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6.

 (※ヘレン視点)


 私の心臓は、張り裂けそうなほど高鳴っていた。


 間違いは許されないこの状況、緊張するなというのは無理な話である。

 そんな状況の中、殿下は私に話を振ってきた。


「あの時のあれ、また食べたいな。君も、そう思うだろう?」


「ええ、そうですね。あれをきっかけに殿下とお話をすることができたのですから、あれはいわば、私たちの思い出の味です。私も時々思い出して、あれを食べたくなることがありますよ」


 私はあえて、具体的な料理名などを口に出さず、話を別の方へ持って行こうと模索していた。

 綱渡りのように緊張する会話だった。


「私たちの思い出の味か……、確かにそうだね。あの料理を食べると、私はいつも、初めて君に合った時のことを思い出すよ」


 殿下は嬉しそうな表情で言った。

 とりあえず、今のところは問題ないようだ。

 しかし、少しほっとして油断していた私は、ここで地雷を踏んでしまうのである。


「もうずいぶんと長い間、あの料理も食べていませんね。殿下がお話しされたので、私たちの思い出の味が、なんだか恋しくなってきちゃいました」


 何も考えずに口走った私のその言葉を聞いて、殿下は顔色を変えた。


「何を言っているんだ? 今週食べたばかりじゃないか? あれを食べたこと、もう忘れてしまったのかい?」


 殿下は私の顔を覗き込むようにして言った。


「あはは……、そうでしたね、うっかり忘れていました。そういえば、あれを食べたのは、今週でしたね。あぁ、本当にあれ、美味しかったですねぇ」


 私は自分で言いながら、気が気ではなかった。

 あれって、何?

 今週食べていたの?


「自分で思い出の味といいながら、それを今週食べたことを忘れていたのかい? 君、私たちが初めて会った時に食べていた料理を、本当に覚えているのか?」


 殿下は訝しむような表情で私に問いかけた。

 その表情を見て、私の額を流れる汗は勢いを増した。


「えっと……、あれですよね。はい、もちろん覚えていますよ。私たちが初めて出会った記念すべき日のことを、私が忘れるわけがありませんからね」


 私は苦笑いしながら言った。

 殿下は相変わらず、こちらを訝しむような表情で見ている。

 殿下と初めて会った時、殿下が何を食べていたのか……。

 それを答えない限り、殿下のこちらを見る表情は変わらないだろう。

 やっぱり、こうなってしまった……。


 私は、考えた。

 この状況を逃れる方法を。

 そして、あることを思い出した。


 そうだわ!

 私はお姉さまに成りすましているただの偽物だから、正解なんてわからないと思っていた。

 でも、そんなことはない。

 私はいつも、お姉さまと一緒にパーティに参加していた。

 つまり、殿下とお姉さまが出会った立食パーティには、私も参加していた。


 きっと、その時食べていた料理も、私は目撃しているはず。

 そうとわかれば、あとは簡単だ。

 その時のことを、思い出せばいいだけだわ!

 でも、それが一番難しかった……。


 あの時、殿下は何を食べていたの?

 何年も前のことなんて、思い出せないわ……。

 とりあえず、何とかしてヒントを得よう。

 回答権は一度しかない。

 一度でも間違えれば、成りすましている偽物だと疑われてしまうからだ。

 それだけは、避けなければならない。


「えっと……、殿下があの時食べていた料理って、あれですよね? あの……、パリッとした感じのやつでしたよね?」


 私は曖昧な感じのことを言って誤魔化しつつ、殿下からヒントを得ようと試みた。

 私のこの選択は、正しいのか、それとも間違っているのか。

 

 私は緊張と不安に支配されながら、殿下の次の言葉を待った……。

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