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マミさんは、見た感じ優しそうな人だ。声にも、彼女の感性がにじみ出ているように感じる。
けれど、彼女だって若い女性だ。
声優として活躍するマミさんにとって、ファンの応援は励みになるだろう。でもそれは、あくまで目に見えない相手だからだ。
いざファンと対面したらガッカリ……。マミさんだってひとりの人間なのだから、好ましくないファン相手にそういうことを思ったとしても何の不思議もない。
誰にだって、苦手なタイプはいるし、生理的に受け付けない相手もいる。当たり前のことだ。
問題は、俺がマミさんのファンだということ。
マミさんが誰を見て何を思おうが、自由だ。外野が口出しする資格などない。けれど!握手会で彼女に拒否反応を示されてしまったら、俺は生きていけない……!
それこそ、本気で自殺を思案し、血走った目で自殺の方法をネットで検索するだろう。今の俺にとって、マミさんの存在はそれくらい大きなものなのだ。
そもそも、なぜ、こんなチケットが俺なんかに届くんだ!普通のマミさんファンにとっては嬉しいプレゼントかもしれないが、俺にとっては、死への直通列車用片道切符にしか見えない。
封筒の外側をよく見てみると、毎月購読しているアニメ情報雑誌の名前が印刷されている。ということは――!
思い出した。
二ヶ月前。マミさんのファンになりたてだった俺は、雑誌に載ったこの企画を見て、つい……。
『マミのスペシャルトークショー参加チケット+握手会整理券! 幸運を手に入れられるのは3名のみ☆』
そんな煽り文句につられて、応募してしまったんだ。
当たるなんてこれっぽっちも思ってなかったし、どうせ外れるに決まってる、と、ダメ元だった。当選するのは3人だけだし、マミさんのファンは多い。日本のアニメファンの大半がマミさんを支持していると言われている。
応募者が殺到するのは目に見えていたから、俺も深く考えずに応募なんかしてしまえたのだ。
本来、トークショーは有料参加するものであり、握手会はそのおまけでしかない。ファンサービスのようなものだ。
それが、こんなにアッサリ当選してしまったのだから、奇跡としか言い様がない。
なぜ、もっと爽やかなファンの元に届かなかった、チケットよ……。
今回のことに限らず、俺は、昔から、低い確率の中から当たりを引き当てることが多かった。
ギャルゲーで好みのコのルートは必ずハッピーエンドで攻略できるし(そういうコに限って、難易度が超高い)、昔、商店街の宝くじで海外旅行を当てたこともある。運がいいのかなぁ。
他人には羨ましがられるけど、本人は今、引きこもり生活に身をおいているので、天性の強運ではないんだろう。
しかし、どうしたものかな、握手会――。
俺は大歓迎だし、これ以上の喜びはないんだが、俺ごときがマミさんの手に触れるなんておこがましい。
部活や仕事、何でもいい、毎日何かを頑張ってる人がマミさんの握手会に行くのは全然いいと思う。でも、日頃何の苦労もせず楽ばかりしてる俺が行くのは、バチ当たりというか……。
マミさんにズボラな格好を見られたくないっていうのも本当だけど、一番の理由はそれだ。尊敬する相手に堂々と会えない自分自身が、けっこうつらい。
チケット、どうしよう。行く気がないのに持っていても仕方ないよな。未成年だからオークションサイトで売ることもできない。
結局、その日は答えが出ないまま、眠りにつくことに。
母さんが夜勤に行くのを見送った後、適当に夕食と風呂を済ませ、自室のベッドに寝そべる。
スマホ片手に引きこもりについて調べているうちに、まぶたは重くなった。
怠け者。
働け。
人生の負け組。
やるべきことを放棄した、いくじなし。
ネット上に書かれた、引きこもりに対する世間の評価は冷ややかだ。
仕方ない、と、自分でも納得してしまう。
中には、優しい意見を言い、理解を示してくれる人もいるが、素直に信じられなかった。
自分に無関係な問題だから楽観視できるんじゃないの?と、思ってしまう。
実際に、身内や親しい人が引きこもりになったら、そういう人達はどんな気持ちになるんだろう。同じように、責めたり、理解したりできるんだろうか?




