不死(しねず)の国
病気や怪我等の不慮ではなく、天寿を全うしてこの世から亡くなる。
そんな願いは、誰しもが持っているのではないだろうか。
誰しも死ぬのは怖い。
私もそう思う。
しかし、私はあの国の出来事がどうしようもなく頭に焼き付いて離れない。
* * * * *
私の立ち寄ったとある国には珍しい法律があった。その法律とは、死というものを禁止されているである。
そんな法律は無茶ぶりもいい所だと思われるだろう。
ところが、この国には異常とも思える医療技術を持っており、どんな重症も重病もたちどころに直してしまい、基本的には寿命以外で命が尽きることはない。
私は取材と称して、その国一番の医療施設を訪問していた。
「わたし達の国を旅人さんが訪れたのはこれで十度目になります。前に来たのが十年前なので久しぶりです。この施設のことを存分に紹介しますからその分、旅人さんのお話に期待させてくださいよ」
私はその施設の院長に連れられて施設を案内されていた。
院長はこの国でも最新の医療機器の数々を、素人の私にもよく分かる様に適切で噛み砕いた説明でしてくれたので大いに助かった。
院長は案内の最後として、大きな鉄板で塞がれた今まで巡った中でもとりわけ厳重そうな場所に連れてきてくれました。
「本来ならこの場所は関係者でもごく一部を除いて立ち入り禁止なのですがね。他の国へ我が国の医療技術凄さを旅人さんが教えてくださいますから特別ですよ」
院長は胸ポケットから一枚の黄色い札を取り出すと、扉に備え付けられた細い隙間にその札を通した。
すると、重たい鉄板が上へと吊り上げられて向こう側にあった空間を開いてくれた。
「旅人さんならこの仕掛けを驚いてくれると思ったんですが落ち着いているんですね。少し意外です」
「こうして旅をしていると驚くことばかりなので、場馴れしているだけですよ。以前にも、似たようなものがあった国がありました」
機械が進んだ国ではよく見かけた光景だ。確か前の国では札の事をカードキーって読んでいたっけかな。
「これがわたしどもの国で人が死なない最大の秘密です」
そんな扉も開き切り、部屋の中へと進んでいくとそこには沢山の銀色の液体の入った注射器が保管されていた。
もしかして水銀だろうか? いや、そんなハズはないか。
「この注射器たちの中に入っている銀色の液体は一体?」
正体を知りたくて院長に尋ねてみる。
「ふふふ、この銀色のものこそが秘密なのです。お答えしましょう。
まず、液体が銀色なのではありません。液体に入れている物こそが銀色でありメインなのです。
その銀色のものの一つ一つは、目には見えない小さな機械人形なのです。我々は『ナノマシン』と呼んでいます。
このナノマシンを人の体内にあらかじめ入れておくことで、体内から治療を施してくれたり、万が一の場合に生命維持装置の代わりを行ってくれます。
このナノマシンによって手遅れになるまで病状が進行している様な患者はなくなり、怪我をしてから手術を施せば助かるまでの時間が大幅に伸びました。
自分で言うのもなんですが、この国の医療はとても優秀なので誰もが寿命まで生きますよ」
「それは素晴らしい事ですね。天寿全うは良い事です」
「そうでしょう。この国の素晴らしさを旅人さんには存分に伝えて頂きたいです……おや?」
――!
おおきなベルの音が鳴り響き、通路脇にある機会が赤く明滅する。
なにが起こったんだ? なんとなくこれが非常事態なの事はよく分かった。
「少々お待ちくださいね。
――また、あの患者か。
――丁度近くにいるから患者を出してくれ。
――ああ、スグに準備だ」
院長は赤く明滅していた機械に近寄って、遠くの誰かと連絡を取っているようだ。
院長はその後もいくつか喋り、通信が終わると院長は私の方を向いた。
「ごめんなさいねえ。急患が入って私の方からのこれから先の説明はできそうにないようだ。私に代わって副院長が説明をしてくれるそうだから、旅人さんはそのまままでよろしいですよ」
ガラガラと通路の方から車輪の回る音が近づいてくる。
その音が部屋の前に院長さんは音のする方へと近づいて去って行った。
車輪の音が部屋の前を通り過ぎた時、担架に乗って運ばれてゆく人の姿が一瞬だがハッキリと見えた。
あの時の事は一生忘れられそうにない。
あんなになるまで生きたいと、私にはどうしても思えない。
それからしばらく調べて分かったことだがこの国、私の知る限りもっとも自殺の多い国である。
健康なうちに死ねるのが幸せなのか、はたまた死んだような生活を送ってまで延命するのが幸せなのか。あくまで一個人の意見としてだと、尊厳死は認めて欲しいと思っている。




