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冷し系少女とお仕置き

更新が遅くなりました。すみません。


お詫びになるか分かりませんが、くらげちゃん成分120%(当作品比)でお届け致します。




前回までのあらすじ

【週刊くらげちゃん】

・茶道部男子部員ラッキーすけべを激写されて恋人にリークされる!?


 地獄の沙汰も金次第と言うが、涼白すずしろ 水月みつきは問答無用で重刑を下す。

 賄賂は通用しないしむしろ刑が重くなるので、彼女の判決には素直に従うのがいい。


 さて、後輩の湯々本の豊かな胸元にに不注意というか不慮の事故というか悪意ある作為に嵌められて飛び込んでしまったのは事実だが、それは決して断じて絶対に万が一にも俺の望んだことではない、ということをもう一度しっかりと主張しておきたい。

 恋人がいる身で他の女性に対して邪な気持ちを抱いたりだとか不埒な行為に及んだりしようと思ったことは一度たりともないのだ。

 惚気話で独り身の諸君には真に申し訳ないのだが、後にも先にも俺は涼白水月一筋である。

 あ、そこ「りょうはくすいげついっきん」ではないから注意。

 俺は彼女を愛しているし、容姿は理想を体現したかのように愛らしいと常々思っているし、一部を除いてその性格も好ましいと思っている。


「だから今回のは本当にわざとじゃないんです許してください」


 俺は深く土下座……は諸事情により出来ないので深い謝罪の意を表情に込めて水月に謝った。


「純粋な謝罪ではなく言い訳を間に挟んだ時点で大幅な減点ですね」


 だが俺の誠心誠意の謝罪は、水月のいつもの無表情かつ冷淡な口調でばっさり切り捨てられた。


「お姉ちゃんお願いします」


 水月は首だけ回して後ろを見やる。

 その先には石で出来た板がずらりと縦に並んで置かれていて、その一つを一生懸命幼女が引っ張り出そうとしている。


「おもい……水月ぃー……おもくてもてないよー」


 登場は多分一回こっきりなので忘れている方が大半というか皆の海馬に記憶されていないと思うけれど、彼女の名前は涼白(すずしろ) 如月(きさらぎ)(20)。

 括弧内の数字からも分かる通り、歴とした成人女性だ。

 断じて幼女などと言ってはならないのだけれど、容姿だけを見ると幼い女児なのだから仕方がない。

 幼女じゃないけれど幼い女児に見える成人女性、つまり成人幼女だ。


 如月さんは顔を真っ赤にしながら石の板を持ち、懸命に持ち上げようとしてる。

 本人は必死なんだろうけど、正直写真に収めておきたいくらい可愛らしい。


 如月さんができないと諦めの雰囲気を醸し出すと、水月は首を傾げて短く言い放った。


「大人なら持てますよ?」

「もてる!わたし持てる!だってわたしは大人だからぁ!!」


 途端にやる気を出した如月さん。

 容姿が幼女なことをかなり気にしていて、事あるごとに「ひーくん、わたしは大人なんだよ!?だからうやまわないとダメなんだよっ」と言ってくるのだが、性格は子供っぽくて舌足らずなのでまるで大人に見えない。

 唯一大人っぽく見えたのは一升瓶を3本一人で空けてけろっとしていたことだろう。如月さんの蟒蛇(うわばみ)っぷりだけは評価していいのかもしれない。


「よいしょ、わたしは、大人、だから、これくらい、かんたんに……」


 目の前に迫る石の板を持った幼女。

 ちなみに現在俺は正座をしていて膝の上には既に三枚の石板が置かれている。一枚五キロだから如月さんの持ってきたのを合わせると計二十キロになる。


 ではなくて……!!


「ちょ、如月きさらぎさんストップ!これ以上乗せられたらさすがに……「……これくらいらくしょーでもてるんだからぁああ!!」死ぬぅぉお重い重い重い痛い!」


 痛い重い痛い重い痛い痛い!!


「ミシミシと骨が音を立ててるんだけど!」

「それが愛の重みです」


 必死の主張にも関わらず、水月は涼しげな無表情で俺を眺める。助けてください。


「重いというよりむしろ痛いよ!」

「深い愛情は諸刃の剣なのです」

「どっちでも斬れちゃうけど!?」

「愛するものの血を浴びて女は美しくなるのです」

「どこの悪魔だよ!というか本当に痛いからこの石の板どけてくれ!きつくて限界です!」


 手は後ろ手に縛られているので俺は必死な表情で水月に訴えかける。


 だが水月は顎に手を当てて思案顔。こちらを一切見ていなかった。


 ぽんっ 、と手を叩くと少し目を輝かせてこちらを見てきた。


「分かってくれたか!」

「はい、思いつきました。きつい締め付けで痛い…………まさに荊の愛」

「上手いことを言えと言ったんじゃない!この石をどけてくれ!」

「それだけ喋れれば大丈夫ですよ。ちょっと席を外します」

「ちょっと待って正座の上から重り乗っけられって苦しむ人間を置いてどこへ行く?」

「お花を摘むといったらお手洗いのことですよ。わざわざ言わせるなんて先輩のえっち」

「花摘みの単語は一切出てきてないのにひどい言いがかりだ!?」

「ツッコミご苦労様です」

「そこで冷静になるなむしろ惨めみなるだろ!」

「それでは」

「おう。はっ、じゃない違うこの石をどけてくれぇえええ!!!!」







 遡ること2時間前。







「お話がありますその前に正座、さらにその前に地面に頭をこすりつけて自分の愚かさを懺悔してください」


 指定された店のアイスクリームを山ほど買ってお土産も携えて涼白家そ訪ねた俺を見て、水月が開口一番に言った言葉がそれだった。


「あ、いや、まずは俺の話をだね」

「土下座をしろと言ったのが聞こえないのですか?耳に工業用電動ドリル突っ込みますよ」

「すみませんでした!!」


 お土産を丁寧に置きつつ俺は光の速さで土下座した。見苦しい言い訳をしようとするんじゃなかった。


「………………」


 十分以上沈黙が続く。


 後頭部に降り注ぐ絶対零度の空気から水月が相当怒っているだろうことは想像に難くない。

 恋人が他の女子と買い物に行ってあまつさえ不適切な密着があったのなら怒って当然だろう。


 さらに十分沈黙が続いた。


 後頭部には勢いを増した冷気が降り注ぎ、体が段々と冷えてきた。


 というか寒すぎないか?水月は実際に冷気を出せるのか?まあ水月ならありえるがしかし……


 俺は恐る恐る顔を上げた。


 ロケットみたいな形の容器からホースが伸びており、口が俺に向くように固定されていた。そしてそこから白い煙が断続的に出続けていた。

 容器には『液体窒素:取り扱い注意』とある。


「………………」


 ここは怒る場面ではない。


 今回悪いのは俺だし、謝罪の意を示すとともに立ち去ったのを一切気取られずにこの悪戯を成功させた水月を賞賛すべきなのだ。


 断じて怒ってはならない。


 お土産を置きっぱなしにしていたことを思い出して横を見る。だがそこには影も形もなかった。


「ついでにお土産も持って行ったと。なかなかやるn…くぁwせdrftgyふじこ!!?」


 一歩踏み出したが、俺は地面を踏むことなく嫌な浮遊感と共に落下した。


「いてて……」


 強打した尻をさすりながら周りを見渡す。

 どうやら落とし穴に嵌められたらしかった。


「くらげちゃんの怒りは相当なものだということか!」


 穴から這い出たところでタイミングよく落ちてきたタライに脳天を打たれながらそう考える。タライは結構痛い。


 涼白家に入り靴を揃えて奥へ進む。不法進入をしているような気分だが、扉は開け放し(もちろん入ったらちゃんと閉めた)だったし無視して立ち去ろうものならどんな制裁が待ってるか分からない。

 長い廊下を抜けて二階に上がる。突き当たり左の水月の部屋の前で立ち止まり、コンコンと扉を叩いた。


「どうぞ」


 透き通った声が中から聞こえ、扉を開ける。部屋に入ると清涼感のある彼女の香りがふわりと漂ってきて鼻腔をくすぐった。


「まずはそこに正座してください」


 椅子に座ってこちらを向いた水月は床を指差す。

 俺は正座しながら水月の顔色を伺うが、そこにあるのはいつもの無表情だった。


 だがよく見ると眉間にうっすらとしわを寄せて口も少しへの字気味。やはり機嫌は悪いようだ。罪悪感が胸に押し寄せる。


「言い訳は聞きたくありません」

「はい」

「実際湯々本さんとなんやかんやあったわけですし、私がそれを不快に思っていることもまた事実です」

「ごめんなさい」

「でも先輩は恋人がいる身で浮気をするような人だとは思ってませんし、今回の件も湯々本さんの悪戯によるものだということも認識してます」

「!」


 水月はやっぱり分かってくれていた。そのことに喜びがこみ上げてくる。

 だがその次に呟いた「湯々本さんにはお灸を据えておかないといけませんね……」という呟きに、俺は心の中で湯々本に合掌した。


 少し心に余裕ができたところで水月が「ですが」と釘を刺した。


「やっぱり不快であることは変わりないですし、先輩が気をつけていればあんなことにはならなかったはずです」

「おっしゃる通りです」

「でもこうやってぐだぐだお説教をするのは双方にとって不利益ですし不毛な自己満足に終わるだけなのでもうやめにします」


 俺は安堵の息を吐く。


「その代わりに」


 まだ続きがあった。


「先輩には罰を受けてもらいます」

「?」


 玄関前のトラップが罰ではなかったのか。そう思った俺に答えるように水月は後ろを向く。


「私が準備した玄関前でのささやかなアトラクションで緊張もほぐれているでしょうから大丈夫でしょう」


 三段構えのトラップをささやかなアトラクションと表現することについては全力で否定したいところだが、ぐっと心の内にしまい込んだ。


 水月の視線の先にあったのは六枚の灰色の板だった。よく見ると石でできているように見える。


「石の板か?そんなのを何に使うんだ?」

「簡単ですよ」


 そう言って水月は人間の膝の広さくらいある石の板を一枚持ち上げた。


「重そうだな。持とうか?」

「お気づかいありがとうございます。ですが先輩、私は正座を崩していいとは言ってませんよ?」

「すみません」


 俺は立ち上がりかけた足を引き戻し居住まいを正して座り直す。


「何キロあるんだ?」

「五キロです。これくらいはお米を運ぶ時に持つので慣れてます」

「そうか……」

「先輩に正座をするように言いましたが、茶道経験者の先輩はちょっとやそっとの正座では苦痛を感じることなどないですから」

「ま、まあ」

「正座の苦しみをもう一度思い出していただきたいと思いまして」

「はい?」

「よいしょっ」

「!?」


 俺の前で立ち止まった水月は掛け声とともに俺の膝の上に板を乗せた。

 ずしりとした重みが感じられ、正座をしている足が少し苦しくなる。


「どうですか?結構大丈夫そうですね」


 言う通り少し苦しい程度であまり問題ない。ただ正座をし続けられる時間は短くなっただろう。


「まさか罰って……」

「はい。今からこの板を追加していって正座を続けていただきます」

「!!」

「まあ先輩が反省の意をしっかり示してくれれば無駄に追加することはないですから安心してください」

「江戸時代の拷問かよ!」

「江戸時代の尋問は下にギザギザの木の台がありましたからこれはだいぶ優しい罰ですよ。というか口答えしたから一枚追加ですね」

「なんですと!?」

「先輩まだまだ余裕そうですし。今後私の意に沿わない場合は板の枚数と時間を追加しますから」

「!!」

「よいしょっ」


 さらに一枚板を追加される。さっきよりも負荷が増し、少しきつい。これはあまり長時間もたないぞ。


「〜〜!!」

「ふふ……苦しそうな先輩かわいいです」


 無表情だがどこかうっとりとした表情の水月。だが俺はそれどころじゃない。だんだん苦しくなってきた。


「くっ!」

「先輩は浮気の償いができて私は苦悶の声を上げる先輩の姿を眺められる………天才的な罰ですね考えたの誰ですか私です」

「 ドS!!」

「褒め言葉です。さて先輩の横に座ってホラー映画でも見ましょうか」

「!!?」


 俺が最も苦手とするものを見ると言い出す水月。悪魔か!

 水月が正面の椅子をどけるとそこには大型の液晶テレビが。良い子の距離分きっちり離れているが大型なので意味をなさない。

 というか俺の座る位置と方向もちゃんとかんがえられていたのかっ。


「や、やめてくださいホラーだけは……」

「そんな目尻に涙を浮かべて嫌がらなくても………はぁ…可愛いです可愛いすぎます」

「鬼畜ぅーー!!!」

「褒め言葉です」


 その後アイスを持ってきた如月さんのおかげでホラー映画鑑賞会は中止されたが(如月さんも俺と同じくホラーが大嫌いだ)、いいところで止められた水月の不満の矛先は当然の帰結として俺に向かい、無情にも石は追加されたのであった。







「そろそろしっかり反省できた頃でしょう。先輩の反応も鈍くなってきましたし石をどけてあげます」


 ゆっくりと五枚(お手洗いから水月が帰ってきた後追加された)の板が外されていく。

 たかが二十五キロと侮ることなかれ。

 正座の上に小さな女の子が座ったくらいの重さでしかないが、物言わぬ無機物たる石の板の二十五キロと無意識にかかる体重を分散させる人間の女の子の二十五キロは天と地ほどの差がある。

 おまけに二時間近く正座を続けた上でその重量が上にかかるのである。茶道をやっている関係で普段から正座に慣れてる俺でもさすがにきつかった。


 すべての板が取り払われ、俺は大きく息をついた。終わった。


「あれ?先輩もう正座しなくていいんですよ?足を崩してけっこうです」

「いや、長い間正座してたせいで足が痺れて………!!まさか!」

「ふふふ……そうなんですか足が痺れて動けないと?それは大変ですね………大好きな先輩がすぐに回復するようにマッサージしてあげます」


 手をわきわきさせてニタァっと笑顔で近づいてくる水月。怖い怖い!!


「い、いやいやいらないから大丈夫だから!」

「ええ〜私は単に先輩にはやく良くなって貰いたくて善意で言ってるだけですよ?」

「まさか最初からこれを見越して……や、やめろ近づくなその無駄にいい笑顔をやめろ!」

「にげちゃだめですよぅ。私が今からゆっくりじっくりマッサージしてあげますから♫」


 普段ならともかく、足が痺れてる俺の逃走能力などたかが知れている。すぐに距離を詰められて捕まった。

 恋人との触れ合いと言えば聞こえはいいが、これはドSがほとんど動けない人間を捕まえて楽しんでるだけである。笑えない。


「いや、やめてやめて後生だから勘弁を!!」

「せ〜んぱいっ♪ほらほらまずは右足からですよ〜」

「いやぁあああああああああああ!!!!!!!!!」


 その夜、とある民家の一室からから少年の悲鳴にも似た叫び声が聞こえたとか……聞こえないとか。
















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