイッチの屋台へ移動する。その後ろでは、ソーセージを(かじ)りながら、ボリスが父ギドンと並んで歩く。

 フィラン家は、庶民的領主なのだ。だからと言って、村人たちに侮られているわけではない。

 森と湖、薬草とそれで育つ健康な家畜。広くはないが、何処を取っても豊かな領地だ。村人達は、みな満足に暮らしている。

次回、異国の楽団


よろしくお願い致します

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