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56話 黒ローブの騎士の正体 1

 眠り続けていた意識が浮上する。

 ここは……。

 目を覚ました。微睡の意識の為かはっきりと思い出すことができない。しかし、見たことのない天井だ。

 

 どこだろう、と考えた時に初めて認識したものは痛みだった。

 

「ぐっ!!」


 起き上がろうとした身体が痛みで倒れる。

 その衝撃は全て今まで眠っていた寝具が吸収した。衝撃が返ってこない事に驚きつつも、ベッドの質の良さに驚く。

 ばたり、とベッドに倒れる身体の音に誰かが近づく音が聞こえる。

 

「目が覚めました?」


 声のした方に顔を向けると、ティシアがいた。

 彼女は良かった、と言わんばかりの安堵の優しい表情をしている。

 

「やっぱり、騎士と正面から戦うのは無茶だな」


 はは、と乾いた笑いが漏れる。

 起きて早々、口からでたのは軽口であった。

 なんとか身体を起こそうとすると、ティシアが背中を支えてまた倒れないようにしてくれる。

 助かる、心の中で感謝の言葉を漏らす。

 

 胸元を見れば、上半身が裸。素肌全てを晒しているという訳ではなく、包帯でグルグル巻きにされている。

 怪我の治療のためだ。

 

「どれくらい眠っていた?」


「一日。丸一日眠っていた」


 戦闘したのが夜。そして今、窓から垣間見える空は明るく、青く澄み切っている。

 寝ている時はそこまでの日数が経っている気がしない。しかし、実際に聞くとそんなにかという感情しか湧かなかった。

 

「ここは、城か?」


「ええ。カインを安全に治療できる場所はここしかないから」


 大臣派の貴族を襲撃しているカインは、逆に言えば大臣派の貴族からも狙われている。

 カインが眠っている宿に行ったとしても、まずはティシアはそこを知らない。そして、他の場所であれば貴族の介入が入ってしまう。

 

 城だけは唯一、ラディアント王子の手が届く範囲。その届く範囲だったら、守ることができる。

 ここなら大臣からの介入はないはずだ。安心できる空間に少しばかり気が抜ける。

 

 ティシアと最後に会ったのはフィラルシア様の襲撃から。聞きたいことがあった。

 

 

「それで、調査の件は?」


「黒だった」


 ティシアの声は悲しみが詰まっている。

 やはりか。という声が漏れると同時にやっぱりな、という確信も混じっていた。

 

 

 

 彼女に調査をお願いしたのは一週間ほど前、大臣派の貴族を襲撃する前の時だ。

 ラディアント第一王子から大臣派の貴族を聴取して欲しい、とお願いされた後の事。とある一人の騎士がその時、きになっていた。

 

 名は知らず、特徴で言えばあまり喋らなかった事、そして国について恨みを持っている事。

 その騎士、寡黙な騎士と最初の出会いはティシアと一緒に襲撃を受けた時である。

 そして最後に会ったのはラディアント第一王子から呼ばれた後の帰り、フィラルシア様の元に急いでいた時だ。

 

 怪しい言葉を聞いた。早く行かないと手遅れになるぞ、という言葉。それだけを聞かされれば疑ってしまうのは当然。

 だから彼女に調査をお願いした。

 ティシアと同じ騎士だからこそ、分かるというものがある。

 フィラルシア様の護衛という事で大臣派の貴族から怪しまれてしまうかもしれないが、そんな事疑わせる暇など与えない。

 

 カインが暴れたからだ。その事で大臣派の貴族は彼にだけ集中し、他の事を気にする余裕がなかった。

 そのためティシアは自由に動くことができ、お願いした調査も完了出来たという事だ。

 

 予想が正しければ、今回助けてくれたのはティシアなはずだ。

 黒ローブの騎士との戦いで氷の魔法を使用した。そして寡黙な騎士も確か、氷魔法の使い手だったはず。

 この二つの点が線になって一つの答えになる。

 

「助けてくれたのはティシアか?」


「ええ。びっくりしたわ、上を見てたら、いきなり落ちてくるんだもの」


「それはすまなかった」


 この会話で理解した。

 黒ローブの騎士、あれは寡黙な騎士だ。

 

「ラディアント第一王子には話したか?」

 

「いえ、まだ。ただ、王子の方でも調査してくれている」


「そうか」


 二つの情報源があるというのは、それだけ情報の精度が上がる。

 ただ、カインはラディアント第一王子に調査するようにお願いをした覚えがない。

 独自に調べたのだろう、早速だが聞きたい。

 

「ティシア。悪いが、ラディアント王子にアポイントメントを取って欲しい」


「用件は?」


「フィラルシア様を襲撃した騎士の件。ラディアント王子も調べているらしいから、話し合って情報を整理したいんだ」


「分かった。ちょっと行ってくるから待ってて。それと、まだ怪我してるんだから無理はしないように」


 まるで保護者のような言い方に、ふふと笑みが漏れる。

 言われなくても、そこまで自由に動き回るつもりはない。

 

 起きたからといって怪我が完治しているわけではなく、動こうとすれば痛む。

 ティシアの言われた通り、戻ってくるまでの間ベッドに横になって安静にするのであった。

 

 

 

 ラディアント第一王子とのアポイントが取れ、すぐに来るように言われてティシアに連れられて向かった。

 流石に上半身が包帯姿のままで会う事ができず、服を着る。

 すぐに会いに行くと、ラディアント第一王子は執務をしていたが手を止め、こちらに集中してくれるらしい。

 

「怪我をしていると聞いたが、大丈夫なのか?」


「まあ、動けますしね。まだ戦えますよ」


「その割には胸をバッサリ斬り裂かれたので、要安静なんですけどね」


 空元気で笑みを見せたが、ティシアにあっさり裏切られる。

 チッ! と内心舌打ちをした。

 

「そうか、なら無理だな」


「何がです?」


 ラディアント第一王子の言葉、それが酷く気になり尋ねた。

 その言葉は聞かないといけない。そう感じたのだ。

 

「そうだな、一応伝えた方が良いか。結果から言うと、三日後に大臣派の騎士のとある家に襲撃をかけることになった。その時にカインにも手伝ってほしかったところだが、安静ということなら城で留守番だ」


 え……。

 自分だけ置いて行かれる、それを聞いて疎外感がカインを襲った。

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