62話 王女開放戦 2
入って来たのは四人。
明らかに騎士という恰好ではない。
兜は被らず、黒いマントで身を隠している。中には騎士のような鎧を身に着けているが、動きやすさを重視してかそこまで重武装ではなく軽装。
黒塗りの鎧に黒のマント。顔は隠していて、警備の人間ではないのは明らかだ。
相手もまさか中に誰かいるとは思っておらず、動揺していたがすぐに収まって行動に移す。
四人の内先頭にいた二人が駆け出した。
それはまるで命令された猟犬のような俊敏さ、そして鋭さがある。すぐに間合いに入り込み、刺突剣のような長く鋭い剣で急所を突く。
急所を抉るような一撃にカインはなんとか避け、肝を冷やす。
しかし、それは一回だけではなく何度も何度も連続で叩き込まれる。
後ろに下がって間合いから離れようとするが、ここは室内。すぐに逃げ道はなくなってしまう。
退路がなくなると分かり、カインは素早く剣を引き抜いて応戦する。
二人の刺突剣による連撃は目を見張るものがあり、そう簡単に捌くことはできなかった。
いなし、受け流し、弾き、なんとかその場を退け続ける。それは細い紐で綱渡りをしているような不安定さがあり、ずっと続けられるか、と問われると否と即座に答えただろう。
少しでも反撃しようとすれば、少し離れた所に陣取っている男が襲い掛かってくる。
それほどまでに殺気を放ち、こちらを向けと言わんばかりに気配を出している。
おかげで注意がそれてしまう。
この場をなんとかしなければ、そう考えていると遠くで何かが煌めく。
なんだ、と気づいた時にはもう遅かった。
地面から爆炎が広がり、カインを包み込む。
火達磨になったカインは爆炎による爆発で足元ごと一緒に吹き飛び、ゴロゴロと転がっていく。
身動き一つしないカインに、先程まで戦っていた片割れの一人が近づいてくる。
本当に死んだかどうか、その確認だ。
歩みを止め、爆炎に包まれるカインに刺突剣に叩き込もうとし、身体がビクとも動かなくなる。
手足に影から伸びる帯が巻き付き、動けなくなるようにしているのだ。
先程まで光源が何一つなく、全てが影の中だったため影魔法を使うことができなかった。
しかし、今は爆炎による明かりが光を作りだした。それは光と影を生み出す。おかげでカインは影魔法を使うことができたのである。
拘束してすぐ、カインは爆炎に包まれるマントを放り捨てて身動きの出来なくなった男の首を刎ねた。
神業ともいうべき一撃。拘束して数秒もかからなかった。それほどまでに手馴れていて、何度も行ってきた積み重ねの一撃だ。
刎ねた首はゴロゴロと転がり、刺突剣を握っているもう一人の男の足元に転がっていく。
首のない胴体を拘束する影魔法を解くと、どさりと胴体は崩れ落ちた。
「残り三人」
もう一つの刺突剣、少し離れた所で陣取った男、あとは入口に立つ魔法使い。
真っ先にやるべきは魔法使いだろう。しかし、残り二人が見逃すはずがない。さて、どうしたのものかと考えていると少し離れた所で陣取っていた男が喋り出した。
「影の王か、死んではいないと聞いていたがまさかここにいようとは」
「俺を知っているか。そちらはどちらさんだ、と言いたい所だが大臣の手先か、よく潜入したことが分かったな」
それはカインなりの称賛でもあった。
影の王と謂われるだけあって、潜入行為は長年してきたこともありバレたことなどあまりない。それほどまでに隠密魔法と影魔法のコンボは強力なのだ。
ただ、相手の言葉には少し疑問に感じる事があった。
まさかここにいようとは。それはまるでいることが知らなかったような、そのようなニュアンスにも取れてしまう。
「潜入したことなど分からなかったさ。こちらも野暮用でね、通してもらいんだがいいだろうか?」
ん? なんでこの先に用がある? どういうことだ、とカインの頭の中が疑問が広がっていく。
ここは大臣の家で、家主ならいつでも用を済ませることができたはず。潜入したことが分からない、という言葉が真実ならここに来る予定が今日あったということだ、戦闘する準備をして。
余計に混乱するカインではあるが、答えは決まっている。
「やなこった。俺を倒してから行きな」
この先にはフィラルシア様がいる可能性がある。もし彼女がいると分かれば、何をするか分かった物ではない。
「そうか、ならこちらも全力で潰させてもらおう」
その声一つで、刺突剣の男が駆け出す。
仲間一人が死んだことで精神的ショックを期待していたカインではあるが、技のキレは変わりない。
ただ、相手が一人減っただけでもかなりの精神余裕が生まれる。
「一人減るだけでかなり楽だな、この程度なら殺せないぞ?」
その言葉に刺突剣の男はふっ、と鼻で笑ったかと思うと魔法を発動した。
刺突剣が二つ、三つと増えていく。それが幻覚だと分かっていても、偽物を見抜けないほど精巧にできている。
「これならどうだァ!!」
三本に増えた刺突剣による恐るべき連撃。三倍になった刺突剣は恐怖が三倍になる、というほど簡単な事ではない。
本物が一つしかないが、偽物にも本物どうようの質を感じる。
偽物だから、という理由でもし触れれば貫かれる未来が見えた。
だが、簡単に挑発に乗るほどの性格。そして驚くべきは魔法だ。
魔法は平民では使えないはず。使えたとして稀有であり、ちゃんとした教育でなければ成長しない。ということは……。
「お前、元貴族か?」
その言葉一つほどで技のキレが失う。
分かりやすい奴だな。
「貴族がどうして大臣の元で働く? もしかしてあれか? 貴族の地位を剥奪された口か? 平民レベルの生活に落とすのが嫌でこんな手を汚す仕事をしている訳か?」
「黙れェェェエエエエエエエーーーーー!!!」
激情した。その怒りを剣に乗せ、恐ろしいほどまでに素早い突きが――。
シュンッ! と首に一筋の剣閃が走る。
「怒りに身を任せて戦うのは二流だ。出来ても一流。二流のお前じゃ無理だよ」
刺突剣を突き刺そうとした身体のまま、首から胴体から離れて転がり、胴体は崩れ落ちる。
残り二人だ。さて、と考えようとした時には既にこの部屋には人影がなくなっていた。
「逃げた、か。まあ余力を残すためにもこちらとしては都合がいいか」
死体を後に、カインは入口とは違う扉を開けると地下へ続いている。この先にフィラルシア様がいる。
カインは静かに地下へ降りていく。
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