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10.

 (※ヘレン視点)


「私たちが初めて出会った時、殿下が食べていたのは、ゼリーのグラススイーツです」


 私は声を震わせながらも答えた。

 ぼんやりとした記憶だけれど、私はあの時、確かに見た……、ような気がする。

 立食パーティだから、グラススイーツがあるのも自然だ。

 ゼリーのグラススイーツなら、子供でも食べられる。

 殿下がそれを食べていて、お姉さまが「それはどこにあったのですか?」と殿下に尋ねていたところを、私は近くで見ていた、と思う。


 何年も前に記憶だから曖昧なので、いまいち自信が持てない。

 しかし、私はもう答えてしまった。

 あとはもう、正解であることを祈るくらいのことしかできない。

 

 数秒間の沈黙が流れる。

 私は恐る恐る、殿下の顔色を窺った。 

 殿下は、じっとこちらを見ている。

 その表情からは、私が言ったことが、正解なのか不正解なのか、読み取ることはできなかった。


 緊張が走る。

 不安な気持ちも段々と大きくなっていた。

 もし不正解なら、私がお姉さまに成りすました偽物だと見破られ、重罪人として処罰される。

 絶対に、そんな未来は訪れてほしくない。

 私は不安な気持ちでいっぱいになり、沈黙に耐えることができず、言葉を続けた。


「あの……、赤いゼリーで、上に小さなフルーツが乗っていたグラススイーツですよ。あれが、私たちが初めて出会った時、話すきっかけになった思い出の味です。さっきはうっかりしていましたが、私はきちんと覚えていますよ」


 私は微笑みを作ってこたえた。

 不安な気持ちを表に出さないように、自信のある表情で殿下の返答を待った。

 殿下はしばらくこちらを見ていたが、やがて口を開いた。


「その通りだよ。さっきは驚いたけれど、どうやらきちんと覚えていたみたいだね」


 殿下は微笑みながら言った。

 私はその表情を見て、自然に笑顔になっていた。

 あぁ……、本当によかったわ。

 何とか思い出して、正解を導くことができた。

 

 安堵するというのは、こういうことなのか、ということを私は実感していた。

 ここ最近で、一番うれしい出来事と言っても過言ではない。

 一時は殿下との幸せな生活が崩壊するのではないかと危惧したけれど、何とか乗り越えることができた。

 本当に、よかった……。


 地獄のように苦しい時間は終わりを告げ、また殿下との幸せな時間が戻ってきた。

 私はそのことに、心の底からほっとしていた。

 しかし、この時の私はまだ気づいていなかった。


 これは地獄の終わりではなく、始まりに過ぎなかったということを……。

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