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55話 釣れた大物は

 大臣派の貴族はある日を境に、恐怖のどん底に突き落とされた。

 毎夜毎夜誰かが襲われ、死人は辛うじて出ていないものの未然に防ごうとしても嘲笑うかのように軽々と警備を通り抜けて襲撃してくる。

 

 一番最初に疑った人物、それは影の王だ。

 こんな事をできるのは近くの人間で、彼しかいない。

 彼の仕事帰りに尾行するがそのような動きは一切見せず、そしてまた襲撃にあう。

 

 そんな毎日を大臣派の貴族は恐怖を味わいながら一週間、ついに動き出した。

 

 

 

 その日もまた、カインは大臣派の貴族を襲撃し終わって帰ろうとする。

 今日も空振り、か。ここまで来ると、第三者が関与しているんじゃないかと疑いたくなるな。

 何度も何度も大臣派の貴族を襲撃していたが、情報が何も掴めず知っている情報といえば襲撃した大臣派の貴族は関与していないという事。

 

 こんなにも情報が何一つ出てこないとすると、逆に大臣派の貴族に罪を重ねたい人間の犯行ではないか、と思いたくなる。

 だが、フィラルシア様を襲撃した騎士。彼らは後の調査で大臣派の貴族だという事は分かった。

 

 その貴族達は一族全て処刑される予定だがまあ仕方のない事。王族に手を出したのだ。それ相応の罪、ということだ。

 その騎士達から口を割らせようとしたが、必要以上の事は知らされていない。正確には、彼らは何も知らないのだ。ただ、乗せられただけ。

 

 だから大臣派の貴族を襲撃しているのだが、そろそろ来て欲しいものだ。

 来客を待ち続け、ようやくそれは現れる。

 お! 釣れた。

 屋根の上で立ち上がると、端に一人の騎士が立っている。

 黒いローブに騎士の鎧姿。兜では顔は見えず、一本の剣を帯刀していた。

 前回、単独で襲撃した黒ローブの騎士だ。あの時はなんとか逃げ切ったが……。

 

「久しいね。元気にしていたかい?」


 尋ねるが、何も答えてくれない。

 前と一緒だ。あの時も何も喋らなかった。

 まあ分かっていたので特に何とも思わない。

 二振りの剣を抜く。

 

「どうして来たの? 理由を教えて欲しいな」


 黒ローブの騎士は答えない。

 ただただ、こちらに近づいてくる。

 右手で剣を抜き、今にも襲い掛かってきそうなほどの気迫を出しながら。

 

「教えてくれない、か。まあ、分かっていた事さ。たださ、今回ばかりはこちらも本気でやらせてもらう」


 カインは屋根を蹴って距離を詰める。

 影の王と黒ローブの騎士が激突した。

 

 

 

 月の綺麗な誰も寝静まる夜、そこでは剣と剣がぶつかり合う二重奏が響く。

 音を聞いた者は興味が抱く。しかし、見えるのは剣がぶつかり合う火花だけで誰が戦っているか分からず、街の兵士を呼ぶことになる。

 騎士が城を守るのであれば、兵士は街を守る。彼らは平民で構成されていて、夜番を担当していた兵士は駆り出されることになるだろう。

 

 そんな事を二人は露知らず、屋根の上で戦い合う。

 戦いは互角、いや影の王が徐々に押されていた。

 それもそのはず。影の王は最強ではあるが、その実態は暗殺者。

 正面から騎士と戦えば、どちらが勝つかは目に見えていた。

 しかし、今まで互角なのは影の王が最強と謂われるが所以だ。

 

 それでも押されているのは事実であり、カインも焦っていた。

 このままじゃきついな。どうにかして突破口を見つけないと。

 騎士の攻撃を受けながら、なんとか思考する。

 思考できるほどの余裕があるのは、騎士が魔法を使わないからだ。

 いや、魔法を使っているのかもしれない。が、使っている兆候は何一つ見えない。

 

 そんな時、ミシッ! と屋根の軋む音が耳に入る。

 この屋根は木材であり、戦う事を目的として作られた物ではない。

 本来は雨風を凌ぐために作られた物であり、カインと黒ローブの騎士の戦いで著しく消耗して今にも限界が訪れようとしていた。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをし、なんとかその場を切り抜けて別の屋根に跳ぶ。

 その後を黒ローブの騎士は追いかけてくる。

 逃がしはしないか。当然だよな!

 着地の瞬間を狙って襲い掛かるが、黒ローブの騎士は簡単に受け止めて返してくる。

 

 くそ、強い。

 カインが強襲した事で状況は一時的に有利になった。しかし、すぐに拮抗した状況に戻されつつあった。

 仕方ない、仕掛けるか。

 

 影縛り。

 黒ローブの騎士の背後、足元を影から伸びる手が手足を掴んで一時的に拘束する。

 身動きが取れなくなった黒ローブの騎士に飛び掛かった。

 

 狙うは手足。まだ聞きたい情報は山ほどある。殺す訳にはいかず、動けなくなればいい。

 研ぎ澄まされた一撃。それを、黒ローブの騎士は受け止めた。

 何!?

 

 先程まで身動きを封じていたはず。しかし、今は動いている。

 見えれば、黒ローブの騎士を拘束していた影の手が薙ぎ払われていた。

 背から生える四本二対の氷の腕。腕半ばから生えた剣が影の手を斬り払ったのだ。

 

 氷の腕合わせて腕が六本。状況は危機的なまでに致命的になりつつある。

 手数は正義である。

 腕二本と腕六本。正面から戦えばどちらが勝つか、そんなもの目に見えていた。

 それでも、カインはなんとか凌ぐ。その理由は彼が扱える魔法、隠密魔法があるからだ。

 

 隠密魔法は自分の気配を消すことができる。そのおかげで今まで大臣派の貴族を襲撃することができた。

 だが、応用すれば逆に気配を出すこともできる。

 例えば、別の方向から襲われるような錯覚させるような。

 

 実際には攻撃されていない、錯覚だ。しかし、戦闘中にそのような錯覚に襲われれば気が散るし、戦闘に集中できない。

 影魔法による影拘束。

 音もなく迫る影の手には恐怖しかなく、警戒しなければならない。

 

 錯覚の中に本物を混ぜ、カインは守りながら攻めの姿勢を見せる。

 それに黒ローブの騎士は付き合うしかない。

 偽物だと無視すれば、その中に混じる本物に掴まれて拘束される。

 その時はまだ斬り払えばいい。だが、それをするために何本の腕を使うか。

 その間、どれだけ無防備なるか。カインが本気でくるか、分かったものではない。

 

 だから黒ローブの騎士は付き合うしかなかった。

 しかし、戦いは突如として幕切れに誘われる。

 月が雲に隠れる。それは月明かりで照らされた光が消えるということ。

 その状況になれば、何も見えなくなる世界で暗殺者は有利となる。

 

 が、今は違う。

 影拘束と隠密魔法の応用でなんとか有利になっていたこの状況、それが全てひっくり返ったのだ。

 光ある所に影がある。影魔法も同様で、光がある事で影魔法が使える。その光がなくなれば、一面影。光を掴むことができない。

 

 影の手を封じられ、今まで防御に使っていた腕六本全てがカインを襲う凶刃に変わる。

 しまっ……。

 月明かりが消え、カインはすぐに離脱しようとする。

 正面からの戦いで光が消えた子の状況、不利になるのは目に見えていたからだ。

 しかし、逃れきれなかった。

 

 完全に避けきることができず、氷の腕から伸びる剣がカインの身体を深く切り刻む。

 切り刻まれた身体から赤い液体が噴き出す。

 斬られた衝撃でカインは屋根の上から足を崩し、地面に落下する。

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