表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3.噂というものは

 最近、もうひとつ噂が増えた。



 

 ——ヘンリー・バウマンはリズ・フェルディナンドのことが好きらしい。



 

 マリエッタは喫茶室で紅茶を飲みながら、静かに耳を傾ける。


 放課後のここは部活や委員会のない生徒が長居するのにもってこいの場所で。

 適度な落ち着きと静けさのある空間には、女子たちの声がよく響く。


「見た?最近よく一緒にいるの」

「ヘンリー様とリズ様」


「だって可愛いもの、リズ様」

「ヘンリー様も凛々しいお顔立ちだし」

「やっぱりお似合いよね」

 

 小さな笑い声。


 そのあと、声が少し潜む。


「マリエッタ様よりずっと」

「ちょっと!」

 

 声の主は、マリエッタがその空間にいることに気づいていなかったらしい。

 同じテーブルの生徒がたしなめる。


 恐る恐るこちらの様子をうかがっている。

 

 マリエッタは反応を見せなかった。


 聞こえていないと判断したのだろう。

 生徒たちはささやきを再開した。


(なるほど)


 確かに最近、ヘンリーと顔を合わせる機会が減っていた。


 中庭にもあまり来ない。

 先日会ったのが、久しぶりだった。


 


 マリエッタの、いわれのない噂が広がり始めた頃。

 放課後の廊下で、ふと視線を上げたとき。


 正面玄関に二人の姿が見えた。


 リズはいつもの可憐な笑顔で話している。


 少し首を傾げて。楽しそうに。


 ヘンリーはそれに応えているようだが、遠くて声は聞こえない。

 また、マリエッタの位置からは顔が見えない。


 その後は、中庭で。


 その次は、食堂で。


 何度も、二人でいる場面を見た。




(……まあ)


 マリエッタは静かに目を伏せた。


 噂の材料としては、十分だろう。


 二人きりで話している。

 もちろんその様子を見たのは、マリエッタだけではない。


 それだけで、話はどんどん膨らむ。


「ヘンリー様、やっぱりリズ様が好きなのね」


 そんな言葉が生まれるのも無理はない。


 マリエッタはその場を後にした。


(ですが)


 ふと、昨日の会話を思い出す。


 『最近の噂は俺にも被って来ててな』


 ヘンリーはそう言っていた。


 おそらく、この件なのだろう。


 『誰かが意図的に流してる』


 あの時の顔は、どう見ても歓迎していなかった。



 

(噂というものは、本当に便利ですね)



 

 事実を少し混ぜるだけで、いくらでも形を変える。


 二人が話していた。

 それは事実。


 そこから『思慕』『恋愛』、いくらでも話は作れる。


 マリエッタは静かに考える。


 この噂も、おそらく——同じ出どころ。

 むしろ。


(ありがたいことです)


 噂が増えるほど、流れがはっきりしてくる。


 どこから生まれ、誰が広げ、誰が得をするのか。


 それは意外と単純だ。


 マリエッタはふと微笑んだ。


(出どころが、より鮮明になりましたね)


 遠くでリズの笑い声が聞こえる。

 マリエッタは振り返らなかった。


 ただそのまま廊下を歩いていく。


 すでにマリエッタの中では結論が出ている。


 あとは、確かめるだけ。


 そしてもし、予想が当たっているのなら。



 

 マリエッタの微笑みは、いつも通り穏やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ