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闇色のLeopard  作者: N.ブラック
第二章 第二十二SAS連隊A部隊 悲しき聖女編
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第二章 第四話

「【(コア)】周辺に関する情報は、SASにとっても重要事項よ。本来は【核】周辺の要人警護はSASの任務なの」

 海軍指令本部内の食堂で、ローラ・アデス准尉は、まだ訝しげなレオに向かって小さく笑った。


 茶でも飲んで帰れとレオに命じたサヴァイアー大佐は、そのままコンラッド・アデス中尉と共に何処かへ向かい、レオの接待を言い付けられたローラが、この食堂にレオを招いたのであった。

「アデス中尉に恨まれたら困ります」

「大丈夫よ。ああやって焼もち焼いている振りして、本当はアイツ構って欲しいだけなんだから」

 首を振ってまで遠慮したレオであったが、ローラは気にせず豪快にカラカラと笑った。



「先程の話に出たマリア・バーグマンは、聖システィーナ修道院の院長で、この地域の【守護者( パトロネス)】クリス・エバンスの番人の一人なの。そして湖水地区の【守護者】はハドリー・フェアフィールド、彼は【鍵】でもあり、今はもう『発動』を行うためにオーストラリアへ【核】と共に向かっている途中よ。その他湖水地区には番人が大勢居るわ。貴方を海に弾き飛ばしたのもその一人よ。スコットランドの【守護者】はアーサー・ラムレイ牧師。スコットランド国教会の牧師よ」

 熱い紅茶を美味しそうに飲みながらローラは淡々と話した。

「俺、いや、自分は、まだ其処までの話はされていません。自分が聞いていいものなんでしょうか」

 ゆったりと熱い紅茶を飲むのは何年ぶりだろうかとレオは思った。いや、過去にそんな記憶があったかと思い返しながらローラの返事を待っていると、ローラは「あらそう」と不思議そうな顔をした。

「まぁ、後で聞かされても、初めて聞いた顔をしてくれりゃいいわ」

 と暢気に笑ったローラに、レオは「はあ」と戸惑った声を返した。


「その内に貴方、スティーブンソン中佐殿のお嬢さんに再会出来るかもしれないわね」

 クスクスと笑ったローラにレオはフッと自嘲の笑みを洩らした。

「相手が会いたいと思ってないと思うが。俺を殺したいと思ってたようだしな」

 気さくなローラに吊られてついタメ口になっていたレオは、ハッと顔を上げて詫びる頭を下げたが、ローラは気にせず手を上げた。

「いいわよ。休憩中ぐらいは」

 そのローラに、レオは安堵したような困ったような顔をしたが、熱い紅茶を啜ったローラは、カップを置くと、真面目な顔でレオを見返した。

「それに、誤解してるわ、貴方。貴方を海に弾いたのは、ジニア・スティーブンソン、いえ、今は確かジニア・ニールセンだったわね、彼女じゃないわ。彼女も番人の一人ではあるけど、結界を張る能力は持ってないもの。だから、実力で囚われた女性を救出に向かったんだから」

「え?」

 困惑が顔に張り付いたまま消えないレオは、小さく声が出ていた。


「ジニアとは、スコットランドへ向かう途中湖水に寄って会ったわ。そう言えば、しきりに貴方の事を気にしていたわね。本船が貴方達を救助した事は知っていたようだけど、元気にやっているのかって。血の気が多くて、ウチの旦那と揉め事を起こしたけど、元気だって伝えたら、安心してたわよ」

「どうして……」

「彼女は、貴方が言った言葉を噛み締めているそうよ。一体誰が、命の線引きをしたのかって。【鍵】が全ての命を救う選択をしたなら、自分達にも出来る筈だって。彼女には、その線引きに加担して自ら多くの命を絶った呵責があるみたいなの。PTSDの一種ね。でも、ご主人や仲間に支えられて、それでも健気に生きているわ」

 あの時自分の腕の中にあった、まだ二十歳前後ぐらいであろう、そのジニアという女性の事をレオは思い出していた。

 卓越した戦闘能力を持ってはいたが、人質に気を取られた一瞬を捉えてレオが首を締め上げている最中、抵抗の手を緩めて、まるでその死を覚悟して受け入れるように力を抜いた彼女の事を思った。


 ――あの瞬間、彼女は死にたかったんだろうか。


 多くの人を殺めた自分が誰かの手に掛かって死ぬのなら、それが自然だとレオにも思えた。それで死ねる人生のほうが、楽なのかもしれないとも思った。自分の薄汚れた人生とは違うのであろうが、良く似た咎を負いながら生きている彼女に、もう一度会ってみたいとレオは思った。


「何れにせよ、血塗られた汚名を負ったSASが甦るかどうかは、貴方の力に掛かっているのよ。生半可な気持ちでは拭い去れないわ。覚悟は出来た?」

 何時の間にかローラは、真顔に、軍人の顔に戻っていた。

了解しました(  イエスサー)

 レオにも、僅かの間にその血が染み込んでいた。反射的に敬礼を返したが、それは儀礼的な物では無かった。そのレオの黒い瞳に、以前は見る事が無かった澄んだ光を見出したローラは、ゆっくりと頷きながら敬礼を返して、口元に笑みを浮かべた。

 

 SAS本部に戻ったレオが、マクダウェル中佐に帰隊を報告すると、中佐はニコニコと笑って「用件は何だった?」と訊ねた。

「はっ。海軍訓練校での出来事について、アデス中尉殿が是非謝罪をされたいとおっしゃいまして」

「なんだ、もう和解したのか。次の一戦では、お前が勝つ方に賭けたいって奴が沢山居たのになぁ」

 中佐が残念そうに笑うと、レオは小さく眉を寄せた。

「ご冗談を。自分が中尉殿に勝てる筈がありません」

「まぁそう謙遜するな。あの中尉殿にパンチを当てたのも、大佐殿とムーアハウス少尉殿にしか頭を下げない中尉殿に頭を下げさせたのも、お前が一番最初だからな」

 一体あの男はどういう存在なんだと呆れながらも、自分が好意的に受け入れられている現状に、尻がむず痒いような、居た堪れない気持ちになったレオは、眉を顰めたまま小さく息をついた。


「あの中尉殿の戦闘能力、一介の航海士にしておくのは勿体無いと、何度も転属を打診してはいるが、悉く断られてな。まぁ、海軍からしても手放すには惜しい人材だからな。お陰で大佐殿や中尉殿には嫌われて、こちらへ足を運んでは下さらない。大方そんな事だろうとは思っていたんだ」

 何処までも穏やかなマクダウェル中佐の顔を見ながらも、レオは此処へ来てからずっと拭えない困惑を抱えたままだった。

「きっとお前は、中尉殿の代わりなんだろうな。同じような能力の人材をやるから育てろって事なんだろう」

「自分にはそんな力はありません」

「謙遜も過ぎると美徳にはならないぞ、ザイア軍曹」

 少し鋭さを含んだ言葉にレオは顔を上げた。

「いえ。自分には、自分には清算を終えてない咎があるからです」

 喉に痞えていた言葉が溢れるように零れ出すのを、レオは止められなかった。

「自分はこれまでに多くの人達を殺めました。それも、どれも皆、非の無い人物ばかりです。自分はその咎に対する罪を、まだ償っておりません。裁判に掛けられた事も、刑に服した事もありません。その罪を一切祓わずに、こんな光の下を歩くなんて、それがまるで無かった事のように受け入れられるなんて、俺には、俺には……」

 最後には軍用語を忘れていたレオだったが、マクダウェル中佐は咎める事もなくレオの慟哭のような叫びを聞いていた。

「それなら、懺悔をするんだな」

「懺悔?」

「ああ。あのコンラッド・アデス中尉殿も、お前と同じ様な想いに囚われておられたようだが、懺悔をしに行かれてから後は、まるで憑き物が落ちたように温和になられてな。お前も一度、行ってみるんだな。もう結界内でも大丈夫なようだから、次の休みの日にでも行ってみるといい」

「教会へ、ですか?」

「ああ。あそこだ。聖システィーナ修道院だ」

 マクダウェル中佐の言葉を、レオは困惑したままの頭で、黙って聞いていた。

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