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闇色のLeopard  作者: N.ブラック
第三十章 国際連合援助隊~UNAC~ Theocrasy(融合)編
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第三十章 第四話

 荒い息で『大鷲』と対峙しているレオは、橋の上の照明の支柱をもぎ取った『大鷲』に振り回されて、揺れる足元の中左右に身体を振ってかわしていたが、『大鷲』が頭上高くから振り上げた支柱を力任せに叩き付け、紙の様に舞っていた橋は呆気なく崩れ去った。

 咄嗟に飛びのいて砕け散ったコンクリート片が眼下の約八m下を流れるヴォルガ川へと崩れ落ちていくのを見送って、体勢を立て直したレオであったが、その場にまた支柱を振り下ろされて、辛うじて避けた身体は崩れた地面に投げ出され、剥きだしになった鉄筋を右手で掴んだレオは橋から宙に浮く形となった。

「クソッ!」

 もう今は発する言葉も人語では無く『ググ……ガガ……』と獣の雄叫びの様な声を発するだけの『大鷲』は、右腕一本で必死に自分を支えているレオの頭上を目掛けて、また支柱を高く振り上げた。




『うおおおおおお!』

 その『大鷲』の振り上げた左腕を目掛け、両手で掴んだ鉈を渾身の力で振り下ろしたのはあのロシア兵で、『大鷲』の左肩に食い込んだ鉈は真っ黒な血飛沫を上げて、怨嗟の唸り声を上げた『大鷲』は緩慢な動作で背後を振り返った。

 だが、鉈を掴んだまま離さなかった兵士はその圧倒的な力で振り回され、『大鷲』が身体を左右に振る度に右に左にと身体を振られ、それでも食い込んだ鉈を離さず食らいついていたが、もう一度体を振った『大鷲』に振り解かれて、握った鉈ごとコンクリートの上に叩き付けられた。

『ガガガガガガ』

 歯の根を噛み合わせているかの様な鈍い音をさせて『大鷲』が倒れた兵士に向き直った瞬間、他の元反乱兵達も一般市民から借りた斧や包丁、園芸用の鉄鋏など、危険な近接戦でしか使えない武器を手に一斉に『大鷲』に襲い掛かり、纏わりつく兵士達を薙ぎ倒そうと『大鷲』が気を取られた隙に立ち上がりもう一度鉈を振り上げた金髪の兵士は、今度は確実に『大鷲』の左腕を捥ぎ取った。

『ガアアアアアアア』

 唸りを上げて真っ赤な口を大きく開けて叫んだ『大鷲』は怒りの右拳を散り散りなって避けたロシア兵達の隙間の路面に叩きつけて、ガラスの様に脆く崩れ去った路面はそのロシア兵達をも飲み込んで黒々と流れるヴォルガ川へと落ちて行った。





「クソッ! 化け物め!」

 狙撃銃で『大鷲』を狙うランスやベリヤ中佐らであったが、今も波の様に揺れる橋上では狙いが定め難く僅かに肉片を削るだけで、ランスはギリッと歯噛みした。

 一方のネルソンは、不安定な足場にも関わらず確実に『大鷲』に命中させてはいたが、肉の塊と化した『大鷲』は額に穴が開いても倒れる事も無く、小銃程度では仕留められない事に気付いて次なる作戦を頭の中で練っていたが、その背後から突然大声が上がった。


「全員背後を離れよ!」

 大声で叫んだシャルル・フランソワ中尉が右肩に担いでいたのはAT‐4CSと呼ばれる携行対戦車砲で、この強力な兵器であっても揺れる橋上で果たして効果を発揮出来るのか、中尉の後方を一斉に退いた兵達は、固く口元を結んでシャルルを見守っていた。

 上下に揺れ続ける橋は、今は一定の高低差を保って揺れていた。それを計算に入れて両足を踏ん張って立っているシャルルは、ほんの一瞬しか訪れないタイミングを、正確に捉えていた。

発射ファイア!」

 筒状の銃の背後から吹き上げられた塩水が陽光を受けて輝く中、放たれた弾丸は仁王立ちしている『大鷲』の右腕を吹き飛ばした。

 両腕を失った『大鷲』は、最早開いた黒い眼窩と真横に裂けた口しか無い顔を歪め、真っ赤な口から黒々とした血を吐き出しながら、天空に向かって吼え続けていた。










 右腕一本で橋からぶら下がっていたレオは、反動をつけて身体を橋上に引き上げると、歪な物体と化した『大鷲』に向き直った。

 両腕を失っても尚怨嗟を迸らせて吼える『大鷲』は、残った両足を踏み鳴らし、足がコンクリートにめり込む度に橋が大きく左右に揺れた。

『うわっ』

 右に左に傾く橋は橋上の兵士達を面白い様に薙ぎ倒し、堪え切れなかった者から次々と川へ落ちて行った。

 それでもレオは怯まなかった。『大鷲』の懐に飛び込んで、硬い鉄の様な腹に拳をめり込ませ、大きく口を開けた中に拳を捩り込み、顔面を腹を殴り続けた。


 これまで何度も対戦したコンラッドが、レオに教えてくれていた。風を切る拳で語り掛けてくれていたコンラッドを思い出しながら、レオは真っ赤に染まった拳を叩き込み続けていた。

 ――お前の咎もマリアの咎も俺が祓う。

 共に闇を背負った親友と、清廉な身体に闇を秘めた愛しい女性を思って、レオは膝を落とし力を溜めた渾身の右拳を『大鷲』の左胸に叩き込んだ。


 それまで固い鉄を殴っていたような感触が、ようやく纏わりつく肉に拳がめり込んでいくのを感じて、レオはそのまま抉る様に拳をめり込ませた。

「うおおおおおおおお」

 唸りを上げながら捩った拳を突き上げたレオは、大きく開けた口からドロドロに溶けた黒い血を吐き出す『大鷲』の原油の様な血を全身に浴びながら、鉛の様な『大鷲』の身体を持ち上げて、空へと突き上げた拳に大きく弾き飛ばされた『大鷲』は橋上に重い身体を鈍い音と共に横たえて動かなくなり、一面に広がり続ける黒い血が壊れた橋の隙間から雫となってヴォルガ川に注いでいた。









「やった……のか?」

 揺さぶられて立っていられないランスは欄干の手すりに掴まって辛うじてまだ橋上にいたが、橋上でピクリともしない『大鷲』の姿を目で追って呆然と呟いた。

「分からん。だが――」

 止めを刺すチャンスだと言い掛けたネルソンの言葉が終わらない内に『大鷲』の赤黒い身体が不穏な音と共に裂け、飛び散った肉片と共に、黒い、いや其処には無しか感じられない闇そのものが噴出して、青空が広がっていたヴォルゴグラードの空を全てを無に帰す暗黒に染め上げていった。


 解き放たれた闇達はまた帰る縁を求めて宙を彷徨い、地にある物全てを飲みつくそうと蠢く触手を伸ばし迫りつつあった。

「なんだこれ、まるで『発動』の時みたいだ」

 恐怖の眼差しで天空を見上げるランスの心には絶望の文字が浮かんできたが、ネルソンにはまだ一縷の冷静さが残っていた。

「バーグマン伍長」

 ネルソンから静かに声を掛けられたマリアには、自分が何を為すべきか分かっていた。


 マリアが全身で放った闇を具現化する力は、その闇自身に襲い掛かった。

 歯を食いしばって己の全てを吐き出そうと目を見開いて空へ叫び続けるマリアから迸る黒い霞が空の黒と溶け合い 『大鷲』の身体から流れ出た血も黒い霞となって空へ駆け上ったが、闇が不気味に蠢く低い音が鳴り響くだけの空はそれ以上何も起こらず、一体何が起こるのかと身構えていたランスが、静まり返った気配に欄干から手を離して腰を浮かそうとした時、全ての闇が鳴動を始めた。


 苦悶に震える身体の様に小刻みに震え続ける黒い闇は爆音と共に歪に姿を変えながら、さながら断末魔の叫びのように蠢いて川面を揺らし、地を震わせて降り注ぎ、荒れ狂う風と共に吹き荒れた。



 更に激しく揺さぶられて直角に近い角度まで捩れた橋からランスが溜まらずに転げ落ちて、一斉に橋の上から逃げ出した他の兵士達もなす術無く川へと突き落とされていく中、歪む橋の欄干を伝ってレオは必死にマリアへ向かっていた。

「マリア!」

「レオ!」

 橋の欄干に掴まり右手を精一杯に伸ばしているマリアのその腕を掴んだレオは、轟音と共に崩れ始めた橋でマリアの細い身体を全身で抱き止めて、中央部から袂へと向かって崩れ落ちる橋と共に二人抱き合ったままヴォルガ川へと落ちていった。

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