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「しかし、外に出るって言ってもなぁ。行きたい場所なんて限られてるし……」
俺はベッドに寝転び、あくびをした。
「望月氏。普段、君は何をしてるなりか?」
望月氏って、俺のことか!?何の前触れもなく急に呼び方変わったな。ビックリしつつ、
「普段は、だいたい家にいる」
「それは分かってるなり。それ以外に、何かないなりか?」
「それ以外?んー、そうだなぁ。たまに本屋に行くかな。ゲームの攻略本買う時とか、ニュートン立ち読みしたい時に。高いんだよな、ニュートン」
「ゲームやアニメグッズには糸目をつけないのに、知識欲を満たすための金銭はケチるなりか、望月氏は」
「倹約家と言ってほしいな。欲しい物全てに金を注ぎ込めるほど、俺はリッチじゃない」
「あれだけオタクグッズを揃えた人間の言葉とは思えないなり。望月氏は『矛盾』という単語を擬人化させたような存在なりね」
というか、タマは俺のことを望月氏と呼ぶことに決めたみたいだ。さりげなく変えてきたな。まぁ、別にいいんだけど、学校には「~氏」なんて呼び方する人いなかったから変な感じだ。
俺の行動範囲が狭いと知りガッカリしたのか、タマは最終手段と思われる意見を出した。
「望月氏。ミーを買ったお店に通うというのはどうなりか?」
「末森さんの店!?あそこって、通うような店なのか?雑貨屋だってことは見てて分かったけど、店内はちょっと怪しい雰囲気だったし、しょっちゅう買うような物は置いてなかったし……」
それに、あの店にはテーブル席がひとつしかなかった。末森と名乗るおじいさんがオムライスを食べさせてくれたけど、喫茶店ではないみたいだし。その証拠に、テーブルの上にはカフェとかによくあるナプキンや塩、角砂糖入りのビンは置いてなかった。
「店の名前、『言魂』だっけ、あそこって何やってる店なんだ?っていうか、今さらな質問だけど、タマは、あの店で売られるのを待ちつつ言魂使いの登場を待ってたみたいなこと言ってたけど、いつからあの店にいたの?」
「それは、もう一度あのお店に行けば分かるなりよ。望月氏の疑問も解決するなり。多分ね」
翌日の朝。
夜勤から帰った母さんが眠りについた時間を見計らい、俺とタマは『言魂』に向かった。
変装はせず、普通のいでたちで。末森さんは俺の素の格好を知ってるから、飾る必要はないだろう。
マミさんのトークショーへ向かう時に比べたら、気持ちはだいぶ落ち着いていた。
タマとの会話が出来るようにと思い、パーカーのフード部分にスマホを入れて出かけようとしたら、タマに止められた。
「ミーは、君以外の人間に正体を知られてはならないなり。だから外ではあくまで“ただのストラップ”。望月氏の私物扱いでオッケーなりよ」
「そうか?じゃあ、スマホと一緒にバッグにしまっとくぞ?」
「いや、それは遠慮するなり!ミーは、窮屈な場所は苦手なりよ。スマホとやらはポケットにでも入れて、ミーを外気にさらしてほしいなり」
「分かったよ」
スマホにつながれてるってだけで充分窮屈そうだが、そこは大丈夫なんだな。もはや、タマは小動物みたいだ。バッグの中はたしかに暗くて狭そうだもんな。タマのことが、リスとかハムスターみたいに思えてくる。
一度しか行ったことのない場所。地図もなくたどり着けるのか心配だったけど、記憶をたどってなんとか『言魂』に到着した。
やっぱり、店の周辺は静かで、人の気配もなかった。ただ、昨日と違う点がひとつ、店は営業中だった。
「今日は開いてるんだな」
昨日閉じていたカーテンはすっきりまとめられ、いつでも入って下さいと言うように、店内から柔らかく明るい光がこぼれている。
「これって、入ってもいいってことかなぁ?」
スマホにぶら下がるタマに尋ねたが、返事はない。外にいる限り、ストラップのフリを貫くつもりらしい。家を出る前まではあんなにしゃべってたのにね。
ややもの寂しい気持ちで、俺は『言魂』の扉を開いた。




