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違和感

俺が図書館で読んだのは、この街にある刑務所についての本だ。この街の人口は五百万人ほどだ。

恐らく五分の一、かなり低めに見積もっても十分の一の五十万人ほどは捕まっただろう。だから、それより刑務所に入れる人が少なければ、捕まった人たちは刑務所以外のところに行ったことになる。


調べると、刑務所の収容可能人数は十万人ほどらしく、実際に行かなくても入らないことがわかる。しかし、念には念をと言うので実際に見て確かめておきたい。


刑務所は、この元治安が悪い地区のすぐ東側にある。アジトからは徒歩数十分ほど、そう遠くはない。本を閉じ、時計に目をやる。十一時過ぎだ。例の計画、というより作戦というか、まあそれはいい。それまではまだ時間がある。一度下見にでも行くことにしようと思い、その足で刑務所まで向かうことにした。


刑務所はなだらかな丘の上にあった。大きい。縦にも、横にもでかい。五階建てぐらいの建物が一辺百メートルほどの正方形の内側に敷き詰められている。周りには何もなく、高い金網の上に有刺鉄線が張り巡らされているが、壁がないため中が普通に見える。


中には、誰一人いなかった。もともといた受刑者もいないんじゃないかというほどに静かで、なんだったら刑務官さえいないように見える。おかしい。


不審に思って、刑務所の正門を見てみるが、見張りがいない。門の鍵こそかかっているものの、あまりに不用心だ。もしかして、ここには誰もいないのか?そう思い、刑務所の外を一周してみたが、人の姿は確認できなかった。

なぜだ?あの本には、今収容されている人数は5万人ほどだと書いてあったはずだが、それだけいたら物音のひとつはするだろう。もしかして、もともといた受刑者たちも、対象者と同じところに連れられていったのか?



疑問が解消できないまま、俺はアジトに戻ってきた。いつも通り周りを確認してからソファのマットを外し、中の梯子に手を掛ける。あの場所には誰もいないとしたら、そこにいた人々、そして対象者たちはどこへ行ったのだろうか。思考を巡らせながらドアを開けると、コーヒーの深い香りが漂ってきた。


「おう、おかえり。ちょっと暇だったから上の喫茶店からコーヒーの材料を取ってきたんだ」


マスターはそういいながら俺のカップにコーヒーを入れてくれる。サンドイッチも一緒についていて、まさに喫茶店という感じだ。他の5人もコーヒーを飲みながらくつろいでいるようだ。礼を言いながら飲むと、口の中にほのかな甘みと豊かな香りがいっぱいに広がる。定番の感想だが、まさにそのような感覚が広がる。

俺がコーヒーをあまり飲まないことを知ってか、砂糖とミルクが多めに入って飲みやすいようになっている。しかも後味があっさりとしていて飲み心地がいい。


「気に入ってくれたようだな。これでも、昔はいいコーヒー豆を求めてこの世界中を旅していたんだ」


なかなかワイルドな生い立ちだ。俺は親の束縛が厳しかったので、気ままな旅には憧れる。


「ところで、刑務所の件なんだが……」


俺はすでに刑務所を見に行って、人がいないのを確認したこと、恐らくもともとそこにいた受刑者たちも居なくなっていることを伝えた。


「そうか……とりあえずお疲れさん。しかし、変だな。もしかして、政府は地下に巨大帝国でもつくろうとしてるんじゃなかろうな」


そんな某賭博漫画みたいな、と思ったが、もしかすると本当にそうかもしれないと思い始めてきた。大量に人手を確保する必要があって、その人々の居場所がわからないとなれば、地下施設かどこかにいるとしか考えられない。だが、一体何を?


「とりあえず、今日は刑務所の様子が知れただけでも収穫だ。受刑者たちがどこに行ったかはおいおい突き止めるとして、今日はゆっくり過ごそうぜ」


それもそうだな。うなずいて二杯目のコーヒーを受け取る。一気に飲み干すと、視界の端がパッと明るくなるのがわかった。どうやら俺はカフェインに耐性がないみたいだ。


マスターにコーヒーの礼を言い、ロンガーの2人にアトリエの使用許可を取りに行こうかと立ち上がった。サラはさっきコーヒーを飲んでいたのに寝ている。俺と違って、マスターとの生活でカフェインに耐性がついているようだ。


「すまん、アトリエ借りていいか?」


俺は、同じく眠そうにしながら本を読んでいたイオリに声をかけた。


「アトリエ……使うの……?昨日……遅くまで絵を描いてたから……散らかってるけど……それでもいいなら……うーん」


イオリはねごとのように答えてくれた。というか、百パーセントねごとだろう。しかし、ロンガーの二人は作りものかと思うほどきれいな顔立ちをしている。どちらも好みみだ。……何を考えているんだろう、俺は。


アトリエは散らかっていた。というより、崩れていたと言った方がいいのかも知れない。

部屋を狭くするように置いてあった、絵の壁が崩壊している。俺に触らないよう言った道具も置きっ放しだ。まあ、道具は触らないようにするが、せめて崩れた絵ぐらいは元どおりにしておこう。そういえば、イオリの方はどんな絵を描くんだろう。

気になったが、どれがどっちの絵だがわからない。もし、この前サラに見せてもらった以外の絵の壁がすべて、イオリのものだとしたら、イオリはサラと同じレベルで絵が上手いことになる。というか、恐らくそうだろう。絵を元に戻し、下敷きになっていた我がメモ帳を救出する。

こっちに来てからの数日間でもう無くなりそうだ。いつもより丁寧に描こう。


しばらく描いていると、教室からエレキギターの音が聴こえてきた。音楽をやっていたというサトルのものだろう。どこか懐かしいカントリー調のメロディをギターが歌う。クリーンな音が頭に差し込んでくる。いい音だ。学生時代はロックばかり聴いていたが、少し年をとっただけでこういう音楽がしみるようになって来た。


しばらく手を止めて聴いていると、曲の感じが変わってきた。少し現代的というか、ジャズのようなすこし変わったリズムになってきた。

俺の母さんが、よくピアノでジャズを弾いていたことを思い出す。父さんはそれを聴きながら新聞を読むことが好きだった。しばらく会っていないが、きっと変わってしまっているのだろう。コーヒーの効き目が切れてきて、俺は眠りへと誘われた。

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