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13.

「失礼ですが……、私は、貴女がおかしくなってしまった、と今でも思っています」


 兵は、ようやく口を開いて、私にそう言ったのだった。

 はい?

 私が、おかしくなってしまった?

 えっと、それってつまり……。


 さっき、この部屋の中央で、大声でハキハキと朗読していたことを言っているの?

 え、その話、掘り返すの?

 触れずに流してくれる流れだったのに……。

 こうなったら致し方ない。

 私も最終手段をとるしか残された手はない。


「あの……、この牢獄から出られた暁には、言い値でいくらでも払いますので、大声で本を朗読していたことは、黙っていただけないでしょうか?」


 私は彼に懇願した。

 しかし、彼からは意外な言葉が返ってきた。


「……え、いや、あの……、そのことではありません。私が申し上げたのは、貴女が王宮に侵入しようとした件です。本当はあなたがエマ様で、殿下と婚約したのがヘレン様だというあなたの言葉は、とても信じられません。だって、そんなこと、普通に考えればあり得ませんよ……。殿下と婚約した姉に、貴女が嫉妬しておかしくなってしまったと考えるのが妥当です」

 

 あ、そっちのことね……。

 朗読の件を掘り返そうとしているのではないと分かり、私はほっとした。

 普通に考えればあり得ないって言われてもねぇ……、うちの家族は、普通じゃありませんから……。

 

 何度も私は説明したのに、誰にも信じてもらえなかった。

 だからこうして、獄中生活を余儀なくされているのだ。


「でも、今は少し、わからなくなりました……。どう考えても、貴女がおかしいと思っていますが、同時に、貴女の言葉を、少しは信じてみる価値があるのではないか、とも考えているのです。しかし、私はただの兵の一人に過ぎません。殿下の命令に背き、単独で調べるわけにはいかないのです……。私はいったい、どうすればいいのでしょうか?」


 彼はそう言って、私の表情を伺っていた。

 意外だった。

 まさか、私の言葉を、少しは信じてみようとしている人がいるなんて……。

 誰にも信じてもらえないと思っていたけれど、少なくともここに一人は、そのことで悩んでくれている人がいる。

 それだけでも、私にとっては嬉しかった。


「そうですね……、今は、何もしなくていいと思います」


 私は彼に答えた。

 そして、さらに続ける。


「私の言葉を信じようとしてくれているのは、本当に嬉しいです。でも、そのことで行動を起こして、ご自身の立場を悪くしないでください。今はただ、待っていればいいのです」


「待つ? いったい、何を待っていればいいんですか?」


「ヘレンがぼろを出すのを、待つのです。そもそも、彼女の計画には、最初から無理があるのです。いずれは綻びが生まれ、殿下も彼女のことを疑うことになるでしょう。殿下から調査の命令が下るその時に、あなたの力が必要なのです」


「わかりました! その時が来るまで、私も待っておくことにします。あの、どうも、ありがとうございました」


 兵は頭を下げて、去っていった。

 私は、思わず笑顔になっていた。

 全員が私のことを信じてくれていないわけではない。

 そのことがわかっただけでも、得るものがあった。


 あとは、ヘレンがぼろを出すのも待つだけ。

 殿下が彼女のことを疑えば、一斉に調査の手が及ぶ。

 そうなれば、ヘレンや両親の罪も、明るみに出る。

 そして、しかるべき罰が与えられる。


 私はその時が来るのを、この部屋で待っていればいいだけだ。

 私はまた、本の続きを読み始めた。

 今度は、声には出さなかった。

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