01
目が覚めたら、俺は幻想的な場所にいた。
白い大地。
凹凸の無い、無限に伸びる真っ直ぐな地面。
ペタペタと大地に触れてみる。
ふむ、感触はないな。
ん?何か可笑しい。
俺の手はこんなに小ちゃくて白くて可愛らしいかったか?
視線も若干、と言うよりかなり下がった気がする。
元々180近くあった身長が50センチ近く程縮んだ気がする。
そして、俺の身体は何故か全裸。
そしてそして、俺の大事な息子も行方を眩まし、恥ずかしくなって穴を掘って隠れてしまった様だ。
そしてそしてそして、視界にチラチラ映る金髪が妙にエロスを醸し出す幼女体型。残念ながら胸は無いが、フニフニほっぺで我慢しよう。
いや、残念でも何でもないか。
まあ良い、一先ずは目の前の事だ。その白い大地から真っ直ぐと伸びる、平行かつ等間隔に並べられた上品で白い、柱の様な本棚という本棚。
棚は所狭しと本が並べられている物もあれば、何もなく、すっからかんな風穴を開けた物まで。
本はミミズを走らせた様な無茶苦茶な落書き。
だが、何故か分かる。これは如何やら歴史の本の様だ。
ユルートレピア帝国。知らないな。
ふむ、此方の本は鍵付きで、迂闊には見られないのか。
上を見上げれば青い空。
何故か白く光を乱反射させる魚群が、プカプカと心地好さそうに泳いでいる。
その向こう側では、まるで中身が見えたスケルトン状の時計。太陽と月が機械仕掛けでクルクルと踊っていた。
何ともファンタスティック。
然し、此処は何処だろうか?
もしや死後の世界?
この容姿から転生とも考えられるか。
確かに、俺は地球の日本と言う国で死んだ。はず。
ならば来るなら必然的に死後の世界だと思うのだが、思ってた天国と地獄とは何ともかけ離れている。
うーん、矢張り転生…でもこの状況を説明出来ない。
「だ、だれ!」
おや?
1人考えに耽っていたら、突如後方から声が掛かる。
振り返れば、其処には幼さを残した、銀眼銀髪の少女が立っていたのだ。裸で。
腰迄有ろう長い髪は申し訳程度しかない乳房を絶妙に隠し、彼女がピクリと動く度にぴょんぴょんと右へ左へと跳ねている。
眼と眉毛は少し吊り上がった、意思の強そうな印象。
鼻は高めのロシア系美人。
頰は少し肉付きが良く、髪に隠れた耳と同じくほんのりと赤味を帯びている。
唇は小さく桜色。人工太陽の光を受けてプルプルに輝く。
目線の高さが同じな事から、身長は130センチもないだろう。
童顔から伸びる、美しく細い首。
スレンダーな身体には、真っ直ぐと腹筋からヘソへラインが刻まれていた。
一言で言うなら目の前の少女は、正しく美少女。其処にはエロと言うものは存在せず、神々から賜うた一種の芸術作品とも言えるだろう。
そんな少女が二言目を放つ。
「だ、だれですか!」
彼女は本棚に半身を隠しながら此方を伺う。
その手には数作の革張りの本。
おっと、危ない。
俺には彼女が天使にしか見えなかった。
もう天使なんじゃね?此処が俺の聖域か。
取り敢えず、自己紹介でも。
…此処は本名の方が良いのだろうか?幼女体型で男の名前は如何かと思うけど。
「俺の名は葛木淳。自分でも何でこんな所に居るのか分かっていない。君は?」
翼は無いけど天使と仮定。
嘘言われても俺は信じるね。
まあ、恐らく神様か何かの使いだろう。
嘘は良くない。
出来るだけ失礼がない様にしないと。
「わ、私はヴィオラ。ヴィオラ・ルゥ・ユルートレピアです。」
へー、ほー。
ヴィオラちゃんね。
ん?ユルートレピア?
これあれじゃない?
天才発明家が作った道具に自分の名前付けるやつ。
なら、自分の創った世界か国か知らんけど、自分の名前付けても可笑しくはない、よね?
つまりは、
「あなたは神様ですか?」
「はぇ?」
………如何やら早とちりの様だ。
まあ、そっちが違うならもうあっちしか無い。
「帝国のお姫様ですか?」
「は、はい。そうですけど…?」
やべぇ、涙目かわe…じゃなくて。
やばくね?お姫様の裸見ちゃってんだけれども。
神様の裸見たなら眼福って言いながら拝んで済まされたけど、お姫様となったら絶対この後死刑だよね。
絶対にお父様許さないよね。
誰だよお姫様全裸で歩かせてる侍女は。
「あの…」
ん?如何やら自分の世界に入ってしまっていた様だ。
おぉ葛城よ、レディを無視するとは何事じゃ。
「あなたは、なぜ私の中にいるのですか?」
………はい?
た、多分意味深じゃ無いだろうから不純な考えは置いといて。
私の中?
私の「部屋の」中、いやこんな部屋は無いな。
「夢」?「世界」?「思考」?
うーん、未だ其方の方が部屋よりも真実味がある。
あれ、真実って何だっけ。
迷宮ばかりの迷探偵だからわかんねぇや。
真実は多分3つ。
取り敢えず、此処から上手く脱出を試みる必要がある。
作戦①
真実を話して出口を教えてもらう。
ん〜〜〜、信じてもらえるかなぁ?
いや、俺だったら絶対に信じないよなぁ。
作戦②
取り敢えず騙して此処に居座り、情報を得る。
うーん……
無難な気がするけど、後々が怖いかなぁ。
作戦③
人質にする。
はい、言ってみただけです。
捕まったら最後だし、これはリスクが高過ぎる。
よし、②で行こう。
「失礼致しました、ヴィオラ姫。私は皇帝閣下より姫様のサポートをする様に仕りました、侍女でございます。不自由な点が御座いましたら、どうぞお申し付け下さい。」
秘技「THE掌返し」
うん、我ながら雑な作戦だと思う。
だって、さっき姫様の事神様って間違えてんだもの。
礼儀も本職と比べれば天と地の差だろうし。
と言うか、言葉遣いとか大丈夫だろうか。
これは①にシフトするべきかな。
「まぁ!父上が!よろしくおねがいします、カツラギ。」
信じるのかよ。
このお姫様馬鹿なの?
いや、見た目10歳かそこらだと思うけど、純粋過ぎるでしょ。どんな教育をしたらこんなピュアな子が出来る訳?!
少しは変な虫が付かない様に、疑う事を身に付けさせた方が良いと思うけど?!
まぁ、騙されてくれたなら好都合。
此の儘情報を搾取してやろうじゃねぇか。
「では姫様。早速ですが……」
「…ーーあっ、もうこんな時間なのね。」
おーい、じょ〜ほ〜げ〜ん。
此の儘お姫様の侍女とか心臓幾らあっても足りないからさぁ?こっちは早々に此処から逃げ出したいんだよ。
大人しく話を聞いて情報を提示して下さいやがれ。
と考えて、ふとヴィオラの目線の先に目をやると、
あらびっくり。機械仕掛けの空が「チーン」と音を立てて夜になるではありませんか。
まるでオーブントースターで食パンが焼き上がるかの様な。
俺パンか米かって言われたらパン派なんだよね。
日本人が全員米派だと思うなよ。
は?
「ではカツラギ。私は行って来ますね。」
「え、あの、ちょ?」
何を考えたのか、急に身を翻し走り出すヴィオラ姫。
俺も急いで後を追う。
本棚の隙間を縫うように走る彼女をウォーキングかつスニーキングかつストーキングすれば、少し開けた場所に出る。
其処にはまず天蓋付きのお姫様ベットがあった。
白くて、可愛くかつ上品で。
一目で高級品だと分かるベット。
そしてその横には何も映っていない、弧120度状の大画面モニターが宙をふわふわと浮かんでいる。
のと、ホームシアター用なのか7.1chの高級コンボがモニターから少し離れた2人用ソファを囲む様に並べられていた。
ソファには小さなテーブルが横に備え付けられており、上には無駄に質の良いノートと華美な装飾付きの万年筆、あと、時代に似合わぬ白い黒電話。
ん、このノート落書きだらけじゃねぇか。
世界観おかしくね?
その謎の空間に迷う素振りを見せず飛び込み、其の儘ヴィオラはベットにダイブ。
束の間、彼女は寝息を立て始めてしまった。
「何が何だか分かんねぇな。」
俺は顔を痙攣らせるしかできない。
だって意味がわからないんだもの。
ん?
『もしもし、もしもし?』
7.1chスピーカーから女性の声がするぞ?
黒電話で答えるべき?
いや、妙な事はしない方が良いかな。
『ん、ん〜……』
お、おぉぉぉおおおおっ!!
ガ○ダム、大地にt…じゃなくて。
真っ暗だったモニターが、40歳前後の叔母さんドアップ画像に!
誰得?
なんとなく分かりましたぜ!
この世界はヴィオラ姫の夢…と言うか思考の世界なんだ。
背後の本棚は姫様の記憶。
寝る事で記憶の整理を行うって言うし、多分始め見た時に持ってた本は整理の途中の本。
俺が悠々とソファに座っている目の前のモニターが彼女の見ている視界。
ステレオが実際に聞いた音。
ノートは…あくまでも推測だけど、これがヴィオラが見てる「夢」なんじゃないかな?
パッと目を通したけど絵日記っぽいのもあるし。
…この黒電話なんだろ?
『姫様、お召替えの時間ですよ。』
『はい…』
おっと、視界っていうかモニターがブレるブレる。
あ、今度こそ立った…って言うか、歩く時すげぇ揺れるな。
うっわ、酔いそ。
しかし、ヴィオラの心の中かぁ…
あれ、俺此処から出れなくね?




