クォッケンポロロの五歳のお祝い
私がその国に辿りついたとき、珍妙な生物を至る所で目にした。
パッとした見た目は鶏なのだが、大きさはまちまちで小さいのは猫から、大きいのは仔馬くらいの大きさまで、頭部に雄鶏の持つ鶏冠の様なもの、胴体には派手な色をした飾り羽のついた翼、前脚二本と後ろ脚二本の計四本で四足歩行をしていて、その脚は鳥類とは思えない太さがある。
「すみません。あなたの連れているその動物は何というのでしょうか?」
私は、その動物を連れて散歩していた男性の一人に声をかけて、その動物の事を聞いてみた。
「この国じゃ誰もが知っているこのクォッケンポロロの事を尋ねるなんて。もしかしなくても、君は旅人かい?」
「はい」
私は男の問いに短く答えた
「やっぱり。何十年ぶりだろう、この国に旅人が来ていたなんて。境界の外からやってくるからどんなのだろうと思ったけど……へぇ、意外と見た目じゃ分からないものだなあ」
男は興味深々な目で私を見つめた。
異邦人なんて精々同じ『境界』内の隣国の人間しかやってこないのが普通だ。
限られた場所で生きることを強いるこの世界において、境界を越えて他の国を巡ることが出来る旅人はそう多くない。
私自身、かれこれ旅を続けて七年以上経つが同業者と出会ったのは、たったの五人しかいない。
しかし、これでも私は旅人の中では出会った数は多い方らしいのだから、この世界の広さに恐れ入る。
私は男が動物のことをクォッケンポロロと呼んでいたのをおもいだす。
「その動物の名前はクォッケンポロロっていうんですか」
「そうだった、この動物のことを聞いていたね。そうだよ、滅多に鳴かないコイツらの鳴き声がそうだから名づけられたんだ」
「面白い名前だとおもったら。そういうことなんですか」
「そうだろう? 僕もそう思うよ」
男は笑って明るい顔を浮かべる。
「良ければ、お時間をとっていただいて、詳しいお話をして下さいませんか?」
「旅人さんとお話しができるなんて、こちらこそ歓迎です。丁度今日はお休みですし、僕は話を聞くついでに旅人さんの旅のお話も聞かせてくださればぜひ御一緒させてください」
「ええ、そのくらいお安いご用ですよ」
私の差し出がましい頼みに、男は気の良い返事をくれた。
話を教えてもらえる報酬に、こちらからも話を教えるのはよくあることで、なんの躊躇いもない。
私は、男の案内で男の行きつけだという喫茶店に入った。
男はコーヒーを、私は紅茶を頼み一服。
男は、私がゆっくりとしたペースで紅茶を三口含む間に、クォッケンポロロなる動物の事について教えてもらった。
クォッケンポロロとは、昔からこの国の人間に飼われてきた動物で、私は印象で鶏のようなものだと思っていたが、それは正くて鶏の仲間らしい
その起源は古く、千年以上も前に書かれたこの国最古の文献に載っているほど。そのため。いつからこの国の人たちがクォッケンポロロを飼いだしたのかはよく分かっていない。
この国では、その昔から子供が生まれたお祝いに産まれた子へその日に生まれたクオッケンポロロをプレゼントする風習があって、この国の人間なら誰もが一度はクォッケンポロロを飼った経験があるという。
そうして、子供とクォッケンポロロが元気で共に五歳を迎えた時、元気に育った子供とクォッケンポロロに親類縁者友人知人隣人とにかく沢山呼んで、盛大に祝うのだそうだ。
「どうですか? 丁度明日は、私の姪の所でそのお祝いがあるんです。旅人さん、ここであったのも何かの縁ですし、明日来てくれませんか?」
「ぜひ、参加させてください」
そのお祝いに興味が引かれた私にとって、男のお誘いは渡りに船、一つ返事で承諾した。
「それでは、素晴らしいお誘いをしてくださったお礼をします」
紅茶をゴクリと飲んで喉を潤し、私はゆっくりとした口調で男に語りだした。
空に浮かぶ巨大な蟲に乗った国の話、地下深くにあるのに地上よりも眩しい国の話、いつでも空が真っ暗で光を食べる人達の住む国の話、時々空から謎の生き物の骨が降ってくる国の話、等々。
それらの話を私は、話し始めた時は半分を残していた男のコーヒーカップの中身が無くなるまで続けた。
「今日は色んな話をしてくれて、ありがとう。お祝いの件だけど、明日の昼になったら、君の滞在している宿を訪ねて迎えに来るけどそれでいいかな」
「はい、それでお願いします。宿の人にも伝えて置きますね」
そうして私は宿へと帰り、その日の晩は宿自慢の美味しい地酒と自慢の鶏料理に舌鼓を打った後、部屋に戻ってきてから酔いが回ってきた私はその日を終えた。
翌日、言っていた通り、男は昼になるとやって来た。
男に引かれるまま付いて行くと、玄関先が賑わっている一軒家の前に着く。
「どうぞこちらへ」
玄関前からさらに奥へと男に案内されて付いて行くと、家の庭へと案内される。
その庭の一角には、大きな卓が並べられ、卓の上には所狭しと豪勢な料理が、食卓の周りには老若男女が所狭しと人が座っている。
上座と思われる場所を見やると、あの小さな女の子が今日の主役なのだろう、俯きがちにチョコンと座っていた。その両脇には女の子の両親と思わし男女が座っていた。
「兄さん、この人が昨日言っていた旅人さん」
「どうも、私がその人です。私が本日はこのような場所へのお招きありがとうございます」
男が私の紹介を先にしてくれたので、男の言葉の後に続く形で話を繋げて、今日の招待のお礼をする。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。こんな日は誰もが無礼講、遠慮はいらないよ。それと後で、旅の話を聞かせてくれないか」
女の子の隣で座っていた男の兄は、緊張など欠片も感じない親しい笑顔で接してくれた。
そんな男の兄の対応は、私の初めて人の家に入った時の緊張をほぐしてくれた。
「いいですよ」
隣にいた親切な人が私に酒を注いだグラスを持たせてくれたので、男の兄と乾杯を交わし、宴は始まった。
昨晩、宿屋で食べた料理と同じく卓上の料理は美味しいものだった。
料理と話を肴に、場は盛り上がって行ったのだが主役の女の子はどうも俯いたままで気分が低いままだ。
最初は集まった様々な人に人見知りをしているのかと思ったのだが、話しかけられてもそつなく受け答えしているので、どうやらそういった様子でないみたいだ。
「お嬢ちゃん。どうしてそんなに元気がないの?」
私は思い切った女の子に声をかけてみた。
「それがね。きのうのあさからポロがいないの。ばんのときはこえがしたからいたはずなのに」
「ポロ?」
「んとね。わたしがあかちゃんのときからずっといっしょだったの」
もしかして、ポロとはこの子のクォッケンポロロの名前なのだろうか。
そういえば、この子と同じぐらい肝心のクォッケンポロロの姿が見えないな。何処にいるのだろうか。
「あの、この子のポロ、ですか? 姿が見えないらしくて、娘さん元気ないみたいなんですけど」
私は女の子の父親である男の兄に、女の子のクォッケンポロロが何処なのか訊いてみた。
「その様子だと、旅人も気づいてないんですね。さっきからポロは目の前にあるんですよ」
そう言って男の兄は眼の前に並べられた料理を指さす。
「うわああああん!」
父親が料理に指をさしたことへの意味が分かったのだろう。女の子は泣き出してしまった。
「あらあら、泣いてしまったわね」
女の子の母親は鳴いている我が子を微笑ましく見つめる。その眼差しは事の様子を見ていた周囲の人も同じだった。
「俺にもああいうことがあったなぁ。あんときゃ涙が枯れてそれでも泣いていたなぁ」
「そうそう、それでお父さんとお母さんにいつまでもバカバカ言って」
「私の時は、驚き過ぎて半日固まっていたっておばさんから聞いた」
誰もが通ってきた道なのだろう。泣いた女の子の反応を見ていた周囲では、自分たちの昔話に花が咲く。
「ううっ、えぐ、えぐ、うぅっえぐ」
「「「「ははは」」」」」
泣き過ぎるあまり引き攣りを起こす女の子と、それをみて微笑ましい笑い声をあげる周囲。
こうして五歳のお祝いは、幕を下ろしていった。
ちなみに、クォッケンポロロのから揚げは絶品だった。ごちそうさま。
【クォッケンポロロについて】
この国固有の鶏に近い生き物で、成長しきると体高が二メートルを超えることもある生物。
五年経つと食べ頃で、その時期を過ぎると肉質が固く筋張っていくのでまずい。そのため成長しきった個体を見かけることは殆どない。
非常に美味であるが、生育までに長い期間を要し、儲けにならないことから出回らない以前に、そもそも商売で取り扱われていない。
その為、実に九割が国民の一般家庭で飼育している御馳走。
この国古来からの風趣で、子供が生まれた家庭には、一羽のクォッケンポロロをプレゼントされる。
そして無病息災で共に五歳を迎えると、子供と御馳走が元気に育ったことを感謝してお祝いが催される。その際、クォッケンポロロは供されて、お祝いの日の御馳走になる。
国民の子供の実に九割がトラウマになりかける行事だが、乗り越えて「生きるために食べることは他の命を奪うこと」の心理を悟るらしい。……もしくは、以前よりも好き嫌いが激しくなる。
もっとも美味しいとされる食べ方は、小麦粉をまぶして揚げたものに甘酸っぱいタレをかける。
「境界」とか謎の単語が気になった人は次の話で、設定補完してるんで次話へ。




