61話 王女開放戦 1
大臣の家への襲撃は翌日に行われる。
ここは待ったほうがいいかもしれない。同時に襲撃、且つ別の場所からというのは効果的だ。
だが、それは相手が知らなければの話。
大臣は長く王族の謀反を考え、今尚生きている。
こちらの作戦を知っていておかしくない。これが別の国同士、というなら少し話は違って来るが同じ国の中での争い、どこで抜けているか分からない。
それに、大臣は騎士団の方にも手を伸ばしている。騎士団から作戦の情報を抜けている恐れがある。
だから、カインは襲撃を一日早めた。早めた、といっても正確に襲撃したのはラディアント第一王子が定めた襲撃の日と同じ日。
時刻にして早朝、夜明けといってもいい。まだ日が昇っていない時間に、カインは潜入を行った。
大臣の家に見張りは勿論いる。カインが大臣派閥の貴族を襲撃をこの一週間何度もしていたため、大臣も警戒しない訳にはいかず警戒レベルはかなり引き上げられている。
それでも、影の王と呼ばれた最強の暗殺者であるカインからすれば入ることはそう難しくはない。
隠密魔法で気配を限りなく殺し、音を消して入り込む。
カインだけが使える魔法、隠密魔法は姿を完全に消す魔法ではない。もし消せるとしたら、それは完全なる透明化だ。
隠密魔法は気配を消す魔法であり応用で気配を増すこともできるが、今回のような潜入にはもってこいの魔法である。
ただ、この魔法は気配を消すだけであって、音は消えるわけでないし物が動いても他の人から見えるという欠点もあった。
もし大臣の家が魔法による警戒をしていたなら、カインの隠密魔法では察知されていないかもしれない。
しかし、魔法による警戒はコストがあまりにも高過ぎる。
それだけずっと魔法を発動させないといけない訳で、魔力の消費が大きくどこからか魔力を持ってくる必要がある。平民は魔力を持たない人が多いため、必然的に貴族に頼ることになるのだ。
だから、魔法による警戒は基本的にない。
あったとしても、見張りがいないためすぐに分かる。もし見張りを採用していた場合、その見張りが引っかかれば意味がなくなってしまう。
裏から入れる扉が幾つもあり、その中の一つのあまり警戒されていなさそうな所から潜入する。
窓から中を見たため、扉がどこに繋がっているかすぐに分かった。
そこは調理場だ。
正確には、食材を仕入れる場所というべきか。仕入れた食材をすぐに調理場に持って行くためか隣り合わせの造りとなっていた。
日持ちのできる食材が棚に乗せられていて、その部屋を通り過ぎて調理場に向かう。
調理場は台所に調理器具などが綺麗にされており、料理人のプロ意識が伺える。そもそも、貴族に料理人として抜擢されるというのは三ツ星のレストランで働く事と同じくらい名誉な事なのだ。汚す訳がない。
そのおかげで人の気配がないのはすぐに分かった。
もし、ここが汚かった場合それだけ隠れるスペースができる事であり気配を察知できない恐れがある。
さらに調理場を抜けると道に出る。横に広がる一本道、カインはラディアント第一王子から大臣の家の見取り図を貰っていない。
療養しておけ、と命じられたにも関わらず潜入しているのだ。見取り図が欲しい、と頼めるわけがなかった。
当てずっぽうだ。勘で探すしかない。
あとは、誰かに聞くことくらいだろうか。
耳を澄まし、警備がいるか確認する。目を閉じ、他の感覚を遮って耳に意識を集めた。
こつ、こつ、と歩く音が微かにだが聞こえてくる。
左からだ。
普通なら人のいない右に進めばいいが、カインは敢えて人のいる左に向かって進みだした。
理由は二つ。
一つは人に道を聞きたいからだ。もう一つは人がいる、ということはそれだけ何か大事な物を守っている証拠だ。
守りたいのなら、それだけ警備を厚くする。不要な部分は極力削る。
音のする方に、曲がり角で警備がいないか警戒しつつ進むと騎士がいた。
こちらに背を向けている。振り向く前に音もせずに接近して静かに剣を抜く。
背後まで接近すると、相手の膝を狙って自分の膝を曲げた。曲げた膝が相手の膝裏に当たり、急に力を無くしたように崩れ落ちそうになる。
それを後ろから崩れ落ちないように起こしつつ、首に剣先を向けた。
「静かにしろ。大声で喋ったり指一本動かしてみろ、殺す」
騎士はこくこくと何度も頷く。
相手からすれば突然の事だった。膝に力が入らなくなり、崩れ落ちそうになった所を誰かに防がれて剣で脅されているのだ。
「ここにフィラルシア様が誘拐されているはずだ、どこにいるか知っているか?」
騎士は首を横に振る。
知らない、もしくは隠しているのだろう。ただ、この状況で隠すというのは、自分の命が危ないこともあってよっぽど大臣に対して忠実なのか脅されているのか。
考えても色々と浮かび上がってきてしまうため、思考を一旦中止する。
「なら、地下への扉。あとは警備の厚い所を言え」
「寝室、あとは婦人の部屋が二階にある。あと、地下はこの先の道を真っすぐ進んで二つ目の横道を曲がればそれらしい所があったような――」
「そうか、ありがとう」
知らない、という前提で尋ねると色々と面白い話が聞けた。
聞けたのならもう用済みだ。喋っている途中だったが影魔法で口と鼻を覆う。
空気を吸い込めなくなった騎士はもがこうとするが、首には剣が向けられている。
動けば殺す、と脅されていることもあってもがくこともできないまま気を失った。
どっと、こちらに寄りかかって来た騎士に気絶したのだと理解し、影魔法を解いて人の見ないであろう隅に置いて騎士の言った道に進む。
影魔法による窒息は魔力の消費ということもあって、基本的には使いたくない。
ただ、騎士は兜を付けている。もし、頭を叩いて気絶させようなものなら兜が音を鳴らすということもあって出来なかった。
進んだ道が正しいのなら、この先に地下へ続くはずだ。
警備の中をなんとかすり抜けながら進むと、部屋がある。
中に入ればドーム状の石造りの部屋だ。武骨なその部屋はあまりにも大臣の家と繋がっているとは思えなかった。
部屋の中は血で赤く汚れていて、古いのもあってか黒くにじんでいる。椅子と机が何個かあるが、改造されすぎていてそこで何かするのは気が引ける。
壁には色々な器具が飾られているのだが、部屋同様に血で汚れていた。
これは……拷問部屋だな。
部屋にある机や椅子、そして器具は拷問する時に使うものだ。
耐性があるため忌避感はないが、初めての人間が目にすればどういう理由で使われる代物が想像できてしまう。
気味が悪い。早くここから出よう。
カインの入って来た拷問部屋。扉が二つあり、もう片方が地下に繋がるのだろう。
考えてみれば、拷問した人間を収納するための部屋が必要だ。
それなら地下、というのも理解できる。
その扉に向かって進もうとした時、カインの入って来た扉から複数の足音が聞こえた。
こちらに向かって来る足音にカインは動揺を隠しきれない。
敵!? この状況でか? この先進めば、当然見張りがいるはず。合流されるとその分敵が増えるから厄介だな、ここで数を減らすか。
カインは戦う覚悟を決めた時、入って来た扉が開かれた。
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